祭と破壊
用語解説:VAフェス
世界最大級のVAイベント。
ライブステージだけでなく、VAに関する技術や新製品の発表、国際会議など内容は多岐に渡る。
開催は世界30ヶ国で開かれるリアルステージとグローバルAiが提供するVRステージがあり、両方の参加者合計は1000万人を超える。
リアルステージも観客はステージに集まるが、VAの方はほとんどが各自のスタジオやブース等から参加するため、現地入などは無い。
学園祭が終わって数日が経った。
私は早朝の学校へと続く商店街を走り抜けていた。
時間は午前6時。
商店の多くはまだシャッターを閉じていて、人通りもまばら。
朝の空気はひんやりとしていて、気持ちが良い。
始業時間まではまだ余裕がある。
にも関わらず、この時間に登校しているのには理由があった。
一つは学園祭で現れた、私を追いかける様々な人達を避けるため。
学園祭のVAステージは学内外に大変な反響を起こした。
もちろん、当初から学園の知名度・イメージアップは狙っていたから、ある程度話題になるのは想定していたけれど、それを遥かに超えている。
学園祭明け朝のことを思い出す‥。
学園祭の疲れが残る身体を引きずって登校すると、校門の前には黒山の人だかりができていた。
「え、なにあれ?」
校門の手前100m程で私もその様子に気付き、一瞬たじろぐ。
そこへみなよんから着信が入った。
『綺羅さん、今どこに居ますか?』
「校門の手前だけど?」
『良かった、間に合って』
「何か校門前に凄い人が‥なにあれ?」
『ウチの生徒+他校の生校や芸能リポーター、スカウト‥把握できないありとあらゆる人種、よ』
「え? それって“えれくとろんあーく”のせい?」
『そう‥そのまま進むと5時間は掴まるでしょうね。もしかすると、今日は登校出来ないかも‥』
それは困る。一応、皆勤賞は狙っているから。
「ど、どうしよ」
『裏門を開けておいたから、そっちから登校して』
「りょ、了解」
やっぱり美奈代先生てば優秀だ。
私は裏門から登校することで難を逃れた。
ただそれでも数日間はインタビーやら何やらで、あちこちと引っ張り回される羽目になった。
そんな騒ぎは数日も経てば落ち着く‥と思っていたのだが、一部やっかいな人達が残っていた。
いわゆる芸能事務所の関係者、というやつで、学校帰りや自宅の近辺で私をつけまわし、名刺を渡そうとするならまだしも、どこかも分からない事務所に連れ込もうとする不審者まで現れた。
そういう諸々厄介を避けるために、時間をずらして登下校しているのと‥。
「おはよー、明日香ちゃん!」
「おはよ、今日も頑張ろ!」
校門前で送迎の車から降りた、かすみと待ち合わせる。
もう一つは早朝に登校したかすみと、VAフェスのステージに備えたトレーニングするため。
学校内を走ってのランニングや屋上でのダンス練習をしている。
学園祭以降のゴタゴタに巻き込まれたのは、かすみも同様だったが、そこは七尾家のご令嬢。
人脈を通じてきっちりとマスコミ、芸能関係には釘を刺し、自家用車で送迎してもらうことで難を逃れている。
うーん、危機管理が華麗かつ私と違いすぎる‥。
放課後はVAルームで装備を付け、時にスフィアも混じっての練習もする。
以前に比べると軽く・薄くなったとは言え、装備を付けると、やはり普段とは勝手が違う。
それに慣れ、最善のパフォーマンスを発揮できるようになるのが目的だ。
トレーニングをしてVAの練習、更にかすみに教えてもらいながらAsの学習調整‥やることは山積みで、あっという間に日にちが経ってゆく。
それはとても充実していたが、私には一つ気になる事があった。
柊祭の夜、母親にAi財団の蒼井さんから、私に連絡を取りたいとメッセージが来たと言う。
蒼井さんは元、父の研究助手であり、今はAi財団の最高技術責任者。
助手であった頃には何度か家にも訪れ、面識もある。
最近はすっかり疎遠になってしまったが、年に数度は母親と連絡はしているようだ。
その蒼井さんがなぜか、母親ではなく私に連絡してきた。
しかも、直接話したいことがあるという。
なんと、学園祭でのステージのことも知っていて、『それは運命かもしれない』なんて返信が来た。
‥ちょっと大げさな気もするけど‥。
そうこうしている間にも、日にちはどんどん過ぎてゆき、あっという間にVAフェスの当日。
”えれくとろんあーく”は出番が最後なので16時頃の予定。
状況を見ながら、一時間ほど前に接続開始すれば良いはず。
そんな訳で、休日にも関わらずいつもの面々がVAルームに集まっている。
VAフェスのステージは順調に進行して行き、あと10分ほどで私達の出番になる。
「準備はOK?」
コンソールに着いたヒロコから声がかかる。
「大丈夫」
「こっちも大丈夫です」
『私もです』
ブースの私とかすみ、そしてモニターの中からスフィアが答える。
結局、スフィアに関しては、家の都合で自宅から参加している仮部員という事になった。
かすみが代理で書いた入部届を美奈代先生が受理したことで一応、仮部員と成っている。
学籍登録に関しては‥いつの間にか柊に在籍していることになっていた。
まぁ、スフィアにすれば学園の管理Aiに学籍登録をお願いするなんて、簡単なことに違いなかった。
「そっちはどう?」
私が訊ねる。
「こっちもバッチリ。まぁ、今回は接続するだけで後はフェスの方でやってくれるから、楽だよ」
ヒロコも特に作業予定は無いが、大型スクリーンにフェスの様子を映し、対応が必要な場合に備える。
「じゃあ始めようか」
「うん」
ヘッドギアを装着してブースに立つ。
今回のステージはスフィアが準備することになっている。
詳細は当日までのお楽しみ、ということで私達も詳しくは分からない。
‥リンク・スタート!
