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えれくとろんあーく  作者: てんまる99


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6/22

時間は回る

用語説明「レコーディング」

ベースモーションを取り込み、リアルタイム学習で制御Aiを調整する事。

モーションを取り込む部分は、いわゆるモーションキャプチャと同じだが、以降の処理が異なる。

VAの場合、アーチストとしての意味合いから、昔からの「レコーディング」が使われる。

「お弁当、買ってきたよー」

コンビニで買った弁当を持って、私は深夜のVAルームの扉を開けた。

「ふぁーい」

部屋の奥、モニターに埋まった中から、かすみが答えた。

ふらつきながら立ち上がる。


怒涛のVA制作が始まった。

学園祭まであと4週間。

その間に制御Aiの調整、ステージからモーション、果てにはパンフレットの制作まで、やる事は山積みだ。


VA部の他のメンバーも手伝ってくれたが、特に制御Aiに関しては、特殊すぎてかすみが一人で行わねばならない。


かすみは昼休みと放課後はVAルームに籠りっきりで調整に明け暮れている。

帰宅はいつも深夜、週末は泊まり込みもしている。

VAルームの奥には簡易ベッドが置かれ、夜半に仮眠を取りながら作業する。

それは執念とも言えるレベル。

どうやらスフィアというライバルが登場したことで、かすみのやる気に火がついたらしい。


その脇でみなよんが、私のVAデーターを片っ端からかすみのVA用に変換。

こちらも相当の作業量のはずだが、みなよんは授業と平行でも楽々こなしている。

感服する私に、

「七尾さんの作ったデーターは完成度が高いから楽なのよ」

と、手早くコンソールを操作しながらみなよんは答えた。


私はと言えば、モーションの調整に合わせてブースに入ってモーションのレコーディングしたり、近くのコンビニまで夜食の買い出しに行ったり‥。

できる限りのサポートはしているものの、直接の制作には力を貸せないのがもどかしい。


再三、みなよんが私をVA部に勧誘したのを思い出す。

考えるにあれは、かすみが一人で苦労しているの知っていたからなのだろう。

そんな事も知らず、子供のような反発をしていた自分が情けない。

『とっとと入部しとけ、半年前の私!』

と、後悔したが、今は出来ることをするしかない。


「ね、眠い〜」

コンソールに向ったかすみが、目を擦りながらぼやく。

「大丈夫? 少し休む?」

「ううん、あと少しで一段落するから‥」

渡した蒸しタオルで顔を拭きながら答える、かすみ。

「VAの調整って、こんなに大変なんだね‥知らなかった」

「汎用データーだけで作れれば、簡単なんだけどね‥」

ちゅうぅ〜と、渡したビタミン入ゼリーのパウチをストローで吸いながら溜息をつく。

「でも、明日香ちゃんにそんなデーター使いたくないから」

「職人だねぇ‥って、私じゃなくて、Asでしょ!」


私とかすみ、それぞれをモデルベースに制作するVAはいつの間にか、部員の皆からAsあすちゃん、Ksかすちゃんと呼ばれている。


作業効率の観点から、容姿はほぼ私達のオリジナルのまま。

そのためか、故意か分からないが、かすみはAsの事を私の名前で呼ぶ事も多い。

時々かすみが、Asのデーターを見ながら、

『明日香ちゃん、可愛い‥』

と呟くのを見るけど‥‥。

ふ、深くは追求しない事にしよう。


「汎用のデーターは便利なんだけど‥」

溜息をつくかすみ。

「それだと無個性に成っちゃうって事だよね?」


VAの制御データーを作ると言っても、その莫大な全てを個人が0から作るのは不可能。

その為に、Aiの学習データベースには標準で使える汎用モーションが準備されている。

ただ、本来は汎用モーションは、例えば工場で使うヒューマノイドロボット等を想定している。

初期の段階で汎用モーションのみのダンス動画を見たが、単に音に合わせて動いているだけ。

とても魅力的、とは言い難い出来だった。


そこで各VA用にカスタマイズすることになる。

「うん、例えば‥」

かすみはコンソールの画面にAsが髪を掻き上げるモーションを表示する。

「明日香ちゃんだと‥時々これ、やるじゃない?」

「え?」

全然、意識して無かった。けど‥言われれば、時折そうしている気がする。


「これを、どんな時にこうするのか、頻度や回数、優先度を設定して、学習して、調整して、テストして‥」

「大変だよねぇ‥」

頷きつつ、かすみの観察眼に驚く。

普段から相当気を配っていなければ、できない芸当だ。



そんな日々が目まぐるしく過ぎてゆく。

学園祭まで日にちが迫り、もはや総力戦の状況。

