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えれくとろんあーく  作者: てんまる99


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2/22

焦燥は走る

用語解説:Ai

綺羅博士が実用化したトリニティシステム以降のAIを従来と区別する意図でAi(AI identity)と呼ぶ。

トリニティシステムにより、多様な状況判断を適切に行える様になり、擬似人格と呼ばれる。

釈然としない気持ちのまま、路地から大通りへと出た私の目に飛び込んできたのは、混乱する駅前の様子だった。

大通りの路肩にはハザードランプを点けた車が列を成して止まっており、通りには1台の車も走っていない。

ビルの壁面にある数々の大型スクリーンはブラックアウトしているか、無意味なノイズを映している。

信号機は全て赤色の点滅‥。まぁ、車が走っていないから意味は無さそうだけど。


慌てて駅の改札に向かうと、既に人の群れができている。

多くの人が集まり、不安そうに見る時刻表示のモニターは、全て「調整中」表示で役に立たない。

何人かが駅員に詰め寄るも、駅員も原因を把握出来ていないらしい。


試しに定期券を兼ねた学生証を改札にかざして見るが、エラー表示で通ることはできない。

恐らく、この状況では電車も動いて居ないだろう。

かなりの異常事態だった。


ざわざわと真っ黒な不安の雲が胸の中に湧き上がってくる。


はっと、学園に居るはずの親友の姿が浮かんだ。

ーーー危険な事に成っていないと良いのだけれど。

カバンからスマホを取り出すが、圏外表示。

今までこの近辺で、電波が入らない場所なんて無かったのに!


ロータリーに停止しているAiタクシーに駆け寄り、ドアに生徒手帳をタッチすると、スライドドアが開いた。

ハザードを出して停車しているものの、機能は喪失して無いらしい。

そのまま乗り込み、ダッシュボードにあるAiボタンを押す。これで車載Aiとのトークが可能になるはず。

『本車両ハ現在緊急停車中デス』

機械的な音声が応じる。

焦る気持ちを揶揄されている様で苛立ちが募った。

本当はもっと自然に話せるのに、諸事情であえて機械的な音声にしているらしいが、逆効果な気がする。


「コントロールAiのステータスを教えて」

『1st-内部データーベースヲ参照シテ正常動作中、2nd-ネットワーク接続不良ノタメ限定モードデ動作。3rd-データベース切断により縮退モード』

車載Aiはアルゴリズムもハードウェアも異なる3つのAiが、相互監視をしながら動作している。

このステータスから察するに、交通管制を行っているグローバルネットワークが落ちてしまっているらしい。

いや、携帯も繋がらない事も考えると、もっと範囲は大きいかも知れない。

そのため、いわゆるAiカーは非常停止しているのだろう。

でも、事態は一刻を争う。


「ハイプライオリティコントロール!」

仕方なく、一般には知られていない特殊コードを使うことにする。

ピッ!

