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第四十五話 悪役令嬢、決意と誓いの星空

 夜が静かに学園を包み始めるころ、マーガレットは屋上に立っていた。


 冷たい風が頬を撫でる。今日の出来事が、まだ夢だったかのように感じる。けれど、指先に残る戦いの痕跡、そして胸にあるぬくもりが、それが現実だったと告げていた。


 ウィリアムの手。彼の剣。その背中に守られていた安心感。


(私……本当に一人じゃないんだ)


 旧書庫での襲撃事件は、今のところ公にはされていない。学園上層部と王城の一部関係者の間で秘密裏に処理が進められている。


 だが、マーガレットにとってそれは――“もう後戻りできない”という覚悟を突きつけられた出来事だった。


「ここにいたんだな」


 屋上の扉が静かに開き、ウィリアムの声が響いた。


 振り向くと、彼は学園指定のマントを羽織り、少し乱れた金髪を風に揺らしていた。彼の姿を見るだけで、心が穏やかになる自分に、マーガレットは気づいていた。


「来ると思ってたわ」


「だろうね。君が何も言わずに一人になろうとするときは、大抵“自分を責めてる”ときだから」


 ウィリアムは肩をすくめながら、彼女の隣に並ぶ。


「マギー、今日のこと……」


「わかってるわ。無茶をした。ちゃんと謝るわ、ごめんなさい」


 風に紛れて、マーガレットの小さな声が届いた。


 その言葉にウィリアムは驚いたように目を見開いた後、ふっと微笑んだ。


「珍しいな。君が素直に謝るなんて」


「……時には、ね」


 二人の間に、柔らかい沈黙が流れる。


 夜空には星が瞬き始めていた。光のない場所だからこそ見える、無数の星々。その光の下で、マーガレットは静かに問いを口にした。


「ウィル。……もし私が、もっと過激な選択をするとしても、あなたは――隣にいてくれる?」


「……それは、どれくらい“過激”なんだ?」


「王国の根幹にまで踏み込むこと。王族と対立する覚悟も含めて」


 その言葉に、ウィリアムはしばらく沈黙した。だが、それは戸惑いのためではない。真剣に、彼女の言葉を受け止めていたからだ。


 やがて彼は、ポケットから何かを取り出した。


 それは、小さな銀のペンダント。以前、二人が幼少期に“おままごと”のような形で交わした、ふざけた婚約の証――その模造品だった。


「これはね、ずっと持ってたんだ」


「え……?」


「君が侯爵家に引き取られてから、ずっと僕の机の奥に眠ってた。でも、君が変わっていくのを見て……それでも変わらずに君でいるのを知って……持ち直したんだ」


 ウィリアムはそれをマーガレットの手にそっと載せた。


「マギー、僕は君の選ぶ未来に、どこまでもついていくよ。たとえ、それが王国と敵対する道だったとしても。君が誰よりも真剣に未来を見つめてるって、僕は知ってるから」


 マーガレットは言葉を失った。


 心の奥にあった氷が、静かに溶けていく感覚。誰にも話せなかった重荷が、今、確かに共有されていた。


「……ありがとう。ウィル。あなたがいてくれるなら、私……本当に、戦えるわ」


「だったら、誓おうか」


 ウィリアムは彼女の手を取り、夜空を仰いだ。


「星に」


「え?」


「……なんか、昔読んだ本でさ。革命家たちが、夜空の星に誓いを立ててたんだ。“誰にも曲げられない意志を、星に託す”って。ちょっと、ロマンチックだろ?」


 マーガレットは笑った。思わず、吹き出してしまうほどに。


「ロマンチックというより、中二病じみてるわよ」


「うるさいな。でも、そういうの……嫌いじゃないだろ?」


「……まあ、ね」


 二人は夜空に視線を向け、そして、声をそろえて言った。


「革命を、最後まで貫くと誓う。――共に」


 静かな夜風が、二人の髪をそっと揺らす。


 どんな未来が待ち受けていようとも、この瞬間だけは確かなものだった。


 星の下で交わした誓い。二人の間に芽生えた“共犯”の絆は、今や“運命”に変わろうとしていた。


 そしてその星空の彼方では、すでに新たな策謀が静かに蠢き始めていた。


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