11.幸福になれる薬
とある国にやってきた。
見たところヨーロッパの古い町並みがモチーフのようだ。白い壁と石畳に反射する光は印象派の絵画のような煌めきを感じる。
VRの世界には実写に近いものもあれば、このように絵の世界の中に入り込んだかのようなエフェクトの世界もある。
しかし、絵の世界の中でも街全体の埃っぽさや露天の活気、馬の足音などはリアルに感じられる。
大通りを歩いていると向こうから鎧を着けた騎馬隊がやってきた。近隣の国と戦争をやっているのだろうか。どこか張り詰めた雰囲気がある。
他の住民と同じように進行を止めないように道の端による。
しかし、目の前で騎馬隊の先頭にいた鎧にマントをつけた人物が馬の手綱を強く引っ張る。馬はヒヒンと前足を宙に上げてから止まった。
「おまえ、見かけない顔だな」
その男は完全に顔は私の方を向いて話しかけてきた。
顔を判別できると言うことはそんなに大きな国ではないのだろう。しかし、今考えるべきはなんて答えるかだ。
「いや……」
「その奇抜な格好、魔女の仲間なのか」
私の服装は黄色のハーフパンツに青いレギンス、ピンクのTシャツには”ONOMATOPE”と書かれている。
VR内に入ったら勝手に着せられていた。まぁ、奇抜と言われても仕方がないが、魔女らしいのだろうか。
というか服装が他の人と違い過ぎたから目をつけられたのか。周りを見渡しても茶色基調としたワンカラーコーデの服を着ている。
そして、この国にとっての魔女とはどういった存在なのだろうか。忌み嫌われてはいないだろうか。不安が私を掴んで離さない。
「おい、魔女の巣に連れて行ってやれ」
馬に乗ったその男は部下の歩兵の一人に言った。逆らうこともできず、その兵士の後をついて行くことにする。
ふと、足下に気配を感じて見るとどこからか犬がすり寄ってきていた。その犬は町の雰囲気に溶け込んでいる少し汚れた大型犬だ。でも、かわいい。
犬の首元がきらりと光り、よく見ると首輪に金属製のカプセルがついていた。
わたしが立ち止まりしゃがんでも、その犬もお座りをしてこちらを見て舌を出してハァハァと喋っている。
「ちょっと、おとなしくしていてね」
手を伸ばし、カプセル下部をくるくると回して開ける。中から丸まった紙がでてきた。開いて内容を見ると、「花さんが同行したがっています。承認しますか?」と書いてある。
約束をしていたわけではないが、フレンド登録された人が同じタイミングでVRを利用しているとAIが空気を読んだ上で通知が来て一緒に楽しむことができるのだ。
犬に向かって「OKだよ」というと、犬は踵を返してどこかへ走って去っていく。そうすると、路地から花があらわれた。
「ありがとうございます」
花がへらへらしながらお礼をする。花はジーンズ生地のサスペンダーのついたふっくらと膨らんだパンツに縦の筋がついた白いタートルネック、丸い大きいだて眼鏡にベレー帽といった姿だ。
「あの人について魔女の巣に行くんだって」
先導する兵士を指さして花に今の状況を掻い摘まんで伝える。
「何ですか、それ?」
「なんだかわからないけど、魔女だと思われていて魔女のいるところに行く最中」
「そんなとこに行くモナカだったんですね。でも、どこが魔女ッ娘なんですか?」
「サナカね」
サナカとモナカは漢字で書くと同じ最中なのか。危ない。活字で書かれていたら急に語尾にモナカとつけるご当地モナカアイドルになったのかと思われるとこだった。
「この格好が奇抜で魔女なんだって。よくわからないよね」
「そのオノマトペと書かれたTシャツがですか?」
私のTシャツを見てにやけ顔で花が言う。
「なにさ」
「にやにや」
「なに笑ってるの、怒るよ」
「おろおろ」
花が慌てふためく演技をして言う。
「オノマトペで答えないでよ」
「ぺこぺこ」
