8-2.幸せを求める王様(今回のオチ)
翌日、今度は王宮にあるゲストルームの天蓋付きベッドでぐっすり寝て、目を覚ます。
私たちの昨日から着続けているパジャマを見かねて、立派なドレスに着替えさせてもらった。フリルがいっぱいついていて、膨らんだスカートのドレスだ。なんかの映画で見たコルセットでキュウキュウにお腹を絞められる体験をした。
そして、日が変わったということは、今日が幸せを私が紹介しなければいけない日だ。
「早く、ワシを幸せにさせてくれ」
早速王様に呼ばれ、目の前に座らせられる。
「しかも、その幸せを明日も楽しめる装置もあるからの」
王様は昨日の追体験装置はお気に召したらしい。期待した目で私を見ている。
「それでは、お聴きいただきましょう。世にも珍しい異国のお話を」
しょうがない、千夜一夜物語の如く面白い話をして満足してもらおう。
とある国に一人の王様がいた。その国は初代の王が不思議な壺を使って設立した国であった。
その壺は見つけた人の願いをなんでも叶えてくれる魔神が住むという品物で、初代の王がその壺に自由を願い、隷属されていた自分たちを解放したという過去を持つ。
現在の国王は国民が法律を守らないことに憤りを覚えていた。
国の刑務所は満杯であり、何より犯罪者がいることで善良の市民が不安に感じていることが問題だ。一般市民が真っ当に自分らしく生きる権利を犯罪者によって脅かされているのだ。
しかも、弱者を騙し奴隷の様に人を思いの儘に強制させて犯罪を行う集団が出てきているという。そんなことが許せるはずがない。
そこで王様は自分もその不思議な壺を使って、国民が法律に則って生きていけることを願うことを考えた。
そして、王様はその壺を見つけ出した。壺の蓋を開けると中から魔神が飛び出した。
魔神は王に問うた。
「一つだけソナタの願いを叶えてやろう。何が良い」
「すべての国民が法律に反することなく、従うようにしてください」
王様は即答した。魔神は冷静に返した。
「法律通りに生きるようだとしても国民を無理やり強制するのは、ソナタの信念を逸脱していないか」
「ワシを馬鹿にしておるのか」
話を聞き終わった王様の第一声がそれだった。何に怒っているかはわからない。面白くなかったのだろうか。予想外な返答に戸惑ってしまう。
「馬鹿な王の話をするなんて、暗にワシを馬鹿にしてるのだろう」
そんなつもりはなかったが、いくら言っても王様の怒りは収まらなかった。そうして私たちも前日の人のように王宮を追い出されてしまった。
こんなわがままな王様の下、国民達もさぞ苦労していることだろう。
王様に文句の一つでも言ってやりたい気持ちもあるが、なかなか権力者に逆らうというのは難しいものだ。深くは考えないが、要はビビっているということになるのか。
城下町で国民がどんな暮らしをしているのかを見ておこう。もし、悲惨な暮らしをしていたら、勇気を出して、踵を返して、文句を言いに行ってやろう。だって、死にゃしないのだ。
城下町の人だかりができているところへ行って見る。すると、王様の家来が国民に何だか呼びかけているようだ。
「皆さん、幸せを紹介してください。どんなアイデアでも構いません。幸せを紹介するだけで金貨五枚、一次選考に残れば金貨三〇枚、二次選考に残れば金貨六〇枚、王様に直接紹介できれば金貨百枚、これだけあれば三十年は遊んで暮らせますよ。そして、王様に認められれば一生遊んで暮らせることを保証します」
国民は皆豊かな暮らしをしていた。王様のおかげで。
そういえば、王様が金は国民に配るほどあると言っていたことを思い出した。実際に配っていたのだ。アイデアを出すだけで生きていける国民は幸せに暮らしていて、この国で幸せではないのは一番幸せを求めている王様だけなのかもしれない。