24話:集う闇陣営
「みんな来てくれてありがとう。今日は戦争に向けた作戦の共有と、交流会。後は配られたカードでわかるだろうけど、ビンゴをする予定。堅苦しい話はしないつもりだから……とにかく、楽しんでいってくれ!」
広いホールに設けられた壇上でそう言うのは、ギルド『フロンティア』のリーダー、カナメだ。
俺は今、戦争の決起集会に参加していた。
フロンティア主導で複数ギルドが協力して開催したイベントで、戦争関連だからかNPCまで関わっているので、ちょっと前のトーナメントと同じかそれ以上に盛り上がっている。
「それじゃあ、まずは作戦について」
カナメは壇上に浮かぶスクリーンに映像を映し、話を進める。
「基本は王道だ。小型拠点を確保して、バフ拠点を落とし、最後に本拠点を狙う。具体的な動きは陣営チャットの方で指示する予定だから、余裕がある時は忘れずに確認をしてほしい」
初めての戦争だからか、基本に忠実で、確実で……面白みのない作戦。
そんな印象が、次の言葉で塗り変わる。
「ただ、この作戦で全員を縛るつもりはない。闇陣営は……個性的だからね。全員の力を引き出せるような作戦は僕には思いつかなかったし、多分そんなものは存在しない」
会場にざわめきが広がる。
「だから、好きに動いてくれ。僕らの作戦に乗るもよし。乗らぬもよし。僕らのことを囮にしてくれたって構わない。各自、自分が一番力を発揮できるやり方を選んでほしい。それが僕らの、闇陣営の勝利に繋がるはずだ」
その言葉で、会場の空気がさらに変わった。
あのフロンティアが、ギルド連合が、自分たちを信頼している。
少なくとも俺には、そんな空気が会場に満ちていくように感じられた。
「さて、作戦共有はこれくらい。何か質問があったらこの後の時間で聞いてほしい。交流会に移る前に、もう一人話をしてくれる人がいるんだ」
カナメがそう言うと、会場の一角から突如として熱気が立ち上った。
「んじゃ、ちょっと話させてもらうぜ」
どこか懐かしい熱気と声。
視線を向けると、ゲーム初日に俺に戦争について教えてくれたイフリート、アグニスがそこにいた。
「今回の戦争は、お前らがメインだ。俺らも思いっきり参加したいところだが……普通にやっちゃお前らとは差がありすぎる」
その言葉でざわめいていた会場が静まりかえる。
「いや、貶してる訳じゃねえぞ?お前らは強い。ただ、ここで生きてきた時間が違いすぎるってだけだ」
アグニスを包む炎がゆらりと揺れ、空気が震える。
攻撃を受けてすらいないのにわかる、圧倒的な隔たり。
確かにこれは……ダメだ。
「だからまあ、俺らはボスになったり、お前らのサポートをしたり。そんな感じで参加することになる。主役は譲ってやる……負けるんじゃねえぞ?」
そう言ってアグニスはニヤリと笑った。
先ほどまでの重苦しさが消え、心に火が灯る。
ほんとこいつらは、やる気にさせるのが上手い。
「さて!」
カナメが手を叩く。
「ここからしばらくは交流会だ。とりあえずはビンゴの準備が終わるまでの間、好きなように楽しんでくれ!」
その言葉と共に、会場が一気に騒がしくなる。
プレイヤーと面と向かって話す機会なんてそうはないから、当然と言えば当然だ。
せっかくだから俺も誰かに話しかけてみようか。
そう思ったところで、ちょうど声がかけられた。
「トーナメント本戦に出てたミミックさんであっているかな?」
振り返ると、ローブの奥に怪しく光るランタンを湛えた人物が目に映る。
種族はなんだろうか……?
全く想像がつかない。
「そのミミックであってます。どうも、初めまして」
俺はそう言って影の手を伸ばす。
「ああ、すまない。名乗るのを忘れていたね。私は観測者の灯所属の灯司だ。よろしく頼むよ」
灯司さんはそう言って俺の手を取った。
「いきなりだが、君はどう動くつもりだい?私は君のようなトリックスターが、戦争の鍵を握っていると思っていてね」
まるで俺を見定めるかのように、ローブの奥に灯る炎が揺らめく。
「んー……楽しそうなところを適当に。ですかね」
誤魔化したわけではなく、純粋にそう思っている。
戦争なんて仰々しい名前だが、あくまでゲームのイベント。
とにかく楽しくできればそれでいい。
「はは、そうか。さすがトリックスターだ」
意味ありげに灯司さんが笑う。
「そりゃどうも……?ところで、灯司さんはどう動くつもりなんです?」
「私には戦闘能力がないからね、ここで戦う予定だよ」
灯司さんは頭を指さしながらそう言った。
作戦立案やら指示やら、その辺りをやるつもりなのだろう。
「それじゃあ、面白そうなところがあれば教えてください。飛んでいきますよ」
「そうか、それは心強い。いざとなったら頼らせてもらうよ」
俺の言葉を聞いて、ランタンに灯る炎が揺らめいた。
アーシェもだけど、こう言う人って何を考えてるのかよくわからないんだよな……
まあ、別にいいんだけどさ。
それから少し雑談をして灯司さんと別れたところで、ビンゴが始まった。
景品はギルド連合が集めた素材や装備、ゴールドなんかが並んでいる。
俺には価値がよくわからないが、周囲がざわついているからきっといいものなのだろう。
壇上では再びカナメが進行を行っており、次々に番号が読み上げられていく。
「まずは一つ目。番号は……二十三!」
……ないか。
周囲からは「あった!」「なかったー」「リーチ!」と言った声が聞こえてくる。
何か変な奴もいるが、声につられて俺も楽しくなってくる。
「二つ目は……八!」
お、あったあった。
再び会場から歓声や落胆の声が聞こえてくる。
「次は……四十八!あ、リーチはいいけど、ビンゴは揃った時だけにしてくれよー」
おちゃらけリーチくんにツッコミが入りつつ、ビンゴは進んでいく。
そしてついにその時がやってきた。
「ビンゴ!」
拍手と歓声が鳴り響く。
最初のビンゴ者が受け取ったのは、希少素材の詰め合わせ。
カナメ曰く、買おうとすれば数万ゴールドは必要らしい。
俺もこれに続こうと意気込んだが、結局俺がビンゴになる前に景品は枯れてしまった。
残念だが……それでも、楽しい時間だった。
次にこの熱量が向かうのは、戦争だ。
どう考えたって、面白くないわけがない。
ああ……楽しみだ。




