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第三十四話 悪役令嬢、学園改革に乗り出す

 春の陽光が差し込む講堂には、新学期を迎えた生徒たちの期待と不安が入り混じるざわめきが広がっていた。

 エグレストリア王国の名門・セントクリストファ学園。マーガレット・クレアは、その中央講壇に堂々と立ち、真っ直ぐに生徒たちを見据えていた。


「皆さん、今年度より、生徒自治会の制度が改正されます」


 そのひと言で、講堂が静まり返った。


 これまで、学園の生徒自治会は実質的に貴族出身者で固められており、平民出身の生徒には発言権すらなかった。しかし、マーガレットの提案によって、その構造が今まさに揺らごうとしていたのだ。


「平民、貴族といった出自に関係なく、学園の生活を良くするために誰もが意見を述べ、改善提案を出せる場が必要だと私は考えます」


 戸惑いの表情を浮かべる者もいれば、目を輝かせる生徒もいた。


 そんななか、ウィリアム・アルフォードが静かに壇上へと上がってきた。白金色の髪に陽光が反射し、聖騎士のような威厳を湛えた姿に、女子生徒たちから小さなどよめきが起こる。


「私は、生徒会副会長として、マーガレット嬢の改革案を全面的に支持します」


 その言葉は、まるで王国に新しい風を吹き込む宣言のようだった。


「……ありがとう、ウィリアム」


 マーガレットはそっと彼に視線を向ける。


 この日までに彼女は何度も書類を作成し、既存の生徒会構成員と交渉を重ね、時には批判に晒されながらも説得を続けてきた。だが、ウィリアムは一貫して彼女の側に立ち、その言葉に耳を傾けてくれた。


 ――彼の存在がなければ、ここまで来ることはできなかった。


「これより新制度に基づき、生徒代表選挙を開始します。出自に関係なく、意志を持つ者は誰でも立候補が可能です」


 講堂に、ついに拍手が巻き起こった。




 その夜、マーガレットは寮の中庭でウィリアムと並んでベンチに腰掛けていた。


「今日のスピーチ、見事だったよ。君は本当に……堂々としていた」


「ありがとう。でも……やっぱり、少し怖かったわ」


 マーガレットがそう呟くと、ウィリアムは柔らかく笑った。


「君は恐れを知らないと思ってたけど、ちゃんと怖がれるんだな」


「ええ。だって私は“悪役令嬢”でしょう? 王太子殿下との共謀を囁かれ、貴族たちに睨まれて。それでも改革を続けるには、いつだって恐れと隣り合わせよ」


 彼女の言葉に、ウィリアムの表情が一瞬曇った。


「君が一人で背負いすぎるんじゃないかと、時々不安になる。マーガレット、僕も……君の側で支えたい」


 その声は、ふいに彼女の心を打つ。春の風のように、優しく、しかし確かな温度を持って。


「ありがとう、ウィリアム。私……あなたのこと、信じてるわ」


 その言葉に、彼の頬がほんのり赤く染まった。


「……マーガレット。僕は、君に惹かれている。立場も、周囲の視線も全部含めて、君が君であることが好きなんだ」


 まっすぐに向けられたその告白に、マーガレットは少しだけ息をのんだ。


「私……今はまだ、恋に溺れる余裕はないわ。でも……あなたと一緒に未来を見ていきたい。そう思ってる」


 それは断りではない、でも即答の肯定でもない。少女としての率直な心の声だった。


 ウィリアムは、ふっと優しく笑った。


「なら、待ってる。君が“この国を変えた”その先で、もう一度答えてくれる日まで」


 ふたりの間に、春の夜風が吹き抜けていく。




 翌日。マーガレットは、生徒会室で新制度の施行に向けた準備に追われていた。新たな選挙ポスター、候補者へのインタビュー、選挙管理委員の設置──まさに一から十までの改革だ。


 そのとき、机の上に一通の手紙が置かれていることに気づいた。


 差出人不明。だが封には、かつて夜会で遭遇した仮面の人物と同じ紋章が描かれていた。


 「我々は、君の動きに注目している。真の改革を望むなら、夜陰にて再び会おう」


 ――秘密結社。あの夜会で始まった“もうひとつの権力”の気配が、再びマーガレットの周囲に忍び寄っていた。


 学園という小さな王国を変え、そして王国そのものに手を伸ばそうとする彼女の前に、次なる試練が立ちはだかろうとしていた。


 だがマーガレットは、決して立ち止まらない。


 なぜなら、彼女は悪役令嬢。運命を壊し、未来を描くために生まれ変わった、改革の申し子なのだから。


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