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えれくとろんあーく  作者: てんまる99


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夢の記憶

用語解説:Ai総合研究所

現在のAi財団の基礎となった研究所。

綺羅譲博士の先進的Ai理論の実証・運用を目的とし、様々な研究が行われていた。

多くの成果はAi財団へ発展的に移行されたが、一部、実運用困難として破棄された研究もある。

グローバルAiのメインモジュールにアクセスした私が見たのは、10年前のまだ財団になる前のAi総合研究所だった。

入り口に掲げられた看板、エントランスの照明‥間違いない。



「蒼井さん、ここで合ってる? 10年前の研究所だよ?」

『過去の学習データー、そちらの何処かにスフィアさんは退避していると思われます』

「ここでスフィアを探せば?」

『そうです。ただ、現在はグローバルAiの探索を逃れるため、何かのオブジェクト内に隠れている可能性があります』

「え、それ、どう探すの?」

『明日香さんが近づけば何らかのアクションがあるものと』

「オブジェクト全部は‥無理じゃないかな?」

『推測ですが、明日香さんになら判る、何らかのヒントがあるのでは無いかと‥』

「うー、分かった。とにかく行ってみる」

意を決し、私は研究所のゲートを入った。


研究所内は昔の思い出のままだった。

活気があり、何人かの研究者が行き交う。

来客が受け付けのAiに質問している。

昼過ぎのホールのテーブルで雑談するメンバーも居る。


だけどすぐに分かったのは、ここの人達はあくまで過去の残像だと言う事。

私が話しかけても反応しない。

一方、触ることは出来る。

ドアを開けることは出来るし、端末にも触ることはできるが、何も反応しない。

つまり、過去のある時点での状況を丸ごとAiが再現している訳だ。


考えていても仕方がない。

私は1階のホールの端の部屋に入ってみた。

引き出しを開け、片っ端から中身を取り出す。

が、特に反応もめぼしいものもなかった。

キャビネットを開け、なかに入っている資料を片端から取り出し、パラパラとめくってみる。

‥収穫なし。


この部屋を諦め、隣の部屋に入り、同様に調べる。

ここも収穫なし。


更に隣の部屋の扉を開ける。

「あっ!」

思わず声が出た。

その部屋には研究員と思われる人物が二人いたのだ。


二人でモニターの画面を睨み、何事か論議をしている。

が、二人の会話は無意味な音の羅列で、理解はできなかった。

Aiによる再現も、その会話内容にまでは至らないらしい。


二人は突然入室した私のことに気づく様子もない。

まるで自分が幽霊になった気分だ。

二人を無視して引き出しやキャビネットを調べるが、特に発見は無かった。

モニターに映っている文字列も無意味な羅列に見える。

私は無言で部屋を出た。


隣の部屋、更に隣の部屋‥調べても何も発見できない。

受付のコンソールの下まで覗いたが何も無かった。

1時間ほど1階を探索し、この階では無いと見切りをつけた。

時刻が気になって窓の外を見たが、時間は経過していないようで、来たときと同じ昼過ぎの日差しのまま。


全く時間が経過しない世界に閉じ込められるなんて、これが夜だったら、ちょっとした怪談だよね。

まぁ、幽霊は私の方なんだけど。


2階、3階、4階‥片っ端から部屋を調べたが、手掛かりは見つからない。

何も変化がないのは、肉体的にはともかく精神的にキツい。

まるで息のできない水中で、水圧に逆らい手足を動かし続けているみたいだ。


「駄目、全然見つからない‥」

つい、愚痴が溢れる。

と、

『頑張って、明日香ちゃん』

『気張れ、明日香!』

ヘッドフォンからかすみとヒロコの激励が響いた。

「おお、あんがと」

不思議なもので、それだけでやる気が戻って来る。

スフィアを取り戻し、グローバルAiの暴走を止めるんだ。

決意を新たにする。


そのまま5階の階段を登りきった時、目前に見覚えのある物体が現れた。


「黒ブヨ!」

その距離は1mほど。

こちらを発見したのか、急速に接近してくる。

「はっ!」

素早く身をかわしざま、例のレーザーブレードを一閃、黒ブヨを切り伏せる。

「蒼井さん、黒ブヨが居る!」

『明日香さん、大丈夫ですか?』

「貰った剣で叩き切ったけど‥良かったよね?」

『問題ありません。恐らく定期的に監視しているだけかと。ただ、あまり騒ぎを大きくすると発見される可能性があります。できるだけ見つからないようにして下さい』

「まじかぁ‥」

思わず声が漏れた。

探索ミッションに潜入ミッションも追加って、無理ゲーすぎる‥。


そこからは黒ブヨを避けながらの調査となり、一気に効率が落ちた。

扉を開ける時、角を曲がる時、向こうに黒ブヨが居ないか様子を探りながら行動する。

幸い、黒ブヨはさほど数は多くなく、しばらくするとどこかへ姿を消してしまう。

通路に従って移動しているだけなので、何とか対処できた。


それから2時間。

数匹の黒ブヨを倒しつつ、各部屋を調査するも結局収穫なし。

流石に疲れが来て、6階の階段を登りきった所で扉にもたれかかり休憩する。

‥手掛かりを見つけるのは不可能かもしれない‥。

一瞬、そんな不安が心をよぎる。


と、背にした扉に既視感を感じ、振り向く。

扉には”所長室”と書かれたプレートが掲げられていた。


「!」

思わず扉を開き、中へ駆け込む。


そこには10年前の父が居た。

最後の記憶と比べ、年若く少し元気そうだった。

父はデスクに居て電話を取り、何事か話していた。


「父さん‥」

おもわず声を掛ける。

けど、私の声が父に届くことは無い。

ここに居るのは過去のデーターをAiが再現した幻影に過ぎない。


「明日香、だよ」

私も10歳成長している。

仮に父が気付いたとしても、娘とは分からないだろう。


「会いたかったよぉ‥」

知らず、言葉が漏れる。

勝手に涙が溢れ、頬を伝って床に落ちた。


自分の中に、こんなにも強い想いが残っていた事に戸惑う。

いや、本心では気がついていたのかもしれない。

ゲームに没頭したり、VAをしたりしているときも、心の何処かに引っ掛かっていた。


しばし呆然としていた間に、父は電話が終わると席を立ち、部屋の外に歩いてゆく。

思わず後を追うと、エレベーターを使い、7階へと向かった。


あれ、研究所に7階はあった?

子供の頃の記憶では、6階の所長室までしか来た覚えがない。

7階が無かったのか、行かなかったから覚えていないのか、曖昧だ。


父はそのまま7階エレベーター正面の部屋に入った。

後を追って私も入る。


その部屋は病室のようだった。

白い壁に幾つかの医療機器。

中央にベッド。白いシーツがかかっている。

ベッドにはパジャマ姿の一人の少女が腰を下ろし、退屈そうに足をぶらぶらさせていた。


「おじさん、だあれ?」


父を見てその少女は問いかけた。

お楽しみ頂けたでしょうか?

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