花が音に合わせて頭を下げてながら謝った。
「うわ!」
先導していた兵士が騒がしさに振り返る。つれている人が急に二人になっていたことに驚いた。そして、兵士は後ろ向きになったまま、石畳の小さな段差に躓き、積まれた木箱にとぶつかり吸い込まれるように薄暗い裏路地に倒れ込んで入っていった。まるで、喜劇映画のワンシーンのようだ。
「きゃ」
若い女性の悲鳴が聞こえる。
兵士はすいませんと謝りながらピンクのローブを着た女性と裏路地から出てきた。
「でも、ちょうど良かったです」
兵士は反省も恥ずかしがることもなくあっけらかんと言う。ポジティブが過ぎている。
「あの人、先輩の知り合いですよね」と花が憐れむように私に話しかけてくる。
「この人達を魔女の巣に連れて行ってください、魔女さん」
兵士は話を続ける。そのショッキングピンクのローブの女性がどうやら魔女らしい。
色を除けばイメージの魔女らしい服装だ。だとしたら、私の服は魔女らしいと言えるのだろうか。派手なだけしか同じところがない。謎だ。
「この服、魔女みたいな服ですか?」
兵士に聞いてみる。
「僕はそうとは思ってないですよ。隊長がそう言っただけで。でも、もし魔女さんの仲間ならば連れていかなければと思いまして」
なんと。そんな適当な話で、どきどきと不安な気持ちで後ろを付き歩いていたのか。不安な気持ちを返してくれ。ん、返してくれなくていいのか。
「では、僕はここで」
兵士はそのまま帰って行くかと思ったら、魔女の方に顔を向けた。
「ついに明日ですね。国民一同、心待ちにしておりました。感謝申し上げます」
急にまじめな様子でそう言うと、兵士は足早に来た道を戻って行った。
「それでは、道案内をお願いできますか」
ピンクのローブのフードをかぶっており、顔が見えない魔女に向かって言う。
もう向かう必要も無いのかもしれないが、他に行く当てもない。行けば何かがあるだろう。きっとそうだろう。
「はい、案内します……よ」
その魔女はフードをとった。銀髪のショートヘアに褐色の肌。短く切られた前髪でおデコの多くがあらわとなっている。少しにやけた表情は人懐っこそうな印象を与える。彼女の名はレナと言った。
「でも、魔女の巣に帰る前に少し付き合ってもらえますか。同郷の人と話し込んでしまっていて、お使いの買い物ができていなくてまずいのです」
このままだとまずいらしいので、三人で町の中心にあるという市場に向かう。
「明日何があるんですか」
兵士が最後に言っていた言葉が気になり質問をする。
あんなに適当の限りを尽くしていた兵士が真面目になっていたのだ。何か大きなものがあるに違いない。
「明日は宿願が叶うかもしれないのです。今はそのためのお使いです」
レナが先導しながら背中越しで話す。
「宿願って何ですか?」
「全国民が幸せになることなのです」
「どうやって、全国民をも幸せにするんですか」
「魔女が作った幸せになれる薬を飲めば幸せになれます。やばい薬じゃないですよ。国も認めた健全なやつです。脳から幸せホルモンが過剰分泌されるとかそんなのです。長らく隣国との戦争が続いていて国民は不幸なのです。だから、救ってあげることが必要なのです」
レナが言う幸福になれる薬とはまさしく、飲めば誰でも幸せになれるという薬だった。眉唾物ではあるが、こんな逸話があるらしい。
幸せの薬を開発したのは、ある城塞国家で文化レベルがとびきり高く、全てが全自動化されているという。
何人もの人がその噂を聞き、幸せの薬を入手するため向かったが、誰一人としてその国から帰ってこなかった。
しかし、この前その都市にたどり着いてみると、その都市に向かった仲間は皆生きていて、薬を飲み幸せになって幸せすぎてこの都市から出るのが嫌になってしまったのだけだという。
その人は薬を飲まず、レシピを聞いて帰ってきた。
