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窮鼠は踊る

お初です。

他のサイトにもアップしたのですが、折角登録したのでこちらにも

挿絵(By みてみん)

私、綺羅明日香きら あすかは教室の窓際、机の陰に隠れていた。

放課後の人気のない教室。

夕日が窓から差し込み、オレンジに染まった床に窓枠の影を落としている。


―――ゆっくり息を整えて―――

そう、心をゆっくりと落ち着かせ、意識的に心拍と呼吸速度を下げる。

ヨガにもある基本の呼吸法だ。

そうして自分の存在感を消してゆく。

そうしなければ、″奴″に見つかってしまうかも知れないから―――。


意識を机の向こう側、外の廊下へと向ける。

遠くから聞こえる足音に、こちらに向かう意思は無いだろうか?

物音を立てずにじっと待つ。

じっと―――

じっと――――――

何度か遠くに聞こえる足音が遠のき、消え、そして、無音に―――なった。


ブブーーッ!ブブーーッ!ブブーーッ!

「!!!!?」

突然ポケットから流れる振動音―――思わず取り出し見ると、スマホの着信ランプが明滅していた。

『明日香、あすか、アスカーーー! この前のユニットの件―――』

発信は親友の”七尾かすみ”からだった。

恐らく、いや間違いなく一番の親友。幼稚園以来の幼馴染。

だけど―――

「わるっ、かすみ、今取り込み中だから‥!」

一言だけ返して切る。

まぁ、大体用件の予想はついていて、私はそれを受ける気は無いので、今はこれでいい。

後でこちらから連絡をすることにして、溜息を一つつき、机の陰から立ち上がる。

「みなよんもさすがに諦めたよね? 私を追いかける位なら素敵な彼氏を‥」

緊張から解放された反動で、つい独り言が漏れる。

「彼氏が‥何?」

「ひっ! な、なんでも‥ありませんんん、先生」

かすかに返答に動揺が出る。

「―――よくここが判りましたね?」

言いつつふりむくと、そこには腕組みをした渡辺美奈代みなよん先生の姿。

この教室に隠れるのは今回が初めて。ここに至るルートも初めて通った場所ばかりのはず。

なぜ判った??

「それは、そこ、女の勘で教師の勘ってやつ?」

『まるっきり当てずっぽうじゃないですかっ!』思わず心の中で突っ込みを入れたが、言葉にはしない。

彼女の野性的な勘に痛い目を見たのは、初めてでは無いから。

ジワジワと間合いを詰めてくるみなよん。

一見にこやかな笑顔だが、瞳の奥には真剣な光が‥。


脱出口である教室の出入口は完全にみなよんの後ろ。

完全に退路を塞がれた格好になる。

「さすがは渡辺先生‥」

言いながら別のルートが無いか考えてみる。

何か‥何か方法は無いだろうか。

「私なんかより、もっとVAに向いてる娘、居るじゃないですか? どうしてそうしつこく‥?」

「それは、あなたのハートがVAを、歌を求めているからよ!!」

「ご、誤解ですって!」

「そんなことはない、私には分かるわ!」

断言するみなよん。

だめだ、これじゃいつものパターン‥。

「それに、生徒は必ずどこかの部に所属しないといけないの。明日香さんは‥無所属よね?」

痛い所を突かれ…思わず後ずさる。


じりじりと後退する私をからかうように、傍らのカーテンが揺らぐ。

「!」

私は一瞬の間合いを取ってしゃがみこみ、揺らいだカーテンをくぐり、窓へと突進した。

「ちょっ!」

これには、流石のみなよんも予想外だったらしく、一瞬反応が遅れる。

それはそうだろう、ここは二階で窓の外に出入口は無い。

私は突進の勢いそのままに教室の外へ―――虚空へ飛び出した。

そう、カーテンの陰の窓は、開いていたのだ。

日直の娘が閉め忘れていたらしい。

誰だか知らないがGoodJob!!


