可憐の決意
五話です。
キャラクターが動き出すと話を落ち着けるのが難しくなる面もありますね
翌日の放課後、私達はVAルームに集合した。
かすみに昨日の電話の内容を話す。
「ええっ? 明日香ちゃん、お姉さまって呼ばれたの?」
かすみは興味深げに私の顔を覗き込み、訊ねた。
「うん、突然に電話がかかってきて‥って、そう言えば、スフィアはどうやって私の番号知ったんだろ」
VAにとって電話をするのは、難易度が高いのか低いのか‥いまいち分からない。
「あー、確かに‥でもVAが電話することに比べたら、だよ」
それもそうだ。
電話そのものはグローバルネットワーク経由で可能としても、あの時のモーションや言葉はどうやって生成したのか。
それ以前に電話するという行為をAiが選択するようになった、思考はどう学習??
謎すぎる‥。
「あれ‥、もしかして私の個人情報、スフィアに筒抜け?」
「あり得るかも。でも‥」
かすみはちょっと、もじもじする。
「ん? 何?」
「お姉さま‥いいなぁ~。私も明日香ちゃんの事、お姉さまって呼んじゃダメ?」
潤んだ瞳で私を見る。
「だ、ダメ! 勘弁して! それは“超えてはいけない一線”の気がするから!」
あわてて拒否する。
「ええー」
小さくほほを膨らますかすみ。
じょ、冗談だよね?
「で、メンバーの追加は?」
「メンバー追加は‥無理だよぅ」
「だよねぇ‥。学園祭の準備もあるからね」
「うん‥どう考えても時間が…」
元々、半年近い期間で作ったデーターを1ヶ月で作り直そうとしている。
時間はかなり厳しいはず。
「例えば、他の学校からメンバーを借りるとかは?」
「普通だったら、それもありだけど‥でも‥」
もにょもにょと、かすみが言い淀む。
「VAが自分から電話してくるような、謎案件だもんねぇ」
私も頷く。
話だけ聞いたら、私でも遠慮する。
と言うか、ちょっと怖い。
ある意味、『現代版お菊人形』と言えなくもない。
「そこの女子! 困っているようねっ!!」
突然背後から声がかかる。
振り向いた先に居たのは‥。
「あ、みなよん!」
VA部の顧問、渡辺美奈代先生が腕組みをして立っていた。
昨日こそ休校ゆえ不在だったが、放課後は当然、顧問のみなよんがVAルームに居る。
「あじゃぁ‥」
ただでさえ厄介な話を、こともあろうに聞かれるとは‥。
と、
「綺羅さん、入部おめでとう!」
握手を求め、手を差し出してくるみなよん。
「え、入部は‥してませんけど?」
「それは駄目よ。 昨日、VA部の機材を使ったでしょう? 機材は部員のみの使用というのが規則よ」
「あの、それは、私が…」
慌ててかすみがフォローしようとする。
「機材を使った以上、明日香さんは入部を了承した、と判断するわ。私が」
腕組みしたまま、胸を反らすみなよん。
「あー、それは‥えー‥まぁ、それでいいや」
反論しようとして諦めた。
これだけ様々なことがあると、入部する、しないなんて些細な事に感じる。
と言うか、一昨日まで、なぜあんなに入部するのが嫌だったのだろう?
自分でも心境の変化に驚く。
「で、メンバーの追加に関してだけど…」
言いつつ、かすみを見やる、みなよん。
「居るじゃない、ここに」
と、かすみを指さす。
「ええええ~! わ、私は無理です」
かすみは手を前に突き出して断固拒否の構え。
「どうして?」
「だって、明日香ちゃんのデーター作るだけで手一杯だし‥」
「確かにそうね。 ですから、かすみさんのデーターは私が作りましょう」
「え、そんな事して良いんですか?」
私は訊ねる。
「別に大会に参加する訳ではないから、問題ありません」
断言する、みなよん。
「でも私、明日香ちゃんみたく可愛く無いし‥」
再びごねる、かすみ。
いやいや、学園一の愛されキャラが何を言ってるのだろう。
学園で100人にかすみの事を聞けば、100人が可愛いと言い、その内80人は『妹にしたい』と言うだろう(残り20人は『ペットにしたい』と言う)。
「まぁ、ぶっちゃけ私もかすみのVA姿は‥‥‥見てみたい、かな」
これは本音。どう考えても、ガサツな私よりかすみの方が魅力的だと思う。
「あ、明日香ちゃぁぁ~ん」
顔を真っ赤にしたかすみがこちらを振り向き、小さくイヤイヤをする。
‥そう言う所が小動物的で、めちゃめちゃ可愛い訳だが。
「わ、私、歌もダンスも苦手で‥転んじゃったり?」
「うむ、ドジっ子キャラ、イイね!」
先生はサムアップで強く頷く。
「でもでも~」
さらに首を振るかすみに、先生は一転してシリアスな表情で、
「では君は、明日香さんにだけ、責任を押し付けるのかな?」
と言った。
びくっ、と反応するかすみの背中。
「‥そ、それは‥‥‥」
かすみは僅かな逡巡の後、俯いていた顔を上げ、小さく、でもしっかりと、
「私、やります」
と答えた。
かすみが落ち着くのを待って、早速、ブースでのレコーディングを始めることにする。
なにせ時間が無い。
細かい調整は後日にしても、基礎データーを揃えるのが最優先になる。
とりあえず、衣装などは私が使ったものを、そのままかすみに転用する。
後々、みなよんが、かすみに合わせてカスタマイズしてくれるらしい。
衣装製作までできるとは‥渡辺先生、恐るべし。
みなよんはコンソールを手早く操作し、設定をかすみに合わせて変更する。
「先生、機材使えるんですね‥」
「何年、VA部の顧問やってると思うの? 当然でしょう」
言いながらも、かすみに細かい指示を出し、テキパキとレコーディング準備を進めてゆく。
敵に回すと怖いが、味方にすると心強い、みなよんだった。
昨日の私と同様、ヘッドギアをつけたかすみがレコーディングブースの中央に立つ。
「手順は分かってるわね? まずはステージで軽く動いてみましょう」
かすみへ指示するみなよん。
コンソールの画面表示が広い祭壇風のステージへと変わる。
『こんな風に見えるんだ‥』
かすみが声を漏らす。
当事者としての見え方は、作り手のそれとはまた違うのだろう。
かすみはふいに、
『きゃん!』
なにもない所でつまづく。
「大丈夫?」
『は、はい〜』
どうもVR空間中で歩こうとして、引っかかったようだ。
「ゆっくり動けば良いから、落ち着いて。衣装をセットするわよ」
『は、はい』
モニター画面中で、かすみの衣装が変化してゆく。
先日の私と同様、ギリシャ風のデザイン。
と、
『きゃああっ』
突然かすみが素っ頓狂な声を上げる。
「ど、どうしたの?」
『こ、この衣装、お尻が見えちゃうぅ。えっち!』
モニター越しにも判る位、もじもじと身をよじる、かすみ。
えっちって..昭和のギャグかな?
「その衣装、デザインしたのは貴方自身なんですけど」
モニター越しに声をかける。
『あ、明日香ちゃんがえっちなのは素敵だけど、わたしは駄目〜』
一体、何を言ってるのかな、この娘は?
「大丈夫、後でデーターで修正するから。続けて」
「わ、わかりましたぁ」
その後も、なんとかレコーディングを続けるかすみだった。
ちょっと短いですがここまで。
この先ももぼちぼち書いてゆこうと思います




