13.最後に希望と
「それでどうしたの」
希望は私に続きを促した。
「知っているでしょ。その場に居たんだから」
希望は笑顔だけで私に応える。
私たちはその集落の人たちを最初に幸せの薬を発明した国に連れて行くことにした。
その国の人たちは幸せそうに迎え入れてくれた。薬を飲んでいるので。
集落の人たちも幸せそうであった。薬を飲んでいるので。
まぁ、この国には薬を飲んでも暮らしていける仕組みがあるのだから大丈夫だろう。
「どうすれば良かったのかな。これが最善だったと思う?」
私にはこれしか思いつかなかった。完全解決では無い。まさにできるだけのことはやったといった具合だ。
「ひとつだけ愛も幸せになれる解決方法があるけどね。愛も薬を飲めば良かったんだよ。そうしたら、みんなが幸せになれる」
「当事者としてもそう思うの?」
「気付いたんだね。私が誰なのかを」
「うん。あなたはみんなだったんだね」
そう、希望はVRに出てきたプレイヤー以外の全てのキャラクターだ。いわゆるNPCというやつだ。
幸せなニュースをした時に、レナのように幸せには犠牲が必要と言っていた。
趣味は人の役に立つことなんて、マヲみたいなことを言っていた。
話をした後に怒ってごめんと謝っていたのは、幸せになりたいタール国王の時のことだった。
「私はこの世界の全てなの。愛が経験した話も私が考えたもの。愛が話す順番だって思いのままだよ」
話しているようで、話されていたということなのか。
「不幸な少女の奏ちゃん、幸せと言われた画家のナガ、幸せを求める王様のタール、幸せポイントに振り回される少年のマヲ、魔女っ子スパイのレナ、最後に水汲まないガールのモモカ」
そこまで仕組まれていたのか。
「そう、頭文字を取るとカナタマレモになるの。ちょっとしたヒントだけどね」
「それじゃあ、私と話していても楽しくなかったんじゃないの?」
「楽しかったよ。それだけは本当」
希望は何かを逃してはいけないとばかりに息継ぎを短く続ける。
「だって、愛はすごいんだよ。私が考えたお話だとしても、愛の行動は制御できない。話に則って考えて、最終的に愛は期待以上の対応をしてくれるの。私はそれが見たくてたまらないの」
希望の言葉は嘘みたいに真に迫ってくる。
「でも、一つだけ気掛かり。愛が楽しいって、幸せって思ってくれてなきゃ、私も幸せになれない」
「とても幸せな時間だったよ」
希望に私の本心を伝える。いろんなことがあって、結局は希望の掌の上だったとしても私も楽しかった。
幸せとは大切な人と過ごすことみたいな楽しい瞬間の積み重ねなのかもしれない。実際に今、とても幸せだと感じている。人生においてこの楽しい時間をできる限り増やすこと、それでいいのかもしれない。
「それなら、薬がうまく効いたみたいね」
「えっ……」
希望の冗談であろうが、その不幸なニュースに何故だかやけに科学的な味がした苦い麦茶を思い出していた。
VRゴーグルを外すとぐっと疲れを実感する。
実際に感じている量とは差があるようなのだけれども、VRで遊んでいるときには実際の体も動かしている。
かつては、体を動かさないでVRをすることもできたが、脳が感じている運動量と実際の運動量の差によって健康障害が引き起こされる恐れがあるため、現在では体を動かせるVR施設が生まれたのだ。
「はあ、楽しかった」
でもその疲れの分だけ楽しさが実感できる。あれが夢幻ではなく、現実の延長線上なのだと。
あっ、話し忘れたことがあった。でもそれはまた今度でいっか。
これで完結となります。
読んでいただきありがとうございます。
ネタと需要があれば続きも書きたいです。