窓の外へ飛び出した私は、パルクールの要領でそのまま半身をひねり、校舎と校庭を仕切るフェンスの上に着地、そこから夕日に染まった校庭に降りて一目散に走った。


「綺羅さんってば!」

みなよんがこちらを見て呼ぶ。

「今日、全国大会の最終日! だからさ、‥ごめん!」

最後は何だか、忍者の台詞みたいなのを言い残しつつ校庭を突っ切る。

「もう! 絶対に楽しいから! VAルームで待ってるから来なさいよーーーー!」

窓から身を乗り出したみなよんの声が追ってくる。

が、今回は諦めてくれたらしい。


ほっと、溜息をつきながら私は最寄りの駅に向かった。


学校での追撃を振り切った私は、数十分後、池袋の西口にある場末のゲームセンターに居た。

池袋駅西口周辺も、2030年のオリンピックを機に再開発が進んだ。

歓楽街からオフィス街へと姿を変えたが、一部には昔の姿を残した場所もある。

ここはそんな昔ながらの雰囲気の残る店だった。

薄暗い店内で明滅するモニター。

少し淀んだ空気に古い電子機器の、焦げる様な匂いが微かに混じる。

アミューズメントパーク化した店ばかりの現代では絶滅種と言って良いタイプの店だ。

でも、私はこの店が結構好き。

ここではプレイヤー同士お互いの素性は気にしない。

気にするのはスコアとプレイのテクニックのみ。

だからこそ、日常を忘れてゲームに没頭できた。

もちろん、制服のままではマズいので着替え、制服は鞄の中。

ルーズなTシャツにジーンズ、ロングヘアーはまとめてキャップに押し込み、一見男子の様なラフな格好をしている。


目的はこの店にあるオンラインダンスゲーム。

昔ながらの、画面上から下へ流れるタイミングマークに合わせてステージでステップするというもの。

原型は今から30年近く前に発売され、一時期はかなりのブームになったのだとか。

今ではこの機種を見ること自体少ないが、昔からのファンが付いていて、こうやって年に数度のオンラインランキングも継続的に行われている。


空いていた筐体にカードをタッチしてクレジットをチャージ、ゲームを開始する。

もちろんゲームの難易度はMAXを選択、今日は最高点を狙うつもり。


「ぴろろーん」

軽快なスタート音とともに音楽が流れ、画面を多量のタイミングマークが流れる。

―――ダン!ダン!タタタッタ!

前・後・前・前・右!

タイミングマークと音楽に合わせ、手足を動かす。

意識はリズムに7、タイミングマークに3の割合。あくまでタイミングマークは参考で、体を動かすのはリズムに合わせる。

高難易度では、いちいちタイミングマークを見て動いていては間に合わない。


私はゲーム音楽に集中して、半ば無意識に手足を動かした。

音楽に体が溶けてゆくような、かすかな浮遊感に身を任せる。


曲は中盤にさしかかり、私は快調にスコアを伸ばしていた。

現時点では全国ランクの暫定一位。

このままのペースでスコアを稼いでゆけば、曲の終了時にランキングトップの可能性も高い。

と、そこで私はスコアの奇妙な表示に気が付いた。

この機種では現在プレイ中のスコアの中で、自分に近い順位をグラフで比較し、表示する機能がある。

全国暫定一位の私の画面に表示されるのは、当然2~4位のプレーヤーとなる訳だが、

そのうち一人のプレイヤーがどんどんスコアを伸ばし、私に迫ってきている。

もちろん、私のスコアも伸びているのだが、そのプレイヤーの伸び方がはるかに早い。

じわじわと差がつまり、曲の終盤では逆転されそうな状況。

周りの客もその事に気付きはじめたのか、ざわめきはじめた。

「おい、あの台のスコア、すげーぞ!」

「いや、対戦相手のスコアのが異常だろ!!」

すこしづつ私のプレイするゲーム機の周りに人が増えていく。


1分後、状況は私と謎のプレイヤーの一騎討ちとなった。

他のプレイヤーのスコアは二人に比べはるかに低く、

どちらかが全国ランキングトップになることは明白。

―――ダン!タタタッタ!タタタタ!

前・前・前・右・前!

曲が終盤に入り、最も難易度の高い箇所にさしかかる。

私のスコアの伸びが一段と増す。

だが、追ってきている相手のプレイヤーも同様の難易度なのだろう、驚異的とも思えるスコアの伸びを見せ、私に肉薄する。

すでにスコアはほぼ互角。


―――タタタッタ!タタタタ!

左・前・左・右・前!

曲が最終盤にさしかかる。

すでに相手プレイヤーのスコアが僅かにこちらを上回っている。

私も必死でプレイするが、いかんせん相手のスコアの伸びが異常すぎる。

離されないようにプレイするので精一杯の状況。

「だめか―――!」

たかがゲーム、されどゲーム。やはり自分が好きな物で負けるのは悔しい。

好きだからこそ、負けたくない。

その気持ちはゲームでもスポーツでも一緒だ。


『ぴんぽーーん』

「え?」

予想外の事態。

突然、SEとともにプレイ画面にチャットメッセージのウインドウが表示される。

しかも送信したのは当の対戦相手の様だ。

―――ジャンジャン!

と、その時に曲が終了、スコアとランキングが表示されはじめる。

結果は私が全国ランキング一位、相手は二位となった。

最終盤で逆転されていたのに、結果で私が勝ったのは、終了直前に相手のスコアの伸びが突然止まったから。

もちろん理由は明白、相手は曲の終了前にプレイを止め、チャットのメッセージを入力したからだ。

‥そのままプレイすれば全国ランキングトップを取れたにもかかわらず。

勝ちを譲られた形だが、私は悔しいよりももっと複雑な気分だった。

チャットメッセージにはこう書かれていた‥。


「明日香さん、私と踊ってください」


先のゲームの後、私は店を出た。

何だろう、胸がざわつく―――。

自分の感情の変化の正体を把握できないことに苛立ち、ゲームを続ける気分にはどうしてもなれない。


原因がゲームでのチャットのメッセージであることは明白だし、その内容が問題なのも理解している。

あの店で、いや、日本中のゲームプレーヤーにあのゲームをプレイしていたのが私であるという事を知っている者は居ないはず。

もともとプレイヤーネームは名前と関係ない物にしているし、プロフィールなども記載していない。

用心のため、と言うほどでもないがゲームの支払いに使用したのも、コンビニで現金購入したプリペイドのポイントカードで、こちらからも個人情報が洩れる事は無い。

なのにあの謎のプレイヤーはメッセージで私の名を呼んだ。

まさか適当に書いた名ではないだろう。

であれば、あの相手は私にも想像できないような何らかの方法で、私を発見できるということになる‥。

まだお話続きます

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