歓声と愛称
用語解説:VAステージ
VA自体はバーチャルキャラクターなので3D-VR空間内でのライブも可能。
ただし、VAの場合はステージ毎も作り込む事が多いため、3Dプロジェクターを使った円形、もしくは半円形のステージでのライブが主流。
3Dプロジェクターを使用したステージはゴーグルが不要なため、不特定多数を相手にしたイベントでは管理上のメリットも多い。
1回目のステージ開始まであとわずか。
私とかすみはVAルームでフォーメーションの最終確認をしていた。
ステージ上では誰にも頼れないと思うと、否が応でもじわじわと緊張が高まってゆく。
でも嫌な感じはしない。
それは、ゲームを始める前のワクワクする感じに似ていた。
他の部員たちはモニターの接続や来校客の整理に駆り出され、部屋には他にヒロコだけ。
ヒロコはステージのコントロール担当なので最終チェックに余念が無い。
「き、緊張するよー」
かすみが呟く。
「安心して。イザとなったらKsにお願いしちゃおう。かすみが作ったVAなんだから、きっと大丈夫」
かすみの緩くウェーブする髪を軽く撫でる。
少し安心したのか、かすみはほっと溜息をついた。
そう、今までに何度もテストも練習もしてきた。
このステージはVA部の皆でつくったもの。
あとは‥私達がやるだけだ。
一言にVAステージと言っても、Aiの使い方には様々なパターンがある。
完全にAiにお任せの場合もあれば、歌、もしくはダンスのみを演者が行う場合、パートごとに担当が変わるなど、楽曲や状況に合わせて使い分けられる。
今回は開催するステージの広さがVAブースと大差ない事もあって、基本的に私達の動きをVAがトレースするという想定になっている。
もちろん、緊急の対応時は完全Ai動作も可能だ。
と、突然、開演前のステージを映していた目前の大型モニターに、スフィアがポンッと現れた。
「ひゃうっ??」
驚いたかすみは小さく声を上げた。
最近は少し慣れたけど、相変わらず心臓に悪い‥。
「お姉様!」
「はぁ、相変わらず神出鬼没ね、あんた」
「それほどでも‥。かすみさんもお疲れ様です」
ぺこり、とお辞儀をする。
「やっほー、スフィアちゃん」
コンソールを操作するヒロコも声をかける。
既に何度か通話に同席して、お互い顔馴染だ。
「もうすぐステージ始まるけど、何かあった?」
「いえ、一言、応援に‥って、すごい人気ですね」
スフィアにとって柊祭での騒ぎなど、手に取るように把握できるらしい。
「そうなのよ‥なぜか突然、観客が増えちゃって」
「流石はお姉様です! 私のアカウントでも凄く評判ですよ〜」
ニコニコと笑顔のスフィア。
「そう、ありがと‥って、スフィア、SNS‥やってるの??」
「もちろんですよ」
と言って(画面中で)スカートのポケットからスマホを取り出し見せる。
いや、アンタ、VAなのにSNSやってるの? それに、そのスマホ、一体どこのメーカー?
突っ込みたい気持ちを抑え、スフィアのスマホを見る。
画面越しに更にスフィアのスマホの画面を見ているはずだが、全く違和感は無い。
スフィアの書き込みのほとんどは、私やかすみの事だったり、AsとKsのステージをベタ褒めする内容もの。
スフィアに悪意は無いのだろうが、少し褒め過ぎな感じで、こそばゆい。
その書き込みには、
『Asさまの動画ありがたい』『お姉さま〜』『Ksちゃん萌え〜』
といった熱のこもったリプライが多数並んでいる。
と、スフィアのフォロワー数を見て驚く。
120万ユーザー?
ええ? VA部の公式より遥かに多い‥。
「スフィア、こ、これ‥」
と、フォロー数の所を指さす。
「お姉さまのステージが楽しみ過ぎて、つい、あちこちで宣伝しちゃいました。テヘッ」
ペロリ、とイタズラっぽく舌を出す。
いや、そのポーズは可愛いけど‥可愛いけど、今回の騒動の原因はコイツーっ!?
「そ、そう? 応援、宜しくね」
そう言うのが精一杯な私だった。
遂にステージの開始時間となった。
私とかすみは装備を付けてレコーディングブースに待機する。
「明日香ちゃん」
こちらを見つめたかすみも、覚悟が決まったのかキリッとした表情。
見合わせ、私は少し微笑んだ。
「うん、楽しもう!」
3・2・1‥リンクスタート!
ヒロコのコールと共にヘッドギア内の視界がサイバーパンクな廃墟へと変わる。
私達の衣装もそれに合わせたパンクな風の物へと。
私はホットパンツにチェーンをモチーフにしたアクセサリーを着け、かすみはミニスカートにシルバーメッシュをアレンジしたアクセサリーを付けたデザイン。
同時に会場の多目的ホールも照明がダウン。中央の3Dステージに同様の姿のAs、ksが浮かび上がる。
観客に歓声を挙げる隙すら与えず、激しいロック調のイントロがスタートする。
短めのイントロから即、Aサビ。
私メインでハイトーンの歌詞を続けざまに叩きつける。
そこからパート変わりで次はかすみがメインに。
少しテンポを落として、柔らかいボイスで切ない歌詞をメロウに。
そのまま流れでCパートが始まり、私が合流して、ハモリでサビを盛り上げる。
ここで間奏。
曲初めから声出しのタイミングが無かった観客は、ここで爆発的に歓声を挙げる。
それはホール内どころかホール外までも震えるほど。
間奏中にAsとKsは軽くポーズを決めながらステージ中央で合流、KsをAsが軽く抱きしめるポーズ。
つまり、ポスターの再現を演じてみる。
今度は客席から黄色い悲鳴にも似た歓声が湧いた。
そのままAsは観客席に投げキッス、Ksは手を振りながら元のポジションへ。
移動途中から曲は2度目のAメロに入り、そのままサビまで流す。
ここで一旦照明をKsに絞って切なくCパートを歌い上げ、最期に2人で合流してラスサビを紡ぐ。
歌い終わった瞬間にステージは暗転、一瞬遅れて観客の歓声と割れんばかりの拍手が会場にこだまする。
暫くして歓声が収まった所で会場の明かりを少し上げ、ステージ中央にAsとKsが進み出る。
「皆さん、今日は柊祭のVAステージにようこそ!」
Asが観客に語りかける。
「短い間ですが楽しんでねっ!」
Ksが続く。
ここで二人は声を揃える。
「私達は‥柊学園高等科、VA部所属のVAユニット‥‥“えれくとろんあーく”ですっ!」
『うぉぉぉっ!』
今日のイチの歓声が会場に轟いた。
プロモーションであえてユニット名に触れず、この場での発表は最大のインパクトを狙ったもの。
策士ヒロコの狙いは大正解らしかった。
ステージはその盛り上がりのまま、2曲目へと進んでゆく。
いかがでしたでしょうか?
物語も半ば位に成った感があります。
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