光は囁く
第四話、アップします。
登場人物が動き始めました
かすみと色々話したが、やはり素人の私たちには、分からない事が多すぎた。
一旦、頭を整理しようという事で解散し、帰宅する。
玄関から自室に向かう途中のリビングには、珍しく母親が居た。
「ただいま。今日は早い‥ね」
「あら、おかえりなさい。 まだシステムが正常に戻らなくて。仕方ないから切り上げて来たわ」
微妙によそよそしい会話。
昔はもっと自然に話せていたと思うけれど‥忘れてしまった。
母親は小さな芸能事務所を経営している。
VAについては否定的な立場で、それゆえ事務所では所属するのが生身のアイドルのみ、という今時珍しい特徴を持っている。
仕事柄、色々付き合いやトラブルもあるらしく、いつもは日にちが変わる頃に帰ってくる。
今日は大規模障害の影響で、諸々の予定が立たなく成り、帰宅したらしい。
「ご飯作ったわ。早く着替えてらっしゃい」
「うん‥‥」
「どうしたの? もう食べて来た?」
「あのさ‥私、VAのモデルやることにした‥」
息をのみ、しばしの沈黙‥。
「そう‥明日香はVAのリスクはもう分かっているハズよね」
あくまでデーター上の存在であるVAには、それゆえの問題も発生している。
最も大きかったのは一昨年の「そっくりさん事件」だろう。
どこからか流出したデーターにより、人気のVAが複製されてしまった。
人間と違い、複製されたVAはどちらがオリジナルか判断できない。つまり本人が二人いることになる。
最悪な事に、そのVAは過激なアダルト作品に出演させられ、その事を知ったモデルの少女は自殺した。
それ以外にも、過激なアンチファンによる嫌がらせ等、VAには人権が無いが故のトラブルも多い。
そして時には、その攻撃がVAのモデルの人間にも向けられる事件も起こっている。
VAの仕組みとしては、モデルと全く違った性別や容姿を設定することも可能だが、再現性がどうしても低くなる。
それは高度なシミュレーション性を持ったVAゆえの弱点だ。
「うん、分かっている。悪いけど、かすみを助けたいから」
母親は、ふぅ、と溜息をついた。
「別に私、VAの事が嫌いって訳じゃないわよ。ただ、生身の方がより素晴らしいと思っているだけ」
「うん」
「セキュリティには気をつけなさい。あと何か有ったら絶対に相談して‥ご飯は?」
「食べる」
一瞬、スフィアの事が頭をよぎったが、結局話さなかった。
今の時点ではあまりに分からない事が多すぎたし、結局はいたずらに過ぎない可能性もある。
もやつく気持のせいで、折角の夕食も全く楽しめなかった。
夕食後、自室に戻った私はベッドに寝転がり、デスク上の写真パネルを眺めていた。
そこには幼いころの私と、両親が映っている。
「父さんなら‥こんな事、簡単に解決したかな?」
思わず写真の父に問いかける。
父さんなら‥Ai研究者の父さんなら‥?
思い出の中の父は、いつも研究室に籠るか、帰宅すればロクに話もせずに寝てしまっていた。
あまり遊んで貰った覚えもなく、何度か”ラボ”と呼ばれる研究室に見学に行ったくらい。
それでも、まれに話せば私のことを気遣ってくれたし、その研究が世界に貢献すると信じていたから、誇らしかった。
実際、ほとんどの交通機関に搭載されている”トリニティAi”システムは父の研究成果の一つだし、Ai演算ネットワークもそうだ。
あんな事故さえ無ければ、もっともっと世の中に貢献する成果が出せたハズだ。
‥あんな事故さえ無ければ‥。
‥事‥故さえ‥。
ブブーーッ!ブブーーッ!ブブーーッ!
スマホの着信音ではっと目が覚める。
‥どうもベッドでうつらうつらしてしまったらしい‥。
「はーい、誰‥かすみ??」
寝ぼけまなこを擦りながらスマホを取る。
「お姉さまーーーーっ!お姉さまーー!」
ハイテンションな声が、スマホの向こうで呼ぶ。
私は未だかつて”お姉さま”呼びされた覚えがない。
「え、誰?」
取り出したスマホの画面に映っていたのは、何とスフィアだった。
「えぇーーー!?」
このVA、普通に電話して来てるんですけど!
人の事、”お姉さま”呼びするんですけどーー?!
「ど、ど、どうし‥」
あまりの出来事に言葉が上手く出ない。
「ごめんなさい、お姉さま。寝てらっしゃいましたか?」
「い、いや、大丈夫‥」
あまりに普通の受け答えに、少し平静を取り戻す。
「すみません、うっかり失念していて‥」
VAが失念?? 失念?
「---?」
「VAフェスって、最低1ステージ3名以上らしいんです」
「あ、そうなんだ…」
「もう一人共演者が必要なんですが、どうしましょう?」
「その‥スフィアの方で手配は?」
「私以外のVAを用意するのは難しくて‥私が二人になるなら可能ですが、それで良いですか?」
このVA、何か訳分らない事言ってる‥。
それでも、このテンションが倍になるのはご勘弁願いたい。
思わず、
「ちょっと、こっちで考えてみる…」
と言ってしまった。
「分かりました、お願いします、お姉さま」
「いや、そのお姉さまって‥?」
「また連絡しますねっ!」
そう言うと、ウインクを残して電話は切れた。
恐らくスフィアはVAではなく、裏に誰かが居て、表示をVA化しているのだろう。
でなければこんな事考えられない。
混乱のあまり目が冴えてしまい、遅くまで眠れなかった。
楽しんで頂けましたでしょうか?




