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えれくとろんあーく  作者: てんまる99


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20/22

未来と願い

用語解説:人造臓器

人工未分化細胞を素材に、製造時に分化条件を付加しつつ3Dプリンタで造形する事で、血管や神経と言った組織も含め臓器を丸ごと製造する。

既に脳以外のほとんどの臓器は開発に成功していて、皮膚や血管、骨、網膜など開発が先行する組織は高価ながらも市販化されている。

柊学園、体育館。

放課後のバドミントンコートに鋭いスマッシュ音が響く。

『パシュッ』

ネットの反対側から鋭い打音が応じる。

『パンッ』

シューズが床とこすれる”キュッキュッ”という音が響いた。

幾度となく激しいラリーが続く。


ラリーを続ける二人のうち、長身の選手は女子バドミントン部の新部長、小原唯。

長い手足からの鋭いスマッシュを武器としている。

だが、バドミントンは、強いスマッシュさえ打てれば勝てる、といった単純な競技ではない。

フェイントを交えた裏のかきあいや、相手の体制を崩す戦略など、頭脳戦の要素もある。


「ハッ!」

唯はコート奥から強いスマッシュを打つ! と見せかけ、ネット際へのドロップショット。


「しまっ!」

相手は裏をかかれ、完全に逆方向に体制を崩している。

『決まった!』

唯が勝利を確信したその時。


「ヤッ」

相手は空中で身体を半回転、届くはずの無いシャトルをコートギリギリで拾い、ヘアピンで打ち返す。

「う、嘘そぉ」

唯は思わず声を上げる。

打ち返されたシャトルは自コート内にポトリと落ちた。


「いやいやいやいや‥」

混乱で少し苦笑が浮かんだ。

あの体制から、しかも空中で半回転? およそ人間技とは思えない。

「あれ、どうしたの?」

対戦相手の綺羅明日香は身を起こしながら尋ねる。


「明日香、さすがに人として‥重力を無視するのは、いかがなものか」

「いやいや、無視してないし」

「礼儀とか、常識とか、重力とか。守らなきゃいけないものが人間にはあるんよ」

「え、どういう事?」

心当たりが無いのか、キョトンとした表情の明日香。


「こっちが聞きたいよ。どうやったら空中で、あの体制を替えられるん?」

「んー、こんな感じだけど」

明日香はバレエの様にその場でくるりとスピンして見せる。

「それを足場のない空中でするのがな…」


まえから、明日香って身体能力えぐかったからなぁ。

唯は嘆息しながら思い返す。

本気でやれば自分より良い選手になるだろうと、何度か思った。

でも、その頃の明日香はどこか冷めた目をしていて、部活をする雰囲気じゃ無かった。


「そかな?」

ケロリと答える明日香。

今は随分、雰囲気が違う。

何か‥毎日楽しいっ! ってオーラが全身から溢れてる。


「どっかで修行でもしたん? この世とあの世の間‥とかで」

「そんなの、死んじゃうじゃん! あー、でも」

頬に手を当てちょっと思案顔をする明日香。


「? なに?」

「経験、を積んだおかげかも?」

明日香は少し遠い目をして答える。

「え、明日香! 遂に大人の階段を?」

「違うし!」

真っ赤になって否定する。

明日香ってば、モテる割に純真なんだから。


「明日香、最近、道場破りしてるって?」

「人聞きの悪い‥体が結構なまってるなー、と思って」

明日香はこのところ、あちこちの運動部で放課後に対戦をしている。

どんなスポーツでもかなりの結果を出すので、各部から勧誘されているが、本人にはその気はないらしい。

『これでなまってるんかい!』

唯は心の中で突っ込んだ。

じゃあベストコンディションなら一体どこまで…。


と、明日香は壁の時計を確認し、

「あ、やば、そろそろ時間だ」

壁際のスクールバッグを取った。

「ごめん、片付け‥」

「私はもう少し練習していくから、いいよ」

「ありがと、じゃあまたね」

言うが早いか扉から出てゆく。

軽快な足音が体育館に残った。



私、綺羅明日香は体育館からVAルームへと繋がる階段を駆け上っていた。

予定時間より1分ほど遅れてしまった。

あわててVAルームの扉を開き、中へ駆け込む。


室内では数名の部員が席でVAのデーターを確認したり、調整したりしている。

多数のモニターに情報が表示され、さながらトレードセンターの様。


「ごめん、遅れた!」

そのまま、かすみの隣に座る。

「大丈夫、これからだよー」

かすみはコンソールを操作すると、画面を目前の大形モニターに切り替える。

画面はまだ空っぽの部屋を映すだけだ。


あの事件の後、スフィアはダウンしてしまった。

蒼井さんによると、内部のデータ破損などが複数あり、復旧には少しかかるとのこと。

今日はそのスフィアが退院(?)して帰ってくる予定日。

それを皆で迎えよう、という事だ。


モニターの前にはみなよんやヒロコも集まり、スフィアが現れるのを今かと待ち構えている。


‥。

‥‥‥。

‥‥‥あれ?

