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えれくとろんあーく  作者: てんまる99


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10/22

星空と予兆

用語解説:VAヘッドギア

演者の座標、傾き、加速度、視線、脳波、発汗をリアルタイムに測定すると同時に、網膜投影3D立体視や振動フィードバックを提供する。

初期の製品は非常に重く、5kgを超えていたが現在は1kg以下まで軽量化されている。

「「つ、疲れたー」」

3度目のステージ終了直後、私とかすみはVA部のレコーディングブース内でへたり込んだ。

ヘッドギアを外し、汗でぐしょ濡れになったスーツの胸元を緩める。


時刻は20時半過ぎ。

既に外は暗く、校庭では後夜祭が始まる時刻だ。


『二人ともお疲れ様〜』

コンソールに座るヒロコと、ちょうど入室してきた、みなよんが労う。


本当に大変なステージだった。

元々2回の予定を3回に変更したため、休憩時間も短くなり、疲れを取る間もなく次のステージを始めることになってしまった。

観客の入れ替えにも手間取り、会場スタッフも相当苦労したようだ。


何とか腰を上げ、ブースから出てヒロコからスポーツドリンクを受け取る。

かすみにも一つ手渡すと、蓋を開けて一気飲みする。

冷えたドリンクが全身に染み渡ってゆく感覚。

「うまーーー! 生き返るっ!」

「美味しいねっ」

かすみも微笑むが、まだ立ち上がるのは辛そうだ。


私は母親の仕事の絡みもあり、子供の頃からダンスやボイスのレッスンもしていたから、何とか耐えられた。

運動が苦手だったのに、最後まで付いてきてくれたかすみには感謝しかない。

「無理言ってごめんね」

「ううん、私も明日香ちゃんとステージ、立ちたかったから」

かすみは首を振った。


あのデーター消失が発生するまで、VAのステージは完全にAi任せにするつもりだったらしい。

作り直しになった時、制作時間短縮もあって私がリアルタイムのステージを提案した。

その時はステージは2回の予定だったし、私が一人で出演するつもりだったので、何とかなると思っていた。

紆余曲折あって、こうなってしまったけど。

でも、大変だったけれど、やって良かった。

観客と一体となってステージをやり遂げた時の達成感は格別だった。


すると、

「ちょ、そんなに入れないって!」

背後からヒロコの困惑する声が聞こえる。

何事かと振り向くと、VAルームの入口で誰かと問答をしている様子。

「どうしたの?」

様子を見にドア口まで来てみると‥。

ドアの向こうに、何十人もの生徒が詰めかけている。

「「「あ、お姉様ーー!」」」

「サイン、お願いします〜」

「一緒に写真を〜」

「握手、握手」

各々が別々の事を話すので、最早聞き取るのも難しい。

「ありゃーー」

これはさすがに、全員には対応できないのでは‥。

「綺羅さん、疲れてるから‥後日にしましょう?」

みなよんも助け舟を出すが、興奮気味の生徒達には届かない。


一瞬、この隙に部屋の反対側の窓から逃げ出そうかと思ったが‥止めた。

今日のステージも学園祭も、皆が助けてくれたから何とかやり遂げられた。

入場の列整理を手伝ってくれた娘、荷物運びを手伝ってくれた娘、機材の設営を手伝ってくれた娘‥。

だから、きちんとお礼を言いたい。

私はヒロコと並んでドアの前に立ち、皆と向き合う。


「あ、あのさ、今日は色々迷惑かけてごめん、手伝ってくれてありがとう」

思いっきり頭を下げる。

今は。今はこれしか思いつかなかった。

「「「お姉様っ!!」」」

詰めかけた娘達が一斉に押し寄せ、あっという間にもみくちゃになってしまった。

まぁ、でも、それが良い。

皆で一緒に喜びたい気持ちの方がはるかに強かった。

ただ‥完全に“お姉さま”が定着しちゃったなぁ。

少し照れながらそんな事も考えた。


「あーあ、明日香ちゃん、完全に“お姉さま”だね」

クスクスと笑いながらかすみも来た。

と、あっという間に、かすみも生徒に取り囲まれてしまう。

「かすみお姉さま〜、サイン下さい〜」

「ふえっ?? お姉さまは明日香ちゃんで‥」

「かすみお姉さま、一緒に写真を〜」

「私もー」

「お願いしますー」

かすみの説得も届かない様だ。

「あ、明日香ちゃん〜」

途端に情けない顔になるかすみ。

「ファンサービスだよ、かすみ」

ウインクで答える。

「そんなぁ」

戸惑いながらも、何とか対応するかすみだった。


それから小一時間後。

ようやく解放された私とかすみは、屋上から後夜祭で賑わう校庭を見下ろし、涼んでいた。

日の暮れた屋上は薄暗く、空には幾つかの星が瞬く。

校庭側だけがキャンプファイアの炎にちらちらと照らされている。

フォークダンスの音楽がかすかに流れてくる。


体はぐったりと疲れているのに、胸の奥に残った熱で鼓動が収まらない。

私達は夢の続きを見ているような、非現実感の中に居た。


「ステージ、すごかったね」

「うん、まだドキドキしてる」

かすみが体を寄せてくる。柔らかな髪が肩ををくすぐった。

「分かる。今夜は眠れそうにないよ」

「私もだよ‥これも明日香ちゃんのお陰だね」

「そんなことない。皆が頑張ったからだよ」

「ううん、もしあの時、明日香ちゃんが助けてくれなかったら、私きっと諦めてた」

「かすみのためだもん、当たり前だよ」

「当たり前じゃない‥私には‥特別、だよ」

かすみはキュッと私の腕を抱き、すりすりと頬を擦り寄せる。


「もっともっと、一緒にステージ、やりたいね」

濃紺に染まった星空を見る。

彼方に瞬く星。それは決して失われない、遥かな目標を思わせた。


「うん、次はもっと体力付けて、ダンスも練習する」

「私もVAの事、もっと勉強するね」

「うん‥」

そうして、キャンプファイアが消えるまで、二人で眺め続けた。



でも、その時の私は知らなかった。

部室に置いたスマホに何度も、母親からの着信が来ていた事に。

こんな幸せな時間の裏側に小さなヒビが、入り始めていた事に。

いかがでしたでしょうか。

ここから後半に入ってゆきます。

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