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第六話 悪役令嬢、学園の闇に挑む

学園の鐘が三度鳴り響いた午後、マーガレットは生徒会室の扉を静かに開けた。


「失礼します、マリー=クレアです。お呼びいただいたとか」


「来てくれてありがとう、マリー。いや、マーガレットと呼んだ方がいいかな?」


そう言って出迎えたのは、学園の生徒会長にして王太子――エドワード・アルベリックだった。


彼の傍らには、眼鏡をかけた冷静沈着な書記・リリアン、そして法学科主席のレオポルトがいた。普段の生徒会とは違う緊張感が、室内を支配していた。


「何のご用でしょうか?」


「端的に言おう。君の『奴隷解放案』が、予想以上に学園内外に波紋を呼んでいる」


エドワードが差し出した書類には、学園内の寮での暴力事件の報告が並んでいた。その多くが、従者階級の生徒に対するものだった。


「これは……」


「君が提案した“貴族の従者を対象とした教育支援案”と、“学業評価の完全平等化”に反発する声が、一部の貴族生徒に過激な行動を取らせた。これはその結果だ」


言葉を失うマーガレット。だが、やがて顔を上げると、静かに言った。


「変革には痛みが伴います。それは承知の上でした。けれど……暴力は許されない」


「その通りだ。だからこそ、我々は正式に調査を開始することにした。だが、外部に漏れれば王国貴族全体の信用にも関わる。……そこでだ」


エドワードは一枚の布地を取り出した。薄く染みた赤黒い痕――明らかに血だった。


「この証拠を手に入れたのは、君の使用人であるエリオットと、学園の警備隊長だ。彼らは襲撃現場を偶然目撃した。だが犯人は見逃してくれたという」


「わたくしの命が、エリオットによって救われたのですね」


「正確には、君を守るため、彼は規律を破った。従者が主君の命令を待たずに戦うなど、正式な礼儀からすれば異例中の異例だ」


「……でも、彼の判断は間違っていなかった」


エドワードはしばし沈黙し、やがて小さくうなずいた。


「我々生徒会としても、エリオットの行動は正当防衛と見做す。ただし、事を公にするわけにはいかない。君の改革案を進めるには、まだ下地が整っていない」


「つまり、裏から進めろと?」


「いや、正面からやれ。ただし、敵の顔を見極めた上で、だ」


その言葉に、マーガレットは小さく笑った。


「それならば、喜んで。“悪役令嬢”の名にふさわしく、策略も覚悟も使いましょう。……この学院の闇を、暴いて差し上げます」




翌日。マーガレットはさっそく行動に出た。


まず彼女が目をつけたのは、学院内でも強い影響力を持つ名門貴族の子弟たち。とりわけ彼らが資金提供する“選抜試験支援会”という名目の集まりが、実際には下級生徒を黙って労働力として使う口実になっているという噂を聞きつけていた。


「リリアン、あの支援会の実態を調査していただけますか? 形式上は奨学金を出しているようですが、労働契約の記録が不明です」


「了解です、マリー様。私の部門で潜入調査を行います」


リリアンは眼鏡の奥で静かに目を光らせた。彼女の冷静沈着な性格は、マーガレットが最も信頼する生徒会メンバーの一人だった。


 


その日の午後。エリオットが部屋に現れた。


「お嬢様、例の暴行事件……あれはおそらく“ブライトン公爵家”のご子息が関係しているようです」


「確証は?」


「まだ。しかし、現場近くで目撃された使用人が、公爵家の紋章をつけていたそうです」


「ならば次は、直接会いましょう。わたくしが“悪役令嬢”なら、相手は“悪徳貴族”。敵にこそ礼を尽くすのが、令嬢の流儀ですから」


 


数日後。マーガレットは学園内の温室で、ブライトン家の次男・ギルベルトと面会した。


彼は美しい金髪をたなびかせながら、皮肉めいた笑みを浮かべていた。


「いやはや、まさかあなたからお誘いを受けるとは。“転生者”という噂もあながち嘘ではないようだ」


「そう、わたくしは異邦の魂を持って生まれました。だからこそ、貴方のような者にも、臆することなく言えるのです」


「ほう?」


「――この国を食い潰す寄生虫は、今この瞬間から、わたくしの敵です」


ギルベルトの顔から笑みが消えた。次の瞬間、緊張が走る。


「どうやら……貴女は本気のようだ。面白い。ならば、潰す価値もある」


「……どうぞ、お好きになさって。貴方に勝てるほど、私は甘くありませんから」


 


温室を後にしたマーガレットの背に、かすかな気配を感じた。振り返ると、そこにはレオポルトがいた。


「追跡の真似事かしら?」


「いや。護衛のつもりだった。だが杞憂だったようだな、マリー。君は想像以上に、鋼の意志を持っている」


「ふふ、それはありがとうございます、レオポルト様」


月明かりの下、二人の影が並んで歩き出す。


「……それにしても、貴族社会の“闇”と戦うには、味方が必要だ。君の味方が、ここにもいると知っておいてほしい」


「……信じていいのですね?」


「ああ。君が“この国を変える”という言葉を、本気で言っている限りは」


 


マーガレットは、静かに拳を握った。


この学園が、王国そのものの縮図であるならば。


ここから変えていくことこそ、真の改革の第一歩――


そのために、悪役令嬢は今日も牙を剥く。

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