予定時刻を過ぎて5分経ったが、誰も現れない。

「‥変だね」

「遅れてるのかなぁ?」

気にしつつ、もう少し待ってみる。


10分‥さすがにおかしい。

遅れるにしても連絡位はあるはず。

蒼井さんに連絡してみたが、繋がらない。

何かトラブルがあったのだろうか。


『パタパタパタ』

廊下を誰かが駆けてけてゆく足音。

と言っても、この建物には他の部も入っている。

人が走るのも、よくある事だ。


『パタパタパタパタ‥ガッチャーン!』

「え?」

「誰か、コケた?」

「だ、大丈夫かなぁ」

私達は顔を見合わせる。

かなり盛大な転倒音だったので心配だ。


思わず、一同が廊下に出て見てみると‥。


そこには見事に転倒したスフィアが居た。

良かった、怪我とかは無‥。


「「「「ええっ?!」」」」

一同の声がハモる。

私達の人生で一番綺麗に揃った瞬間だと思った。


目を疑うとはこの事を言うのだろう。

一瞬、私は未だグローバルAiの仮想世界に居るのでは、と考えた。

いや、さすがにそれは無い。

隣にはヒロコもみなよんも居る。

ならば、目の前の少女は偶然スフィアに似ている、他人?


と、少女が悔しそうに漏らす。

「こ」

「こ?」

「コケちゃいましたー。うわーん」

あ、スフィアだこの娘。


「せっかく格好良く登場しようとしたのにぃ」

「スフィア? スフィアなの?」

「はい、お姉様ー」

顔を上げニコリ、とする。


「え、スフィアちゃん?」

「まじか?」

「どういうこと?」

各自が疑問を口にする。

現実世界にスフィアが居る?

これは‥?


と、1つの可能性が頭に浮かんだ。

「え、Ai人形ドール?」

「そうですー。蒼井お兄ちゃんがボディを作ってくれて!」

確かに等身大でもAi人形ドールは作れるだろう。

当時と比べれば材料技術は格段に進歩している。

しかし‥。


チョンと、スフィアの頬に触れてみる。

温かい。

そして微かな湿度があり、産毛が生えている。

人形ドールというか、人間そのもの。

私の知る限り、ここまで高度なアンドロイドは見たことが無い。


「ちょっと!」

驚きながら慌ててスフィアの胸に耳を当ててみる。

『トクントクン‥』

微かな拍動が聞こえる。

「お、お姉さま?」

スフィアの戸惑う声が胸郭で反響している!

これじゃ、まるっきり人間としか‥。


「バイオマテリアルですー」

私の戸惑いを知ってスフィアが言った。

「な、なるほど‥それにしても凄い‥」


3Dプリンタを使った人造臓器製造は今、最も先端の医療技術だ。

既に脳以外の殆どの人造臓器が開発されている。

しかし、造られるのは部品としての臓器に過ぎない。人間丸ごとを人造するのは未だに不可能なはず。


作った部品をつなぎ合わせれば人間が出来る、と言った簡単な話では無い。

特に神経やリンパ腺といった全身に巡る微細な組織は後から作れる様な物では無いはず‥。

しかし、それを超える技術を財団が開発していることになる。


「ただ、まだ慣れなくて‥たまに転んじゃうんですけど。えへへ」

スフィアは頭に手を当て照れる。

「それじゃ、レッスンを沢山しないと、だね」

「私は衣装作るよー」

かすみも応じる。


と、スフィアが一人で来た事に気がつく。

「あれ、そう言えば、蒼井さんは?」

「蒼井お兄ちゃんは色々片付ける事があるみたいで」

「そりゃそうか‥」


例のグローバルAiによるVAへの異常反応は、なんとか先日のライブで解決した。

その際のグローバルAi一時停止は短時間だったこともあり、さほどのトラブルは起こらなかった。

その理由もVA関連の緊急不具合対応と報道され、社会的にも批判は無い。

とは言え、善後策や再発防止など検討すべき事は山積みだろう。


「ま、とりあえず部室でお茶にでもしようか」

「そだね」

「あ、お菓子買ってきたよ」

かすみとヒロコが続く。


「お茶も良いですけど‥」

スフィアが思案顔をする。


「ん、どした?」

「私、お姉様とデートとかしてみたいです!」

スフィアは満開の笑顔。

「ええー、それ、私もー」

かすみも同意する。

「ま、まぁ、そのうち‥」

私は嘆息しながら答える。


言いながら、皆で部室に帰る。

まだまだこれからも、やる事が沢山ある。

VAフェスはやり直しになって、その準備もしなくてはいけない。

それに、Ai技術は発展中だから、またトラブルも起こるだろう。


でも、皆でなら何とかなる。

私達には、ここから続く未来があるのだから。

「私達、“えれくとろんあーく”だし!」

皆で手を取りながら、微笑んだ。

えれくとろんあーく、とりあえずの完結です。

毎日、1エピソードずつ書くのを1ヶ月近く続けると言うのは、初めての体験でなかなか新鮮でした。

予定通り、20エピソードでまとめられたのは幸いです。

文章的には至らないところもあるかと思いますので、部分的な修正は今後もちょくちょくするかもです。

感想、ご意見など頂けると嬉しいです。

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