4. 希望と全世界幸福論
「ダメでしょ。不幸だって思ったら。そう言う話でしょ」
希望は私が話した不幸な少女の顛末を聞いてそういった。
「そうなんだけどね。だから、幸せって何なんだろうねって思ったわけさ」
「その少女も幸せになれればいいけどね。そのためには愛がその少女のことを不幸と思うことを改めなければだけどね。そう言う話でしょ」
「わかってるよ」
人から不幸と言われて不幸になっている少女のことを不幸だなんて思ってはいけない。連鎖は止めなくてはダメなのだ。
「その後はどうしたの。その少女に会って」
「うん、その女の子を誘って、あたりを観光したよ」
「楽しかった?」
「楽しかったよ」
「じゃあ、なんでそれを話さないの」
「あまりトピックスがなかったから」
「でも、そこまで話さなければ聞き手にとって彼女は不幸な少女は不幸なままだったかもしれないでしょ。それは私には必要なものだったの」
「そうだね。でも、一個特徴的だったのは、なぜかずっと茄子を持ったままだったんだよね」
「それで特徴的な真っ赤な服を着ていたんでしょ」
「そうだよ」
「あれでしょ。災転じてフクトナスってこと」
なるほど? か?
「ちなみに、今の話に私も出てたよ。名前も見た目も違うけどね」
「えっ」
今の話に出てくるとなると候補になるのは弟の薫、妹の雫、朱里、花、エレナ先輩と堀くんぐらいだろうか。薫にしたら知能指数が足りないし、雫がこんな面倒くさいことをやるわけがない。
花だったら敬語になるはずか、でも花なら平気でタメ口を使いそうだ。というか逆にエレナ先輩だとしたら、私がタメ口を使っていることにならないか。
「不幸というのは嫌だけれども」
希望が滔々と話し出す。私に考える間を与えてくれない。
「そりゃね」
「でも、国民全員が幸せになるって簡単なことだよね」
「そうなの?」
そうだとは思えないが。何を言っているんだと思っているが。
「なにが幸せなのかの定義は様々あるけれども、ここでは幸福度調査で幸せと答えるかどうかとします」
「幸せと答える人を一〇〇%を目指すと言うこと?」
ある種の思考実験といったところだろうか。希望が簡単なことだと言ったからには彼女なりの答えが用意してあるのだろう。
「やっぱり、不幸だって言った人に対して何らかのサービスを……」
不敵な笑みを浮かべる希望を見て、答えが違うだろうなと気づき口から出る言葉が止まる。
それならば。
「じゃあ、最初から幸せを与えなければいい。そうしたら自分が不幸なことなんてわからない」
かつて国民の幸福度が高く幸福の国と呼ばれていたが、ネットの普及により他の国の暮らしぶりが知られたことで幸福度が下がった国があったはずだ。
「悪魔的発想だね。けど、どうやってやるの?」
「悪魔じゃ無いからそこまではわからないよ」
「じゃあ、答えになってないでしょ。なんでもっとよく考えてくれないの。愛ならできるのに」
「じゃあ、答えを言うけどね」
考え込む私に希望が痺れを切らしてそう言った。私ならできると言ってくれたばかりではないか。
「その方法は幸福だといった人のみにお金を渡すってことだよ。そしたら、お金をもらいたくて幸せって言うでしょ」
「貰える金額にもよるけど、そんな事されたら反抗したくもなるんじゃないの」
「それなら、幸せって言いたくないレジスタンスは国外追放にでもすればいいよ。これで全国民が幸せな国ができました」
「それは、幸せなの?」
「統計上はね」
「電車まだ来ないね。あっ、そうだ」
何かを思いついたようにテンションを上げる。
反対方向の電車が来るようで近くの踏切が鳴っている。
カン、カン、カン
「やっぱり、愛が喋るお話が好きなの。だからなんか話してよ」
希望は踏切の音に負けないように声を張り上げてで私に伝えた。でも、なんで今思いついたように言うんだ。さっきから話しているではないか。でも希望のリアクションがいいのでついつい調子に乗って話してしまうのも事実だ。
仕方がない、今度は幸福な男の話をしようか。