「それで、買い物ってなにが必要なんですか?」
レナはメモを取り出す。
「えっと、材料はダイオウイカの脊髄、アナコンダの声帯、ホオジロザメの永久歯、シロナガスクジラの有精卵」
花が不審な眼差しを向けている。私もそんな目をしているだろう。
「何ですか、その目。幸せには犠牲が必要なんです」
いや命の犠牲の話じゃなくて、そんなものは無いだろうという目だったんだが。
「それで、どこに買いに行くんの」
花は今のくだりでため口でいいと判断したのだろう。
「新参者なのでこの町にはあまり詳しく無いのですが、何でも屋というお店があったんです。何でも有りそうでしょ」
いやいやと思っていたが、結果だけ言えばその店にはホントにあった。
何でも屋は怪しげな雰囲気を醸し出しており、それに似付かわしいほどの妖気を纏った老婆が店番をしていた。レナはおどおどしながらも買い物のメモを差し出す。
「クックック」
突然笑い出す老婆。レナの肩がびくりと跳ねる。
「よく来たね。これらの品はここらへんじゃどこを探してもこの店にしかないよ。そしてこれで最後の品さ」
「もう手に入ることはないんですか」
「貴重なものだからねぇ。一般に出回ることはまずないよ。あるとしたら初めに幸せの薬を作った国ぐらいだろうね」
「これ以降、もうこの国では薬が作れなくなるってことですよね」
レナが聞く。
「簡単にはできないだろうね。それを持っていったら、早くお帰り。これでもう店を畳むからね」
売り物に欠品があると何でも屋を名乗ることができないため、店を閉店するとのことだった。看板に偽りなく、何でもあったらしい。
「蓬莱の玉の枝はありますか」
花が老婆に突然訊ねる。蓬莱の玉の枝とはかぐや姫が婿候補に出した無理難題だったはずだ。
「もちろんあるよ」
「やったー。これでかぐや姫と結婚できますよ」
「かぐや姫がいないでしょ」
私の言葉を受けて花が老婆に再度尋ねる。
「かぐや姫はありますか」
「もちろんあるよ」
「本当になんでもあるんですね」
「ああ、なんでもあるよ」
「さっきのはキャンセルでいいんで、鉢嶺愛を三つください」
「それなら奥の方に」
「怖いこと言わないでよ」
花の手を引いて逃げるようにして店を出る。
「そういう人をモノのように扱うの冗談でも嫌いです」
レナも花に苦言を呈していた。
「かぐや姫より欲しいと思われていることに喜んでくれてもいいのに」
とりあえず無事に買い物を済ますと魔女の巣と言って連れてこられた場所はタマネギ型の煙突がついた建物だった。周囲は高い柵で囲まれている。
門の前には物々しく武装した兵士が護衛している。レナは気にせず進んでいくが、私はおどおどしながら後をついていく。軽く会釈なんかもしてみたりする。しかし、兵士は気にする様子もなく正面を向いている。そして、門を抜けてしまえば兵士がいることが安心に変わる。
「魔術長、えっと……お客様です」
レナは私たちのことを魔術長に説明しようとするが、なんて説明したら良いのか戸惑っている。無理もない、私だってなんでここに来たのかわかっていないのだから。
「お前たちどこから来たんだ」
魔術長が優しい口調で問いかけてきた。しかし、当然の如く怪しまれているだろう。笑顔なのが逆に怖い。
「えっと、遠くの方からですかね」
「まぁいい、憎き敵国イランドのものではなさそうだな。ならいいが何しに来たのだ」
困った。何をしに来たわけでもないのだ。でっち上げてしまおう。
「えっと、幸福になれる薬というのが気になっていて」
「そうなんですか」
花が空気も読まず驚く。でっち上げているのを気付いているだろうから、余計にタチが悪い。魔術長は相変わらず笑顔のままだ。
「今日は気分がいいので特別に見せてやろう」
「魔術長は既に薬を飲まれているのですよ」
