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14話:繭降る森

「これがシェイプシフター……いや、進化した気がしない」


初めての進化はボタンを押したら、ピカッと光って終わりだった。

見た目も宝箱のままで全く変わっていない。

シェイプシフターなのに。

形を変えるものなのに。


見た目が変わっていなくても、スキルは変わっているだろう。

気を取り直してそう考え、スキルリストを開く。

予想通り、そこには新しいスキルが表示されていた。


《擬態》

自分の姿を、目視している対象に変える。

擬態できる大きさには下限と上限が存在する。

生物は対象にできない。


「んーと、見ているものに変化できるってことだよな」


他にステータスなども確認してみると、《影呑》と《貪納》が微妙に強化されていた。

強化内容はそれぞれ、クールダウンの軽減と展開範囲の拡大。

劇的に変わったわけではないが、ありがたい。


「それじゃ、早速使ってみますか」


まずは近くの花壇を見て、擬態を発動。

すると体がもやに包まれる。

3秒ほどでもやが晴れ、俺の体は完全に花壇になっていた。


「おおー花壇だ」


またガタガタ歩きに逆戻りかとも思ったが、移動に支障はなし。

体が変わっても宝箱の時の装備?刻印?の効果は発揮されるようだ。


「なるほどなるほど、なら次は……」


露天で売られているリンゴを見つけ擬態を使うが、何も起こらない。

どうやらリンゴは小さすぎたようだ。

その後も俺は目に付くものに擬態し続けた。


しばらく擬態をしてわかったことは、四つ。

一つ、擬態の最小値はサッカーボールぐらい、最大値は人間ぐらい。

二つ、擬態先が大きいほど、擬態にかかるまでの時間が長くなる。

三つ、擬態を解除すれば宝箱の姿に戻る。

そして最後に、擬態をしても物の性質までは得られない。


例えば、俺がボールになっても跳ねないし、剣になっても切れない。

触り心地も宝箱のまま。

シェイプシフターはその名の通り、形を変えることだけに特化したモンスターだった。


「ま、その場に紛れるだけなら性質も触り心地もいらないしな。それじゃあ次は、実戦だ!」


あらかたスキルの検証を終えた俺は、スキルを試すべくダンジョンへと足を運んだ。


◆ ◆ ◆


ということで、やってきたのは森林型ダンジョン『繭降る森』。

名前の通り虫型モンスター……蜘蛛が出てくるダンジョンで、その見た目からあまりプレイヤーが寄り付かない。

スキルのテストにはぴったりって訳だ。


「さて、何かいいものあるかなっと」


何か擬態できる大きさのものはないかと辺りを見渡す。

見つかったのは、木から垂れ下がる繭と、低木の二つ。


選ばれたのは、低木でした。

ってなわけで低木に視線を合わせ、《擬態》発動。

黒いもやが体を包み、体が低木へと変化する。


「よし、行きますか!」


俺は道から少し外れた森の中をゆっくりと移動していく。

道に敵の姿はない。


それもそのはず、このダンジョンで敵が湧くのはプレイヤーの存在がバレた時。

敵が道を通る姿や足音に気づけば、頭上に広がる繭から降ってくる。

つまり、今の俺は気づかれていない。


「けど、これじゃつまらないし……やるか」


隠密性能の確認は十分。

ならば、後は楽しむだけだ。


俺は近くに擬態できる木があることを確認して、擬態を解除する。

そして宝箱の姿のまま道に飛び出し、叫ぶ。


「っしゃこい!!」


その姿と声に反応して三つの繭が地面に落ち、蠢き始める。

俺は蜘蛛が繭から這い出す前に道の端へと移動し、低木に擬態。

これで準備は完了だ。


繭から顔を出した蜘蛛たちは周囲を見渡し、侵入者の姿を探す。

しかしその八つの目を持ってしても、俺の擬態には気づかない。

改めてシェイプシフターの擬態能力が高いことがわかる。


だがこのままでは、蜘蛛に近づけないし、近づいてこないので影呑が使えない。

久しぶりに"あの方法"を使うとしよう。


三匹の蜘蛛が完全に後ろを向いた瞬間を逃さず、貪納から石を取り出して一匹の蜘蛛目掛けて投げる。

石が当たった蜘蛛は、狙い通り俺がいる方向へと歩いてきた。


範囲に入れば後はこっちのものだ。


━━《影呑》


