恋の始まりは、レトルトおかゆ(桜井華奈)
女性税理士:華奈の恋愛模様
愛知県東海市のあるオフィスビル。
桜井華奈は、個人事務所に勤める税理士だ。
朝から晩まで数字と向き合い、期限に追われ、相談に応え、書類に埋もれる日々。仕事は完璧、評価も高い。けれど、その代償として、私生活は後回しだった。
「ああっ……どうしてこんなに忙しいの!」
月曜日の朝。自分の叫び声で目が覚めた。――夢の中でも、書類に追われていたらしい。時計を見ると、まだ六時前。スマホのアラームよりも15分早い起床。
(最悪……)
朝食に作ったピザトーストを珈琲と共に味わった後、スーツに着替えて出勤する。
「桜井さん、おはようございます!」
元気な挨拶をかけてきたのは入社二年目の税理士、金森だった。
少し茶色がかった髪、年齢相応の柔らかい表情。天真爛漫で人懐っこい性格。仕事に対しては真面目、放っておけない存在。華奈は、彼の教育係を任されてから、ほぼ一年を共に過ごしている。
「おはよう、金森君。今日も忙しいけど、頑張るわよ」
「はい! 桜井さんと一緒なら俺は大丈夫です。今日もお願いします!」
「もう、なによそれ」
苦笑いと共に仕事が始まる。金森は実直な仕事をしてくれる。分からないことは確認するし、数字に関しては正確。仕事の流れも着実に覚えていて、成長する彼と共に仕事を進める日々に華奈は充実感を覚えていた。
――そんな日常が続いていたある日の朝。
起こそうとした自分の体が思うように起き上がらなかった。華奈は体を引きずって体温計の棚までたどり着き、スイッチを入れる。
「38℃か……これはダメね。風邪だわ」
そのまま体を起こせず、華奈は天井を見つめた。完璧に回してきたはずのスケジュールが、脆くも崩れていく想像に襲われるが、この状況ではあきらめざるを得ない。
「すみません、熱が38℃あります。今日は体調不良で休みます」
華奈は上司にメッセージを送り、その日は仕事を休むことにした。
夕方、ぼんやりとスマートフォンを眺めていると、通知が立て続けに鳴った。
『桜井さん、大丈夫ですか?』
『熱とか出てません?』
『何か必要なもの、あります?』
金森からのメッセージだ。
(もう……質問多すぎ。相手の事を考えなさいっていつも言ってるのに……)
教育係として、再三注意している言葉が、頭に浮かぶ。
『大丈夫。一日寝てたら少し楽になったわ』
『食欲も出てきたし、冷蔵庫の中のもの適当に食べるから』
そう返事を送った、その直後。
――ピンポーン。
インターホンが鳴った。
(……え?)
恐る恐るモニターを見ると、見慣れた顔が映っている。
「桜井さん、差し入れ、持ってきちゃいました!」
玄関を開けると、金森は大きな袋を掲げていた。
「ちょっと、勝手に来ないでって……」
「すみません。でも、桜井さんの事を考えたら、居ても立ってもいられなくて」
半ば押し切られるように、金森が部屋に入る。キッチンに立った彼は、袋からレトルトのおかゆと、小さなパックの梅干しを取り出した。
「すみません、俺、料理苦手だから、レトルトのおかゆですけど。料理好きの桜井さんのお口に合うかどうか」
そう言いながら、金森は鍋におかゆをあけ、弱火で温める。湯気が立ちのぼり、梅干しをそっと中央に乗せる仕草が、妙に丁寧だった。
「……できました」
差し出された器を受け取る。ひと口、口に運んだ瞬間――。
(……おいしい)
驚くほど、体に染み渡った。特別な材料なんて使っていない。ただのレトルトだ。それなのに、胸の奥がじんわり温かくなる。
「どうですか?」
「……案外、美味しい」
思わずそう言うと、金森は嬉しそうに笑った。
「よかった。『不味い』って怒られたらどうしようかと思いました」
「……何よ、それ」
「桜井さんはいつも完璧だから……弱ってる姿、貴重ですね」
「ちょっと、病人をからかわないで」
身体は辛いのに顔だけは笑顔になる。
「こんな姿を見られるの、俺だけですか?」
「もう……」
「それにしても、桜井さんは病気になっても奇麗なんですね」
「こら、これ以上病人をからかうなら、家から追い出すわよ」
「わわ、ご、ごめんなさい」
(もう……この子は、ほんとに……)
照れくさくなって、視線を窓の外に逸らした、そのときだった。金森の手が、そっと額に触れた。
(えっ……)
「熱、まだありますね」
「ちょっと……近い」
でも、逃げられなかった。
「桜井さんが辛いときは、俺がそばに居たいです」
(だから、この子はこういう事をいきなり言うんだから……)
まっすぐな目。胸の奥で、何かが音を立てた。
「……ばか。そんなこと言われたら、熱、上がっちゃうから」
「それは困りますね。じゃあ、今日はこれで失礼します」
名残惜しそうに、彼は帰っていった。
――数日後。
体調が回復した週末、華奈はキッチンに立っていた。
自分だけの為よりも手の込んだ料理を作る。華奈はスマホの会話履歴を読み返しながら、少しだけ心が軽くなる自分を感じていた。スマホの中には、こんなやり取りが残っていた。
「金森君、先日はありがとう。今度の週末、お礼に手料理食べさせてあげる。ウチに来て」
「ええっ!? 良いんですか!? 料理好きな桜井さんの手料理、めっちゃ楽しみです!」
「うん、……これは、この前のお礼だから」
スマートフォンのスケジュール帳に書き込まれたタイトル。
「金森君と夕食」
自分の気持ちは、まだはっきりしない。それでも、確かめたいと思っている自分がいる。
(あれは、風邪で弱ってたときに優しくされただけだから。……でも、忙しいだけの毎日じゃ、なくなるのかもしれない)
華奈は鍋を手に取り、カチッとコンロの火をつけた。
- キャラクター プロフィール -
名前:桜井華奈
職業:税理士
好きな事:料理
年齢:28
身長:160㎝(5'3")
体重:51㎏(112lb)
誕生日:7月19日
星座:蠍座
血液型:B型
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