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12話:予選開始

砂漠で自殺をした次の日。

ログインをすると、視界に見慣れないメールマークが表示されていた。

アーシェからのメッセージだ。


『まだ砂漠には監視者がいるようです。調査はイベントが終わってからにしましょう』


『了解。イベントが終わったら連絡する』


そう返信してメッセージを閉じる。

俺としてはまあいつでもいいんだが、せっかくだからイベントも楽しませてもらうとしよう。

その前に……借金を返しに行かないとだけどな。


通りを歩き、木霊工房の扉を開ける。

誰もいない店内を抜け、奥の工房へと足を運ぶ。

ほんといつ来ても閑古鳥が鳴いているんだよなぁ……


工房ではドルガルがノミを振い、何かの家具を作っていた。

どうやら扉を開いた音か何かで俺に気付いたようで、ドルガルは手を止めてこちらを振り向く。


「来たなミミック。で、昨日はいくら稼いだんだ?」


「昨日は900ゴールド……これで!完済だっ!!」


そう言ってゴールドが入った袋を手渡すと、ドルガルはそれを確認して満足そうに頷く。


「一週間であの額を稼ぐたぁなかなかやるじゃねぇか。で、次はどうする?《硬化》でも刻んどくか?」


「ちゃんと払えるようになったらまた来るよ……もう借金はこりごりだ」


もう借金生活はしたくない。

そう断ると、ドルガルが笑った。


「そりゃいい心がけだ。ところでお前、大会には出るのか?」


「大会……トーナメントなら出る予定だ。時間もできたし、面白そうだからな」


このタイミングならトーナメントのことだろうと考え、そう返す。


「それなら、ほれ」


ドルガルは先ほど渡した袋を俺へと投げ渡す。

首を傾げていると、ドルガルがニヤリと笑う。


「一時間後ぐらいに大会の予選が始まるんだがよ。そこで誰が本戦に進むか賭けができるんだ」


「……それとこれに何の関係が?」


袋を揺らしてそう言うと、ドルガルがさらに笑みを深める。


「自分にも賭けれるからよ、お前それ自分に賭けてこい」


なるほど、言いたいことはわかった。

だが、正直複数人相手に勝ち抜ける気はしない。


「……俺自分で言うのもなんだけど、弱いぞ?まともに攻撃受けたら一発で死ぬし」


「あ?お前俺が作った体に不備があるって言いてぇのか?」


「いや、そう言うわけじゃ……!ただ、俺のステータスがアレなだけで……」


慌ててそう否定する。


「なら勝ってこい!俺の作品は最高だってことを見せつけてやれ!」


……そう言われたらやるしかないだろう。

1万ゴールドの力、見せつけてやろうじゃないか!


「そこまで言われたら勝たないとな……行ってくる!」


何か乗せられた気もするが、まあいいだろう。


「おう、行ってこい!」


力強い声に背中を押される。


さあ、トーナメントの始まりだ!


◆ ◆ ◆


受付と賭けを済ませ広間に入ると、そこには既に数十人のプレイヤーが集まっていた。

おそらく半数以上が進化しているのだろう。

3mを超えるほどの巨体のオーガ、影のように黒いスライム、体に岩を纏ったゴブリン……

今まで見てきたモンスターたちとは違った、個性的な姿。

見ているだけで楽しくなってくる。


そんなことを考えていると、ステージ上に係員がやってきて手を叩いた。


「それではもう一度、予選の説明をさせていただきまーす!参加者の方はお集まりくださーい!」


俺を含め、プレイヤーたちがステージの前にずらりと並んだ。


「何度も聞いたと思うのでサラッと説明させていただきますねー。予選は一日二回、二日間開催します。各予選はA,B二つのブロックに分かれ、ブロックで最後まで生き残った8名が本戦進出です。また、予選は時間が合えば何度でも挑戦可能です。ということで以上でーす。開始までもうしばらくお待ちくださーい!」


受付でも既に聞いた説明。

係員もそれをわかっているのだろう。

淡々と必用事項を話し、素早く壇上から降りていった。


それにしても一発勝負じゃないっていうのはありがたいよな。

俺はまだ進化もできてないわけだし……

石とか水なんかは汎用性が高そうだけど、万能って訳じゃないし。

どこにでもあるものって、意外とないんだよな……


進化した周りのプレイヤーを眺めながらそんなことを思っていると、ついに時間がやってきた。

ざわついていた空間が、静まり返る。


「それでは、予選第一試合を開始します!」


静寂を破ったその言葉と共に、視界が黒く塗りつぶされていく。


次に視界が戻った時、そこは薄暗い森の中にいた。

俺は周囲を見渡して、ぼそりと呟く。


「ミミックがいたら、不自然だよなぁ……」


木製であるとはいえ人工物。

砂漠と同じように、違和感が凄まじい。

うまく紛れられたとしても、試合中に宝箱を漁るやつなんてそういないだろうが。


「それならまあ、奇襲するしか無いよな」


幸いここは森。

要は登り放題ってことだ。


手頃な木を見つけて、手をかける。

軽量化のおかげか、すんなりと枝の上まで体を持ち上げることができた。


枝葉に紛れて樹上を移動しつつ、下の様子を窺う。

見えたプレイヤーは三人。

うち二人は戦闘中で、もう一人はその様子を窺っている。

完全に戦闘に目を奪われており、周囲への警戒が疎かになっていることが見てとれた。


「あれはやれるな」


そう判断した俺はするすると木の枝を飛び移り、戦闘を観察するプレイヤーの真上まで移動する。

そしていつものように落下して……《影呑》。


着地と共に相手を飲み込み、即座に木に登って身を隠す。

どうやら戦闘中の二人は着地音には気づかなかったようで、そのまま戦闘を続けていた。


「それじゃ、漁夫の利継続と行きますか」


自分がミイラにならないよう周囲に気を配りつつも、二人の戦闘を見守る。

そして片方が倒れ、緊張が緩んだその瞬間。

再び頭上からの落下で影呑を決める。


これで2キル達成だ。

特にキル数が増えてもいいことはないが、ちょっと嬉しい。


「さて……どんどん行きますか」


再び木の上を移動していき、次に見つけたのは前衛2人、後衛2人の4人パーティー。


人数差もあり、いつもならスルーするところだが……

今日はどこか、調子がいい。

ここは一つ、ちょっかいをかけてみるとしますかね。


後衛のヒーラーっぽい方。

光っている精霊?に狙いを定め、落下影呑。


「てめ、待てっ!」


着地音で仲間が倒されたことに気づき、パーティーメンバーが怒号と共に俺を攻撃してくるが、ここには遮蔽物が多い。

視線を切るルートを選び、木の隙間を縫って移動すれば攻撃は当たらない。

速度も俺のほうが上。


「これが、一万ゴールドの力だっ!!」


パーティーを振り切ったところで、思わずそんな言葉が口から漏れる。

楽しい。

本当に予選を突破できるかもしれない。

そんな思いが胸から湧き上がってくる。


次なる獲物を求め、俺は再び樹上に隠れる。


━━予選は、まだまだ続く。

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― 新着の感想 ―
一撃必殺のロマンを追う姿が楽しい! 戦法が限定されてるから、目撃数と比例して弱体化してゆくので、複数を呑み込めると良いですねー。 光学迷彩とかで透明になれると最高ですが、さすがに強すぎますねw 地面…
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