宝箱の時とは違い、木の根元から闇が迸り、蜘蛛を飲み込む。

何やらいつもと挙動が違うが、まあ倒せたからいいだろう。


残った蜘蛛たちはいつの間にか仲間が消えたことに驚いたのか、先ほどよりも激しく周囲を見渡す。

二匹に気づかれずに近づくことは難しそうだが……


「一匹だけならいけるだろ、多分」


小さくそう呟き、一匹が完全に俺とは反対の方向を向いたところで擬態を解除。

もう一匹の蜘蛛が突如現れた宝箱()に気づくが、遅い。

限界まで上げられた俺のSPDは、蜘蛛との距離を一瞬でゼロにし、振り返る隙を与えず影呑で飲み込む。


残り一匹。


残された蜘蛛の攻撃を避けて道の横にあった薮へと飛び込み、再び低木に擬態。

宝箱を探す蜘蛛からゆっくりと離れた後、手頃な枝を掴んで体を木の上へと持ち上げる。

ここまで来れば後はいつも通り、落下影呑で終了だ。


「いやー楽しいな。《擬態》のおかげでバレても逃げなくていいのが強すぎる。《影呑》、《貪納》と合わせてミミック三種の神器と呼ばせていただこう」


今までは見つかったら一度完全に逃げ切る必要があった。

逃げ切ったとしても、次の攻撃ができないことも多々あった。

だが今は、数秒視界から逃れればまた姿を変えて隠れられる。

大きな成長だった。


「それじゃ、サクッとボスも食べにいくとしますかね」


俺はそう言って、道の横を進んでいく。

それから5分ほどで、俺はボスの元へと辿り着いた。


中心に蜘蛛の巣が張り巡らされた巨大樹が生える薄暗い広場。

そしてその巣の上に3mはあるだろう巨体の大蜘蛛、クイーンスパイダーはいた。


「さて、どうするかな……せっかくだから、擬態した俺に近づかせたいものだけど……」


そう言いながら広間を眺めていると、あるものが目に入る。

巣に絡めとられた巨大な蝶だ。

おそらくはクイーンスパイダーの餌。

大きさは1mほど……死体が生物と認識されなければ、擬態可能だ。


かなり距離があるが、擬態を試す。

すると距離と条件、どちらも問題なかったようで俺の姿は蝶へと変わった。


「擬態は可能。なら後はあそこまで行くだけだ」


真っ直ぐ行ったら見つかるのは間違いない。

となるとやはり、上しかないだろう。

……俺の行動の大半が上からの落下になってきている気がする。

まあ、便利だしいいか。


俺は広場の周りに生えている木に登り、そこから巨大樹の枝へと飛び移る。

そして、蜘蛛の巣に眠る蝶の上まで移動して落下。

着地……着巣の直前に蝶の死体を貪納へと取り込むことも忘れない。

これで、入れ替わり成功だ。


一万ゴールドの軽い体とはいえ、落下の衝撃で蜘蛛の巣が揺れる。

そしてその揺れで、クイーンスパイダーがこちらを向いた。

獲物がまだ生きていると思ったのか、はたまた食事をしようと思ったのか。

どちらかはわからないが、クイーンスパイダーがゆっくりとこちらに近づき、口元の牙を俺に突き立てる、その直前。


━━《影呑》


蝶の死体(俺の体)から闇が滲み出し、捕食者だったはずの女王蜘蛛が一瞬で獲物へと変貌する。

いつもの通り、一切の抵抗を許さず、闇は女王蜘蛛を喰らい尽くした。


明らかに獲物……俺に何かがあるとは気づいていた。

それでも、巣に引っかかった獲物だからと油断していたのだろう。

それがなければ影呑を発動できていなかったかもしれない。

まあ、なんにせよ。


「俺の勝ちだぁあああっ!!!」


その叫びに反応して、巨大樹に吊るされていた繭たちが降ってくる。


「あ、やべ」


なんとか逃げ出そうと体を捩るが、体を絡めとる糸が逃げることを許さない。

そうして俺は、蜘蛛の大群に貪り喰らわれた。


……なんでこうなるかなぁ。

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― 新着の感想 ―
オチがついたなwww
いい感じだったのに最後の最期に詰めが甘い(呆れ)
ふむふむ、良いバランスですね! 願ったものに何でもなれるわけじゃなく、戦闘力もない、触られたらアウト。 この感じだと、全身甲冑に変身すれば人型になれそうと思ったのですが、なんとなく手足とか動かないイ…
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