レナが耳打ちして教えてくれる。気分が良いのはそのおかげらしい。そう言われてみれば幸せそうな笑顔をしている。怖いはずがない。
「幸せになる薬の倉庫は上の者しか知らないのだが。まぁいい、ついてこい。レナもついてこい」
「はい!」
レナはまだ薬を飲んでは無いのだが、とびきりの笑顔で答えた。
薬の保管されている倉庫は、分かりにくい敷地の奥のほうにあった。薬は粉薬で水に溶かして飲めば、幸せになれるのだと言う。
わざわざ見せてもらったが、ただの白い粉で見ても面白いと思うものではなかった。味はザ・薬といった優しさの足りない苦さがあるらしい。
今日はもう遅いからと言って客間に泊めてもらうこととなった。薬を保管していた倉庫とは一番離れた位置関係にあるが、別に信頼されていないというわけではないだろう。
部屋にあるツインのベッドを見ると否や、花は奥のベッドに飛び込んで占領した。
「先輩もベッド選びたいですか。一度飛び込まれた窓側のベッドか綺麗のままのドア側のベッドか」
「ドア側のベッドでいいよ」
「私の綺麗なドア側のベッドがいいです」
「なんでよ」
「冗談ですよ」
ベットでウトウトしていたが、なんだか外が騒がしい。注意して耳を傾けると悲鳴や怒号が聞こえてきた。
飛び起きて窓の外を見ると街のいたる所から煙が上がっている。
「大変なことになりましたね」
後ろから覗き見てきた花の言葉に頷くしかない。大変なことになった。
部屋を出て、一番広いホールに行くと人々が集まっていた。魔女だけでなく市民も逃げ込んで来たようだ。
「兵隊さん達が入り口は封鎖して守ってくれていますから大丈夫です。皆さん落ち着いて下さい」
一人の魔女が皆に声をかけて回っている。
ホールの中にレナを見つけたので、話しかける。レナの服には煤けた汚れがついていた。
「何があったの?」
「イランドの人たちが攻撃を仕掛けたみたいです」
敵が攻めてきているとのことだ。昼間は割と穏やかであったと思っていたが、敵は私たちのそばにも潜んでいたのだろうか。
その時、私たちの部屋がある方向から魔女が走り込んでくる。
「火が、火が」
彼女を追いかけるように黒い煙が追いかけてきた。
ホールにいる人たちはパニックを起こし、外に出ようと出口を目指して人を押し退けていく。
「私たちも逃げた方がいいかな」
「薬が心配です。無事かどうか倉庫を見に行きましょう」
レナが答えた。
「押すな。詰まってる」
「バリケードを壊せ」
怒号が後ろから聞こえる。
建物の外には敵が入ってこられないようにバリケードが設置してあったため、外に出ることができず人々がひしめき合っている。
その人たちを背に幸せになれる薬の倉庫へ向かった。
倉庫の方は比較的静かであったが、たまにつんざく爆裂音が響き渡る。倉庫の中を確認するが、薬は無事であった。
「よかった。薬がダメになっていたら国の人に申しわけが立たなかったので」
レナが安堵した様子で言う。
数名の兵士が私達の来た方からやってくる。
安堵しかけた瞬間、よく無いものが視界の端でとらえる。その兵士はこの国とは違う国旗をつけていた。
街に貼ってあるポスターでバッテン印がついていたのを見た敵国イランドの国旗だ。
「レナ、薬があるのはここか」
「はい、この倉庫の中です」
レナは当たり前であるようにその敵国の兵士の言葉に答えた。
「えっ、裏切ったの?」
そう言われてみれば、レナは同郷の人と話し込んでいたお使いができていないと言っていた。
作戦の打ち合わせでもしていたのだろう。
この町も新参者でよく知らないと言っていた。この国に来たばかりだったのだろう。
思い返してみれば、レナは嘘を一つも言っていなかった。
「裏切ったってあなた方はこの国の人じゃないでしょう。私たちの国、イランドにも幸せになれる薬が必要なのです」
「でも、なんか。こんな一方を不幸にさせなきゃいけないことなの」