ヒロコの合図とともに目の前の景色が切り変わる。
まず目についたのは真っ赤に紅葉した木々だった。
それが、ライトアップされ、山の斜面に延々と続いている。
スフィアの作ったステージは、紅葉に染まる山中に作られた、大形の能舞台だった。
驚くのはそのスケール。
はるか視界の奥まで紅葉は続き、しかも1本として同じ形のものは無い。
それぞれが風にさざめいて、紅葉した葉が
サラサラと無数に降るように舞い散る。
舞台の各所には篝火が焚かれ、パチパチと松明のはぜる音と共に火の粉が宙に舞う。
傍らには清流が流れ、足下で滝と成って、はるか下へと落ちてゆく。
そのどれもが圧倒的な物量だ。
「これは‥」
思わず言葉を失う。
「すごい、これだけの物を‥」
学園祭でのかすみの作ったステージが緻密な箱庭だとしたら、スフィアのステージは巨大なテーマパークだった。
どちらを向いても、その景色は視界の果てまで続いている。
「頑張って作りました〜」
合流してきたスフィアが笑顔で言う。
「私達のファーストステージですから!」
「そうだね、このステージに恥ずかしくないライブをしよう」
「うん!」
「ハイ!」
3人で中央に集まり手を合わせる。
ステージ開始まであと僅か。
呼吸を整え、合図を待つ。
カウントダウンのコールとともに開始の合図が‥合図が‥合図が来ない?
ヘッドギアのコールボタンにタッチして、ヒロコに問いかける。
こうしないと会場にも音声が流れてしまうからだ。
「ヒロコ、何かあったの?」
『って‥だと‥』
ノイズが混じり、ヒロコの声が上手く聞き取れない。
顔を上げ、二人を見ようとすると、かすみが声を上げた。
「明日香ちゃん、あれは何?」
かすみが指差す先を見ると、空中に黒い不定形な物が無数に飛んでいる。
大きさは1メートルくらいだろうか。
ブヨブヨと形を変えながら、様々な高さ・方向にゆっくりと飛んでいる。
しかも、段々と数が増えていて、遠方の方は隠れて見えなくなってきている。
「これ、スフィアが作ったもの?」
「ううん、こんな事、あり得ない‥」
驚いた表情でよろよろと膝をつくスフィア。
何事か、スフィアですら理解できない事態が発生しているようだ。
と、そのうち一つの黒ブヨがかすみに向かって突進してきた。
「危ない!」
思わず、片手でその”黒ブヨ”を払いのけようとする。
ビリビリビリッ!
「痛っ!」
VAスーツの触覚フィードバックを遥かに超えた激痛が腕を痺れさせる。
「大丈夫、明日香ちゃん!」
かすみが駆け寄って来る。
やばい。こんなのが直撃したらひとたまりもない。
と、スフィアが小さな金属球の様な物を取り出し、黒ブヨに投げつける。
黒ブヨは、パチパチッという音と共に弾け飛んだ。
「お姉様、この間にリンクダウンして下さい。それまで食い止めますっ!」
「え、でもスフィアは?」
「お二人が脱出したら、私もここを離れます。早く!」
「わ、分かった」
その間にも次々と黒ブヨが押し寄せてくる。
再びコールボタンを押し、ヒロコに呼びかける。
「ヒロコ、緊急リンクダウンして! 急いで!」
「スフィアちゃんっ!」
かすみは黒ブヨに取り囲まれたスフィアの方へ手を伸ばす。
その目前をひときわ大きな黒ブヨが遮り、かすみが弾き飛ばされた。
「きゃっ!」
「かすみっ!」
バチンッ!
衝撃とともに突然、目の前が真っ暗になった。
いかがでしたでしょうか。
事態はここから急展開してゆきます。
お楽しみに!
ご意見や感想も引き続きお待ちしてます〜。




