15話:借金の危機
繭降る森から死に戻った後、俺は手に入れた素材を売りに魔物組合へとやってきていた。
予選があるからか、いつも賑やかな組合も今日はやけに静かだ。
「あ、ミミックさん。今日も買取ですか?」
カウンターに立つダークエルフ、エルミナさんが俺を見つけて声をかけてくる。
「はい、お願いします」
「今日はずいぶん少ないんですね。毎回これぐらいだと楽でいいんですが」
カウンターに置かれたアイテムを見て、エルミナさんがくすりと笑う。
俺は貪納のおかげで狩場に長期間籠れるから、他の人より持ち込み量が多いらしい。
やりすぎると最初のあれみたいなことにもなりかねないが……やっぱり貪納は偉大だ。
「今日の午前は予選に出ていたので」
苦笑まじりにそう言うと、エルミナさんから予想外の言葉が返ってきた。
「ああ、予選見ましたよ。惜しかったですね」
「え、あれ見れるんですか」
知らなかった……
落下影呑とか見られたら対策されるんじゃないか?
「月に一度のお祭りですからね。街のあちこちで見れるようになっているんですよ。ほら、あそこでも」
エルミナさんは建物内にある酒場を指差す。
そこにはホログラムのような画面が浮いており、予選の映像の録画が流れていた。
木の上でぼーっと戦いを眺めている俺の姿もバッチリ映っている。
どうしてそこを撮った。
「ミミックさんの戦い方だと、見られるのは辛いですよね。どうしようもないので、私からは頑張ってくださいとしか言えませんが……」
エルミナさんの心配はもっともだが、今の俺はシェイプシフター。
落下影呑を対策したぐらいじゃ俺を止めることはできない……はずだ。
「まあ、俺もようやく進化したので。なんとかしますよ」
「進化したんですね、おめでとうございます。見た目が変わっていないので気づきませんでした。……ではこれは私からのお祝いということで」
エルミナさんはそう言って新たにゴールドを取り出し、俺へと手渡す。
「予選、頑張ってくださいね」
「ありがとうございます、頑張ります!」
ニコリと微笑むエルミナさんに感謝を伝え、俺は魔物組合を出た。
まだ予選が始まるまでは時間がある。
少し、準備をしていこう。
◆ ◆ ◆
ということでやってきたのは木霊工房。
まあ、俺が他に店を知らないだけなんだが。
借金返済も終わったし、落ち着いたら街巡りもしてみたいものだ。
そんなことを思っていたら工房の奥から聞こえていたノミを叩く音が止み、代わりに怒号が飛んできた。
「おいミミック!なんだあの負け方は!」
鬼の形相をしたドルガルが、ノミを片手に工房から飛び出してくる。
自分でも嫌な負け方だったとは思うが……怖いんだって。
「いやぁ……目が離せなかったと言いますか……スミマセン」
「はぁ……次は勝てよ!んで、何しにきたんだ?」
鬼の形相が呆れ顔に変わった。
「実は、俺予選が終わった後に進化して」
「お前なんだってそのタイミングで……あれか?舐めプってやつか?」
「予選で進化の糸口が掴めたというか……いや本題はそこじゃなくて。見たものに変化できるようになったから、こう、何かいい感じのもの作ってもらえないかなと」
流石にそれだけでは伝わらないだろうと、簡単に《擬態》についての説明を続けた。
説明を聞き終わったところで、ドルガルが口元に手を当てる。
「なるほど、お前が欲しいのは擬態先ってわけか。だが、俺が作れるのは家具だけだぞ?」
「そう言えばここ家具店だったな」
思わずそんな言葉が口から漏れる。
その瞬間、ドルガルの表情が再び鬼のものへと変化した。
「おい、ミミック……遺言はそれでいいか?」
ノミを向け、じわじわと歩み寄ってくるドルガル。
「失言だった!ほんっとうに申し訳ないっ!」
「そう思うなら家具の一つでも買っていけ!」
店内を逃げ回る俺と、追いかけるドルガル。
勝者はまあ、俺だった。
SPD全振りを舐めるなよ!
……いやほんと、すまん。
「……で、結局どうすんだ?家具が擬態に向いてないってのは間違いねぇ。お前の改造をしたっていいんだ」
ドルガルはそう言うが、俺は何か、やり方があるような気がしていた。
進化と同じように、俺の固定観念から外れた場所に何かが……
家具は戦場には馴染まない。
だから、擬態には使えない。
ならば擬態に使わなければ……?
そこで俺はふと、あることを思いつく。
それを聞いたドルガルはニヤリと笑って言った。
「なるほど、面白いじゃねぇか。わかった作ってやる!値段はそうだな……予選で勝ったらチャラにしてやる」
「まじか!ありがとう!」
「ただし!」
ドルガルが指を突きつける。
「負けたら倍だ!」
「倍!?」
詳しい値段はわからないが、またしばらく借金地獄に陥ることは確実。
「じゃ、頑張れよ」
「頑張れよじゃないんだよ!」
手持ちのゴールドでは足りなかったのと、前回の予選でドルガルのゴールドを失ったことを引き合いに出され、結局俺は賭けを受けることになった。
なんにせよ、嫌な予感しかしない。