VA部の皆も遅くまで残るようになってきた。

私達が作業を進めていると、VAルームの入り口から声がした。

「「こんばんわー、中等科スキー部でーす。お姉さまー」」

ドア口前に数人の中等科生徒がいた。


小中高一貫の柊学園ゆえ、学園祭は中等科も参加する。

多くの運動部は練習試合等を行うが、中には試合ができず模擬店で参加する運動部もある。

スキー部はその典型だった。

ただ、本来は中等科がこの時間に活動しているはずはない。恐らくこの娘達は隣の学生寮から来たのだろう。


「お、どうしたの?」

ドア口近くにいたヒロコが応じる。

「「差し入れです〜。スキー部特製の唐揚げ弁当はいかがですかー?」」

言われて、今日はちゃんとした食事をしていないことに気付く。

「「出来立てでーーす」」

私達の前にホカホカと湯気の立った弁当箱が置かれる。

途端に空腹感が目覚めてくる。

有り難く弁当箱を開けようとすると‥。

「あいや、待たれよ!」

ヒロコが制止した。


ドア口の生徒に向い尋ねる。

「これだけの物を、よもやタダではあるまい?」

「流石、御代官様、お目が高い」

「何が望みじゃ? 言ってみよ」

「あのー、ステージの前売り券など頂ければ充分で」

「うむ、苦しゅうない、持ってゆけ」

ヒロコは傍らのVAステージの前売り券を渡す。

中等科の娘達は喜びながら帰って行った。

‥‥え、なにこの茶番劇?


傍らのかすみに訊ねる。

「なんでわざわざ前売り券貰いに‥?」

「それは、学内販売分が完売しちゃったからだよ」

「本当?」

そこまで評判に成っているとは思わなかった。

「一部生徒の間では倍の値段で取引されてるらしいよ」

事情を知っているのか、ヒロコが言った。

「そ、そうなの?」

「ちょっと話題になってるみたい」

かすみは首をすくめて言った。



ブブー、ブブー。

スマホのコール音がなる。

集中して作業していれば、いつの間にか深夜。

皆は既に撤収したので、今は私とかすみだけ。

点けた画面に映っていたのは‥スフィアだった。

「お姉様、用意するとおっしゃったVAは‥?」

「ん、なんとかなりそう」

「良かったです。あ、そちらの方は‥七尾かすみさんですよね?」

画面越しに背後に居たかすみを見つける。

既に名前も知っているらしい。


「七尾かすみです。明日香ちゃんの幼馴染です」

かすみは画面を覗き込みながら自己紹介した。

「幼馴染?!」

スフィアが珍しく驚く。

「輪廻転生を繰り返しながら、幾度となく巡り合い、ついには時の果てまで運命を共にするという、幼馴染ですか!?」

私とかすみってそんな壮絶な関係だったっけ‥?

というか、そんなSFドラマみたいな関係、幼馴染の範疇から逸脱してない?

「そう、私と明日香ちゃんは、運命の赤い糸で結ばれているのです!」

腰に手を当て、自慢げに胸を張る、かすみ。

「ほ、本当ですか、お姉様?」

「えー、まぁ、幼馴染というのは嘘じゃないけど‥」


どう説明すればよいか悩んでいると、

「ちょっといいかな、スフィアちゃん」

かすみが割って入る。

「なんでしょう?」

「あなたは明日香ちゃんのこと、お姉様って呼んでるじゃない?」

どうやらかすみは、スフィアのお姉様呼びに文句があるようだ。


「はい、呼んでます」

「それって‥ずるくない?」

あれ? どういう意味?

「貴方が明日香ちゃんのこと『お姉様』と呼ぶなら、私にも明日香ちゃんを『お姉様』と呼ぶ、権利があると思うのっ」

「もちろんです。ぜひ、是非」

待って? 話の方向が違う気がする?

「だよね? スフィアちゃんとは気が合いそう」

「ハイ! もっと世界に明日香『お姉様』を広めましょう!」

「オッケー」

Vサインのかすみ。

「す、ストップ! そういうことは私に許可を取ってから!」

「「えー?」」

二人の声がハモる。

どうしてこんな短時間で、そこまでシンクロできるのよ。


この話題を進めるのはマズい。何とか別の話題を‥。

「そ、そう言えば、スフィアはどうやって私の番号を?」

「それは‥Aiデータベース最適化の中で、ですね‥」

どうして最適化と私の個人情報が関係するのだろう?

それ以前に、グローバルAiの最適化処理なんて、およそ個人が把握する内容ではない。

VAとて学習段階以外に、グローバルAiと直接接続することは無いと思う。

「スフィア、貴方、本当にVA?」

スフィアに以前から抱いていた疑問を投げる。

「あ、それ‥聞いちゃいます?」

スフィアはちょっとバツの悪そうな顔をして、舌をペロッっと出した。

エピソード6、追加しました。

この辺から世界観にも関係してきます。

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