告知と盗難
用語解説:柊学園
都内の閑静な住宅地にある、小中高一貫の女子学園。
古くは華族の令嬢が通うお嬢様学校として有名だったが、近年は文武両道を旨とする進学校。
毎年秋に開催される学園祭時だけは学外男子も招待状を持っていれば入れる。
ただし、招待状は承認された学園関係者しか入手出来ないため、貴重。
遂に柊祭の当日。
私は準備のため早朝に登校した。
校門前で丁度、ヒロコやかすみ達と出会う。
「おふぁよー」
大きな欠伸を噛み潰しながら、ヒロコが皆に挨拶する。
昨日は深夜まで準備をしていたらしい。
私とかすみは今日のステージに備え、早めに帰らされてしまった。
校庭を抜け、VAルームへ向かう途中で突然ヒロコが声を上げる。
「あれっ、無くなってるっ!」
「ん、何が??」
忘れ物でもしたのだろうかと、聞き返した。
「ポスター。一昨日、貼り出したのに!」
「え? 勘違いじゃ」
「ううん、絶対にここに‥ほら、テープの跡もある」
校舎前の掲示板に走り寄り、指差す。
確かに、何かを貼ってあったテープ跡がある。
「! 他も見てくる」
と、ヒロコは校舎に駆け出す。
ポスターを張り出した場所が分からない私達は、VAルームで準備しながら待機する事にする。
数分後、ヒロコが息を切らし、VAルームに駆け込んできた。
「やられた! 全部無くなってる!」
「ええっ、本当に?」
戸惑う私達。
1枚なら偶然剥がれた、ということも有るだろう。
けど、全部となると‥。
「誰かが故意に剥がしたって事だよね?」
「うーん、やっぱり内容がヤバいんで、委員会に剥がされたんじゃない?」
私はヒロコに訊ねる。
ポスターの画像は、VA部の学園祭用看板の画をトリミングして使っている。
その看板と言うのが、例の露出度高め衣装のAsとKsか雰囲気出して抱き合っているというもの。
それを20m近い看板にするという。
よく実行委員会が許可したものだ。
当初はその看板を校門前に掲示予定だったが、断固拒否した。
そんな事をしたらご近所にまで、あられもない姿を晒してしまう‥。
「それは無いよ、ちゃんと実行委員会に内容確認してるから」
「だとすると、VA部に反対する部活が‥?」
今時、VAそのものに否定的な部活は無いと思う。
けれど、VA部と同じ時間帯にイベントを予定している部からすれば、この突然の人気は邪魔に思えるのかも。
「それは‥でも、全部剥がすなんて‥酷すぎじゃない?」
「私も違うと思いたいけど‥」
誰かが故意に剥がしたのは、間違い無い。
「ちょっと待って」
かすみがスマホの画面を見ながら、声を掛ける。
「これ‥」
差し出された画面は、フリーマーケットアプリ。
個人が不用品等を売り買いするのに、人気がある。
見ると、十点ほど見覚えのあるポスターが出品されている。こ、これは‥?
「これ、駅前に貼ったやつだ!」
ヒロコが声を上げる。
「ほら、ここに掲載許可のハンコが‥」
「これ、校内に貼ったやつ。余白に案内の矢印が書いてあるよぉ」
かすみも指をさす。
見ると出品者はそれぞれ違う。
『貴重! VAステージポスター』
『柊学園祭限定!』
それぞれに勝手な煽り文句が付いている。
更に見ると値段が‥。
「え、1万円?」
「こっちは8000円だよ」
しかも8000円のポスター何枚かは落札済み。
事態がよく分からなくなってきた。
学園や駅前に貼った、ただの告知ポスターがどうして8000円もの値段で売買されているのだろう。
ポスターは余分に印刷してあるから、まだ枚数に余裕はある。
取りに来てくれれば、いくらでも渡すのに‥?
「これは‥学外にポスターを欲しがる人が結構居るって事だね」
ヒロコが言った。
確かに、ここにポスターを貰いに来れるのは柊の生徒だけ。
さすがに学園祭期間以外は部外者侵入禁止だ。
「でも、学内の告知ポスターを剥がすなんて‥」
かすみが悲しそうに呟く。
「ここにポスターを貰いに来れば、顔を覚えられる。転売すれば正体がバレるから‥って事かな」
ヒロコが腕組をしながら呻く。
「ちょっと、マズい事に成りそうだよ、これは」
ヒロコの予感は的中した。
学園祭の開始3時間前だというのに、校門前に入場待ちの列ができ始めた。
列はみるみる長くなって行き、既に200m近く。
校庭の生け垣に沿って、1ブロック先の角まで続いている。
いくら柊祭が学園上げてのイベントと言っても、入場待ちが出来たなんて、聞いたことがない。
そもそも入場の先を争うような理由が無かった。
「まさか‥これ、全部入場待ち?」
校門の前まで様子を見に来た私達は愕然とした。
「うーん、捌ききれるかな、これは‥」
「む、無理じゃないかな‥」
かすみは既に腰が引けている。
と、入場待ち列の先頭近くの女子学生が突然声を上げ、こちらに向かって手を振る。
「明日香お姉様ーー!」
なぬーー?
「本当だ、お姉様!」
「こっちを向いて下さーい」
列のあちこちから、声がかかる。
並びが乱れ、一部が校内に入ろうとしてくる。
「れ、列を守って下さーい」
あわてて警備担当の生徒が押し留める。
な、なぜに学外の人まで”お姉様”呼び??
「と、ともかく、校内に戻ろ」
ヒロコの言葉に従い、校舎に戻ろうとする私達。
そこに実行委員の娘が慌てて駆け寄ってくる。
「す、すみません、当日券って何千枚準備していますかーー?」
想定外の言葉に私達は顔を見合わせた。
当日券‥って何?
「あなた達、エラいことしてくれたわね」
先程の娘に案内されて、急ぎ実行委員会室に来ると、
学園祭実行員長の柊のぞみ(ひいらぎのぞみ)は開口一番こう言った。
「今朝からVAステージの、当日券問い合わせがメール、メッセージで引っ切り無し。これじゃ学園祭の運営に影響するわよ」
額に皺を寄せ、言う。
「当日券って考えてなかったんですけど‥」
ヒロコが答える。
元々、VAのステージは部活としての活動成果発表であって、興行ではない。
利益は考えていないから、前売り券こそ販売したものの、その人達を優先で入場させたら、後は自由入場で入ってもらうつもりだった。
「あれ、全員がホールに入れると思う?」
委員長は窓の外、校門に並ぶ列を指した。
列は更に長くなり、既に3000人を超えるだろうか。
しかも現在も人数は増え続けている。
一方、VAステージを開催する多目的ホールは収容人数1000人ほど。
「「無理だよねぇ」」
私とかすみは顔を見合わせた。
結局、委員長との相談の結果、VAステージを2回から3回に増やし、12,16,19時に開催、各回の整理券を1000枚ずつ配布する事になった。
整理券の配布は実行委員に協力してもらう。
同時に校舎正面の屋外モニターをライブ・ビューイングに解放、入場できなかった人達はそちらで鑑賞してもらうようにする。
元々、ステージの様子はホール前のモニターで上映する予定だったから、それを屋外モニターにも回すように設定変更すれば、モニターの件は解決する。
「目が回りそうだよぉ〜」
VAルームに戻り、モニターの設定を調整しながらかすみがぼやく。
だが、私達にとってはこれからが本番だった。
いかがでしたか?
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