想いの中心
用語解説:七尾財閥
旧華族から続く歴史を持つ。国内3大財閥の一角であり、金融・証券から日用品まで扱わない物は無いと言われるほどの巨大コンツェルン。
Ai財団委員会の主要企業の一つで、Ai総合研究所の頃からのスポンサー。
私達はそのまま上昇し、雲の上に出た。
足元にはモノトーンの雲海が広がり、地上はもう見下ろせない。
遥か向こうには雲に霞んで巨大なコアユニット。
どう考えても現実よりはるかに大きい。
あまりに巨大すぎて、サイズ感がおかしくなる。
見れば、その手前に無数の黒ゴマの様な粒が浮かんでいる。
「なに、あれは‥?」
目を凝らすと、それら全てが黒ブヨだった。
数は百や千で足りる数じゃない。
それでも、あの中を突破して、何とかコアにたどり着かないといけない。
「お姉様、時間が無いです」
「うん、行こう!」
「はいっ!」
言うと同時に凄まじい速度で飛翔を始める。
みるみる黒ブヨ達との距離が縮まってゆく。
近付くと、無数の黒ブヨにも大小があることがわかった。
小さい1mほどのものから、大きいものは10mまで。
スフィアは巧みな回避で飛ぶものの、何しろ数が多すぎる。
回避を繰り返すだけでは一向にコアに近付けない。
「スフィア、小さいのは避けなくても良いよ!」
「え? でも」
「小さいのはこれで‥切る」
私は例のレーザーブレードを取り出し、構える。
「分かりました、最短で突っ切りますっ!」
再びコアに向かって飛翔する。
速度が更に増す。
降り注ぐ雨粒のように無数の黒ブヨが迫ってくる。
いくつかの黒ブヨには、光る矢印が投影されている。
これは‥スフィアが衝突軌道に来る黒ブヨを示しているらしい。
「スフィア、ありがとっ!」
マークが投影されている黒ブヨを、次々斬り飛ばす。
右・左・上・上・右‥あれ、これ、どこかで体験した気がする‥。
左・上・下・上・下・右!
ひっきりなしに飛来する黒ブヨ。
右・上・下・左・右・左・右・上・下・左・右・左!
しかし、延々と休むことなく切り続ければ、切る速度も落ちてくる。
上・右・下・下・右!
もう、いくつ黒ブヨを切ったか分からない。
腕に力が入らなくなってきた。
“ガツッ!”
ついに切り漏らした黒ブヨと衝突した。
辛うじて鎧で受けたものの、もろに衝撃を受け、呼吸が詰まる。
「ゲホゲホッ」
堪らず咳き込む。
「お姉様!」
気遣ったスフィアは速度を落とす。
「だ、大丈夫! 速度、落とさないでっ!」
「はいっ!」
再び速度を上げ突入する。
もう駄目だ、と何度思っただろう。
最後は転がり込む様に、コアユニット天辺部分に着陸した。
数発の直撃を受け、満身創痍だ。
両足が痺れ、ふらつく。
右手は感覚が鈍く力が入らない‥。
しかも、周囲を完全に黒ブヨに取り囲まれてしまった。
黒ブヨはどんどん数を増し、集まってくる。
次々と突進してくる黒ブヨ。
片端から次々と斬ってゆくが、これではとても、ライブをするどころじゃない。
残り時間は5分を切っている。
もう残り時間が少ない。
「蒼井さん、コアに着いた! けど‥ヤッ」
その間にもまた一匹、黒ブヨを斬る。
『スフィアさん、そちらのデータ座標、送って下さい! レグTを送ります!』
「わかった、蒼井お兄ちゃん!」
え、送るって、何を?
思いつつ、更に数匹の黒ブヨを斬り伏せる。
『キィィィーーーーン』
凄まじい轟音とともに、何かが頭上から急速に接近してくる。
あれは‥砲弾?
「お姉様、避けてっ!」
スフィアの声に慌てて下がる。
「あ、す、か、ちゃーーーん」
あれ? これ、かすみの声?
そう思った瞬間に目前に砲弾が着弾した!
『ズガーーーーーーン』
辺りを震わす激しい振動とともに砲弾はコアに突き刺さる。
飛び散る破片。
立ち込める水蒸気。
同時に砲弾の側面ランプがピカピカと周期的な明滅を始める。
こ、これは?
「制御性T細胞、持ってきたよっ!」
水蒸気の中、砲弾の上に立ったかすみが言った。
あ、懐かしい、Ksの衣装だ。
「か、かすみ? どうやってここへ?」
ここへのアクセスは優先制御権限が必要なはず‥。
「お爺ちゃんから、一時的に権限を移譲して貰ったの!」
Vサインをするかすみ。
言われて、七尾財閥が委員会の一員であることを思い出す。
好々爺としたお爺さんは、かすみのことをとても可愛がっている。
「なるほど、その手が‥で、これは‥制御性T細胞??」
眼前の砲弾を眺める。
記憶では、制御性T細胞はT細胞の活動を抑える‥はず。
見ると確かに、砲弾の光を浴びた周囲の黒ブヨの行動がゆっくりに成っている。
更に、
「明日香ちゃん、衣装だよ!」
かすみは銀色の小さなケースを投げてよこす。
「!」
私が受け取った瞬間、それは眩しい光を放ち、私を包んだ。
一瞬の光が収まった時、私はAsの衣装を身に着けていた。
「やっぱりライブするなら、これだよねっ」
かすみは満面の笑み。
『ダンダンダダダッ‥♪』
間を置かずに制御T細胞砲弾から聞き慣れたイントロが鳴り始めた。
これは‥蒼井さん、気が効いてる!
どうやらアカペラで歌わなくても良さそうだ。
「それなら、私もっ!」
スフィアは背中から離れると、光とともに人の姿に。あの時のステージ衣装の姿に。
「スフィア!」
「スフィアちゃん!」
2人で降り立ったスフィアを抱きしめた。
「はいっ!」
元気に答えるスフィア。
これでやっと3人揃った。
と、スフィアはポケットから茶色い豆粒ほどの人形を幾つも取り出し、辺りにばら撒く。
「熊さん、お願いっ!」
小さな人形はむくむくと大きくなると、無数の熊のぬいぐるみとなり、周囲の黒ブヨを押し返し始める。
あれは、あの時の‥。
熊ぬいぐるみはスタンドアローンAiだから、グローバルAiの影響を受けない。
「スフィアちゃん、持って来たんだ?」
「はい! 熊さんが手伝ってくれるって!」
熊ぬいぐるみ達はどんどんと黒ブヨを押しのけてゆく。
周囲に20mほどの広場が出来上がった。
これなら、できる。
あの時出来なかった、三人でのライブステージ!
「いこう!」
「うん」
「はいっ!」
私達はステージの中央でステップを刻み始めた。
点滅するライトが一層輝きを増す。
『この三人なら、絶対に負けない!』
私達の想いは一つのハーモニーとなってコアに響き渡っていった。
遂にクライマックスです。
楽しんで貰えたら嬉しいです。