車載コンソールのステータスランプが赤に変わる。

『コノコードヲ使用スル場合ノ責任ハ、全テユーザーノ責任トナリ‥』

「了解」

警告メッセージの途中だが早々に返答する。

この儀式を終わらせないと、先に進まない。


「1stの固定優先モードで走行、信号の認識を車載カメラ限定に。柊学園に行って」

『マップデーターガ近辺マデシカアリマセン』

「最寄りでお願い」

『ハイ』

スルスルとタクシーは動き出した。

ここから学園まではタクシーなら5分ほど。

「かすみ、無事だよね?」

思わず言葉が漏れた。


学園までの道中、車載のオーディオから微かな、金切り音の様なソプラノボイスの様な音が流ている事に気がついた。

音量が小さく歌詞のような物は聞き取れない。

緩やかなリズムと高低を付けた、キーキーと言う音。

「この音楽は何?」

『現在サウンドネッワークハ使用デキマセン』

「?? オーディオをOFFにして」

『ハイ』

音は止んだ。ネットワークの混乱で発生したノイズのような物だと理解する。


学園近くの大通りにタクシーを乗り付け、駆け足で学校に急ぐ。

途中で走り抜けた商店街も、モニター画面は全てブラックアウト。

恐らく、レジ会計も使えなく成っているのだろう。

商店の軒先で不安そうに辺りを見回す店員が何人か居る。

馴染みのファーストフード店は早々に店を閉めてしまったらしく、店内の照明は暗く、『CLOSED』の札が出ている。

日常がじわじわと侵食されていく不快感が募った。


学園の正門を抜け、グランドを横切って部活棟に向かう。

明かりこそ点いているものの、電子掲示板はここでも全てブラックアウトしている。

かすみのいる場所は、VAルームに決まっている。

授業中以外はいつも‥下手すると時には授業中でさえ、VAルームに入り浸って居る。

中央階段を登り、半開きの扉を無理やり開けて、VAルームに飛び込む。


「かすみ! 無事? どこ?!」

多数の大型モニターが並ぶVAルームは見晴らしが悪い。

見渡すが、かすみの姿は見えない。

と、かすみの涙声が‥聞こえた。


「‥ちゃったぁ‥」

声を辿り、コンソールデスクの下に座り込むかすみを見つける。

「か、かすみ、どうしたの?」

「あ、明日香ちゃぁぁぁん」

泣きながら抱きついて来るかすみ。

甘いコロンの香りとともに、柔らかな感触が重なってくる。

かすみは身長こそ私より低いものの、バストもヒップも豊かで、それでいてウエストは私と同じくらい。

いわゆるトランジスターグラマーと言うやつで、女の私から見ても魅力的なプロポーションをしている。

人懐っこい性格だから、密かに人気がある。

私とは幼馴染だから、こういう甘えた仕草をする事も多かった。


「お、落ち着いて? 怪我とかは?」

「うぅ、怪我とかは‥でも駄目になっちゃったよぅ」

涙を拭いながら首を振る。

「駄目?? 何が?」

首を振りながら、かすみが指さす先にはエラー表示のコンソールが。

「これは‥VAの?」

「編集データー、全部消えちゃった。半年もかけて作ったのに〜」

「あちゃー」

思わず天井を仰ぎ見た。

かすみがVAに夢中になったのは学園に入った直後。

以来、本当に寝食を忘れ、夢中になってこのVAルームで作業に没頭している。

その努力を知っている身としては、かすみの悲嘆も理解できる。


「全然、駄目なの?」

「仮編集が終わってサーバーに上げてる途中でネットワークが落ちちゃって‥回復しようとしたんだけど、データードライブ自体がクラッシュしちゃってて」

「バックアップとか1個前のデーターは?」

力無く首を振るかすみ。

聞くと、1ヶ月近く夢中で作業していて、サーバーへのアップロードもしていなかったのだそうだ。

そのため最終データーはクラッシュしたディスクにしか無かったらしい。


「どうしよう‥学園祭までもう1ヶ月も無いのに‥」

かすみが作っていたのは、学園祭でVA部が発表する予定のデーターだった。

半年近く前から、このために準備して来たのを私も見てきた。

「何とか代わりのデーターを作るしか‥」

言葉を繋いだものの、それが無理なことは私も分かっている。

「無理だよぅ。残ってるのは衣装とエフェクトの素材くらいで肝心のキャラクターデーターが‥」

「だよねぇ」


VA、と言うのはいわゆるバーチャルアーティストの事だ。

仮想空間で歌い踊り、パフォーマンスをする。

否定的な人間は人形踊り、なんて揶揄する者もいるけど、既に音楽の人気チャートの上位は全てVAになっている。


以前から動画投稿等で個人的に歌や踊りを見せる文化は有った。

それが人気とともに段々とプロ化してゆく過程で、CGキャラクターを使う様になる。

PCの高性能化とAiの進化はハイアマチュアレベルの作品でも、既に実際の人間のステージと見分けがつかない。

CGであれば現実では難しい様な歌やダンス、衣装、ステージ等が可能で更に人気が加速していった。

その時、ある人間が気付いたのだ。

『これを活用すれば、学校のイメージアップになるのでは?』と。


最初は学校の紹介やプロモーションに、CGキャラクターを使う程度だった。

だが、それが予想以上に好評を博すと、競争が始まる。

部活として正式に学生活動になり、全国大会が開かれ、その順位で翌年の入学希望者数が変わるようになった。

折からの少子化の中、現在ではVA活動はもはや学園の命運を握る、と言ってよいほどの影響力がある。


柊学園もVAには力を入れていて、学園祭や地域の活動でも折を触れてVAを紹介するし、全国大会にも毎年参加している。

と言っても、元々進学校の柊学園ではVA活動はあくまで部活。

他の有力校の様に、VA活動のみで進級できるほどではない。

そのハンデの中で、かすみは決勝大会に出場する程の成果を出している。

学園内外の期待も大きく、それに応えようと努力もしていた。

しかし、バーチャルゆえにそれはデーターが全て。

それが消えてしまってはキャラクターは死んだも同然になる。


「仕方無いよ。こんな事に成るなんて考えられなかったし」

こんな大規模なネットワークトラブル、誰も予想できやしない。

「でもぉ‥キャラクターが」

力無くエラーを映すモニターを見る。


VAクリエーターにとってキャラクターは我が子も同然と聞く。

それを突然奪われた悲嘆は想像に難くない。

「何とか代わりの物を作るしか‥私も手伝うから」

励ますのが精一杯だった。

「うん‥代わりーーー歌って踊るーー代わり‥!」

俯いていたかすみがガバッと振り向き、急に私の両肩を握った。

「明日香ちゃん!!」

「はぇ?」

「成って、VAに!」

「は? え? なん?」

意味が分からず変な返事をしてしまう。


「明日香ちゃんならダンスも歌も上手だし、それをベースに今ある衣装とエフェクトを付ければ!」

「え、いや、それじゃVAじゃなくて、単なるモーションキャプチャなのでは‥?」

「あくまで明日香ちゃんはベース。最終的な調整は私がするから、大丈夫!」

「そ、そうなの?」

「うん。それでも、ゼロからモーションや歌を作るよりずっと早くなる」

「で、でもそれは‥かすみの作りたかったVAとは違うよね?」

「ううん! だって本当は明日香ちゃんにモデルベースやって欲しかったんだもん」

「なんと?」

予想外の話だ。


「でも明日香ちゃんはVA嫌がるし、事情も知ってるから‥」

「かすみ‥」

「今まで作ってる時も、明日香ちゃんならどんな風に歌うか、踊るかを考えて作ってた‥」

し、知らなかった。

かすみがそんな事想ってたなんて。

もしかして私が手伝えば、今までも、かすみはもっと楽に早く結果を出せたのかも知れない。

今の状況とこの事を考えれば、断る事は出来なかった。

「わかった、出来るだけ協力するよ」

「ありがとう!」

再びかすみが抱きついてきた。

「あはは‥」

頷きながら母親の顔を思い浮かべ、どう説明しようかと悩む私だった。


ここから物語が進行してゆきます

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