23話:配達と迷い猫
「あー……いい天気だ」
遺跡探索の翌日、とりあえずログインしたはいいがやりたいことが思いつかなかった俺は、一人街で空を見上げていた。
ゲームを始めてからしばらく経ったが、思い返せば完全に自由な時間はこれが初めてかもしれない。
借金返済にトーナメントに遺跡探索……
我ながら濃い時間を過ごしたものだ。
何やら感慨深くなってくるが、後一週間と少しでこのゲームのメインイベント、戦争が始まる。
まだまだこれからが本番だ。
「とりあえず何かやるかぁ」
空を眺めるのにも飽きてきた俺は、そう呟いて軽く体を伸ばし、乗っていた段差から飛び降りる。
向かう先は魔物組合。
あそこに行けば何かいい依頼があるだろう。
そんな漠然とした意識のまま、俺は相変わらず賑やかな通りへと歩き出した。
◆ ◆ ◆
魔物組合についた俺は、早速掲示板に貼られた依頼を眺めていく。
以前も見た素材採取やモンスター討伐の他に、いつの間にかフィールドボスの討伐やダンジョン制覇なんて依頼も追加されている。
どちらも面白そうではあるのだが、俺が惹かれたのはそれらとは毛色が違うものだった。
「荷物の配達依頼、か……」
街のあちこちを回ってアイテムを届けるだけの簡単なクエスト。
報酬も20ゴールドと安く、受けるメリットは正直ない。
だが、今日はなんとなくのんびりしたい気分だった。
「急ぎすぎも良くないしな」
ずっと全力で走り続けたらバテて終わりだ。
だから、たまにはのんびりと街を歩くだけの日があってもいいだろう。
俺はそう考えて紙を剥がし、カウンターへと持っていく。
そこには見知った顔のダークエルフ、エルミナさんがいた。
「こんにちはミミックさん、お久しぶりですね」
「お久しぶりです、エルミナさん。この依頼お願いします」
軽く挨拶を交わし、紙を手渡す。
そういえばエルミナさんと会うのは一週間ぶりぐらいだ。
最近はトーナメントやらなんやらで忙しかったからなぁ。
俺がそんなことを考えている間に、エルミナさんは手早く依頼の確認を終え、確認作業へと移る。
「今回のクエストは指定の場所への荷物の配送。報酬は20ゴールドですが、間違いありませんか?」
「はい、大丈夫です」
「では、荷物をお渡しするのでついてきてください」
そう言って案内されたのは以前俺がめちゃくちゃにした倉庫だった。
何やら申し訳ない気持ちが蘇ってくる。
過去の過ちに身悶えする俺をよそに、エルミナさんは棚からいくつかの箱を取って俺へと手渡した。
「こちらが配達物です。場所はこちらの地図に書いてありますので」
「あ、ありがとうございます」
受け取った箱を貪納にしまい、地図を眺める。
地図には街の道が細かく記されており、あまり街を探索していない俺でも迷うことはなさそうだった。
問題なく依頼を達成できそうだと頷く俺に、エルミナさんが声をかける。
「それとミミックさん、この依頼とは関係ないのですが家出した猫を探している方がいまして。黒い毛並みで黄色い首輪をした猫を見かけたら教えていただけると助かります」
迷い猫か。
配達ついでに探すなら手間でもないしな。
「なるほど、わかりました。配達しながら探してみます」
そう答えると、エルミナさんがほっとしたように微笑んだ。
◆ ◆ ◆
「すみません、魔物組合で依頼を受けて配達にきましたー」
さて、最初にやってきたのは大通り沿いの武具店。
様々な形のモンスターに合わせたのであろう珍しい形の装備たちを眺めつつ、カウンターの奥にいる店員さんに声をかける。
「配達か、ありがとうね」
貪納から箱を出して渡し、サインをもらう。
これでここはよし。
「ありがとうございましたー」
店員さんに手を振って次の配達先へと向かう。
次は同じ通りの鍛冶屋、その次は裏路地の怪しい魔道具屋……
どこも行ったことのない店ばかりで、惹かれるものが沢山あった。
金欠で買えないのが辛いところだが……次の目標ができたと思えばいいことだ。
配達先だけでなく、通る街もどこか新鮮に見える。
道に点在する露店に客引きの声、街を行き交うモンスターたち。
猫を探しているからかもしれないが、いつもよりも多くのものが目に入り、それが楽しかった。
「やっぱり色々なところを歩くってのはいいよなぁ……」
そう呟いた時、視界の端に黒い何かが映った。
視線をそちらに移すと、モンスターたちの隙間を縫って黒い猫が歩いているのが見える。
「迷い猫……か?」
首輪は見えず確信は持てなかったが、俺はその毛並みを追って走り出す。
人通りが多く普通なら走れるような状況ではないが、俺には関係ない。
モンスターたちの足元を高速ですり抜け、俺は猫が消えた方向へと滑り寄る。
当たらずとも足元で何かが動いているのは流石に気づくようで、周囲の人の視線が俺へと集まり、ざわめきが広がる。
「でかいゴキブリっ!?」
足元を高速で滑るように動く物体。
確かに、ゴキブリかもしれな……
「いや違うからな!!」
はっきり否定したいところだが、今止まったら猫を逃してしまう。
一応否定はしておきつつも動きは止めず、猫を追い続ける。
そして見えた。
路地へと入っていくその猫の首輪には、確かに黄色い首輪がついていた。
「よし、発見!」
その言葉で俺に気づいたのだろうか。
猫はこちらを振り返り、滑り寄る俺を見つけると、驚いた顔をして路地裏へと走っていく。
「追いかけっこだな?逃すかっ!」
猫も早かったが、俺はSPD特化のモンスター。
地力が違う。
みるみるうちに距離が縮まり、猫は俺の影の手によって捉えられた。
「んーかわいいなぁ……さて、飼い主のとこに連れてってやるからな」
俺の手の中でこちらを威嚇するかわいい生き物にそう言ったところで、ふと気づく。
「どうやって運ぶかなぁ……」
このまま持ったままだと疲れるし、猫を誘拐しているやばい奴だと思われかねない。
となると……食べるしかないか。
アーシェにやったように猫を口の中に入れて運ぶ。
逃げられない程度に口を開けておけば周りにも気付かれないし、猫もそこまで怖くないだろう。
そう考えて猫を口の中に入れようと近づけたところで……
━━パリーン
鋭い爪が俺の蓋を裂き、それと同時に何かが割れたような音が響いた。
「……あ、これか」
遺跡で手に入れたアクセサリーが早速仕事をしてくれたらしい。
言っちゃ悪いが猫程度の攻撃にも反応するのは過保護なのか、俺が弱いだけなのか……
「っと今はそれじゃなくて……ちょっと我慢してくれよ」
アクセサリーも気になるが、今は猫が先だ。
俺は改めて猫を口の中に入れる。
猫は一瞬暴れる雰囲気を見せたが、俺の手が離れると落ち着いたのか口の中で丸くなった。
……とりあえず一安心だな。
それにしても最近は何かを口の中に入れる機会が多い。
「何かもっといい方法考えた方がいいのか……?」
そんな呟きを肯定するかのように、口の中から「にゃー」と鳴き声が聞こえてきた。




