25話:開戦
目の前に広がる見覚えのない大地。
深い森、広大な草原、霧が広がる沼地、燃え盛る火山という四つのフィールドと、その奥に聳え立つ堅牢な砦。
そして、空に浮かび上がるカウントダウン。
俺は大勢のプレイヤーたちと共に、特設のフィールドで戦争の開始を待っていた。
「いよいよ本番だ!作戦は事前に共有した通り。さあ……勝ちに行こう!」
拡声器か何かで増幅されたカナメの声を聞き、俺はゆっくりと息を吸い込む。
昂る気持ちを抑え、始まった後の動きを思い出す。
俺の動きは単純、まずは作戦通り拠点に突っ込んで、あとはまあ、その場の流れで。
そんな心を落ち着かせるためだけの確認を終えて。
ついに、その時がやってきた。
【10…9…8…】
カウントが一桁になり、空気がざわめく。
【7…6…5…4…】
カウントが進むにつれ、音が減っていく。
【3…2…1…】
隣のプレイヤーの息遣いさえも聞こえるほどに静まりかえる戦場。
それでいて莫大な熱量が、今か今かと解放の時を待ち侘びている。
そして……
【0】
カウントが0になると共に、拠点の周囲に貼られているバリアが溶けるように消え、プレイヤーたちが波のように溢れ出した。
「行くぞ!突っ込め!!!」
そんな誰のものともわからぬ叫びに答えるように俺も声をあげ、地面を蹴った。
それからすぐに現れた自陣の拠点を通り過ぎ、目指すのは敵の拠点。
作戦は簡単だ。
三組の攻撃隊が敵拠点を同時攻撃。
どこかが拠点を落とした時点でそこにテレポートし、速攻で四天王拠点を落とす。
言うは易し行うは難しってやつだが……まあ、俺らがミスしてもどこかで別働隊が動いている。
最終的に勝てばそれでオッケーだ。
もちろん、失敗する気はないけどな。
そんなことを考えているうちに、先頭が拠点へと辿り着いた。
まだ相手も拠点を占領できていないようで、俺たちはまだ閉められていない門の中へと一気に雪崩れ込む。
俺のように足が速いプレイヤーだけで突撃したからこそ可能な超速突撃。
拠点内は一気に乱戦へと変化した。
「お前ら早すぎんだろっ!?」
そんな声がどこからか聞こえてくる。
普通なら誰が敵で誰が味方かわからなくなるような大混戦。
だが俺たちはモンスターで、相手は人。
だからまあ、俺は手当たり次第に人を襲えば大丈夫ってことだ。
……言ってて怖いな?
いや、そんなことを言ってる場合じゃない。
俺も戦わないと。
俺は思考を切り替えて敵の足元に忍び寄り、影呑を使う。
発動するかは賭けだったが……影呑は俺の心配をよそに、鈍重そうな鎧を着込んだプレイヤーを一息で飲み込んだ。
敵も味方も、多分俺に気づいていない。
予想通りというべきか、運が良かったというべきか。
辺りで敵味方が入り混じる今、足元にまで注意を向けてるやつなんてそうはいない。
混戦は俺にとって、最高のシチュエーションだった。
仲間に隠れ、物陰に潜み、攻撃のエフェクトで視線を切り……
様々な方法で戦場に紛れ、俺は敵を喰らい続ける。
そして倒した数が両手の数では足りなくなった頃、誰かが声を上げる。
「おいみんな気をつけろ!足元に何かがいる……ぞ?」
俺に気づき、周囲への注意喚起を促すその声は、途中で詰まってしまう。
気がつけば辺りにはもう、彼の味方は残っていなかった。
残った敵を圧倒的な数の力で押し潰し、俺たちは拠点の中心"コアルーム"へと走る。
そして辿り着いただだっ広い部屋の中心に浮かぶ青い球。
あれを壊せば、拠点を手に入れられる。
「っしゃ仕上げだ!スキル溜まった奴を最優先、最速でぶっ壊せ!!」
そんな指示に従って、プレイヤーたちが入れ替わりながらコアにスキルを撃ち放つ。
そしてプレイヤーが一巡しようとする頃、コアが一際強い光を放ち、砕け散った。
次の瞬間新たなコアが出現し、視界に拠点を確保したことを知らせるアナウンスが流れる。
それを見た誰かが、簡潔な通達を陣営チャットに流した。
『拠点A奪取成功!』
そのチャットを見て、張り詰めていた気持ちが一気に緩んでいくのを感じる。
……やり切った。
どうやら他のプレイヤーたちも同じ気持ちのようで、安堵と充足感が混ざった笑みを浮かべているのが見える。
そんなことを感じた直後、コアルームに次々と光が灯った。
作戦通り、プレイヤーたちがこの拠点へと移動してきているのだ。
拠点にワープできるような便利機能ではなく、占領した拠点で蘇生できることを利用した、いわゆるデスルーラ。
使ってからしばらくその拠点で蘇生できなくなるデメリットもあるものの……俺たちは戦争開始10分程度で、敵の喉元へと牙を突き立てることに成功した。