幸せの薬を巡って不幸になる。こんな悲しいことはない。
「言ったでしょう。幸せには犠牲が必要なんです」
それからイランド軍の兵達が続々とやってきて、薬を運び出していった。レナも共に去ろうとしている。
「これでお終いなの?」
「そうですね。もう会うこともないでしょうが、幸せに暮らしてください。私も幸せになりますから」
レナは背を向けて去っていく。もう二度と戻ってくることはなかった。
幸せを目指したこの国は、幸せの薬を巡って敵国に攻め込まれ幸せとは程遠い姿の国になってしまった。
「お前たちそこで何をしている」
薬の倉庫の前でボーと立ち尽くしていた私たちに声をかけられた。気づくとイランド兵のペアが目の前に立っていた。
「ここで何をしている。ここは作戦上の重要拠点なんだぞ」
作戦上の重要拠点であれば簡単に口にするべきではないだろう。
「あれ?」
「なんでこんなことになっているんですか」
「さぁ」
私と花はイランド国に連れてこられ牢屋に入れられてしまった。
「なんで、なんで、なんで、なんで」
「パニクらないでよ」
「じゃあ、スプーンで穴を掘るか、鍵を咥えた犬から牢屋の鍵を貰おうとしてくださいよ」
「スプーンも犬もいないよ」
「シールドマシンで掘っても、鍵を咥えたケロベロスからもらってもいいですよ」
「どっちもないよ」
「二人っきりですね。へへっ」
「どうしようかね」
「シールドマシンに邪魔されることもないですよ」
ドンと急に深く体に響く音が聞こえる。大砲が打ち込まれた音。戦争の始まりを告げる音だった。連続して音と振動が襲ってくる。
本格的にまずいことになった。戦火は迫っている。牢屋の中で焼け死んでしまう。
花は不貞腐れてやけになっている。私は扉をガタガタと振るわせて「たすけてー」と叫んでいた。
「こんなところで何やってるんですか?」
そこにいたのはレナだった。魔女の衣装と呼ばれていたピンクのローブではなく、刺繍入りの青い長袖ワンピースを着ている。
「幸せそうではないですね」
レナはニコニコとそう言った。
「ここで出会ったのも何かの縁です。助けてあげます。あなたたちは敵じゃないですし」
「なんでこんなことになったの。争いなんてしなくちゃいけないの」
「私たちの国はあの魔女の国に搾取され続けていたのです。王子が人質になっていることもあり、人手が足りなくなった時には連れていかれ消耗品のように働かされて、育てた作物も半分も持っていかれ、さらには魔女の人体実験の材料として我が国民を使っていたのです」
牢屋から出て暗い階段をのぼり、明るい方へと向かっていく。
外に出て見渡すとおよそ街とは言えない光景が広がっている。建物は崩れ、火を吹いている。くぐもった嫌な匂いはこれ以上息を吸うことを躊躇わせる。
「見た通りこの国はもうダメです」
反撃にあったイランドは惨憺たる状況であった。
「でも後悔はしていません」
私も花も返答できない。なんと言っていいのかわからない。
「散々いろんな私たちの大切なものを盗んできたんだから、私たちだって、その幸せの希望を、その薬を奪ったっていいじゃないですか。幸せの薬はもう私たちのお腹の中です。どうやったって奪い返されることはないんです」
レナは声に出すことで正しさを確かめるようにして続ける。
「だって、何もしないままでは不幸のままだったんです。人の幸せを奪ってでも幸せになりたいと思ってしまったんですよ。その結果がこれでも、やれることをやりきったんです」
レナは悲惨な姿になった祖国を見ても平気な顔をしている。私は……。
「そんな顔しないでください。私は幸せですから」
「本当に幸せなの?」
「はい。幸せなまま死ねる。こんな良いこと他にないでしょ」
煙と炎に埋め尽くされ黒く染まった国だったものを背景にそのレナの満面の笑みは異質に映った。