卒業旅行。青春は、静かに抱きしめる(斎藤優奈)
女子高校生:優奈の恋愛模様
愛知県丹羽郡扶桑町にある高校。
昼休みの終わり、斎藤優奈は校舎の渡り廊下から体育館を眺めていた。窓越しに見えるのは、バドミントンコート。白いライン、ネット、天井から吊るされた照明。そこは、優奈にとって三年間の大半を過ごした場所だった。
(来月で卒業……もう、ここでラケットを握ることはないんだ)
「優奈、また体育館見てる」
隣から声を掛けてきたのは同じ部活の同級生、羽鳥。部活のミックスダブルスではパートナーを組む相手。そして、プライベートでも優奈の大切なパートナーである。
二人は三年生の夏に引退している。それでも、卒業を間近に控えた今になると、入部したばかりの頃からの光景が次々と思い浮かんだ。
朝練で眠い目をこすりながらシャトルを追いかけた日。試合に負けて、体育館の裏で悔し涙を流した日。そして、ラリーの合間に交わした、何気ない言葉。
「優奈、今の入り方いいじゃん」
「ほんと? じゃあ次も同じ感じで打つね」
そんな会話が、いつの間にか恋に変わっていた。
二人が付き合い始めたのは一年生の冬。同じ帰り道で、羽鳥が不器用に告白してきた日のことを、今でもはっきり覚えている。その日から優奈の高校生活が明るくなったことも。
進路はもう決まっている。優奈は名古屋の専門学校。羽鳥は名古屋の大学、情報系の学部。別々の道だけれど、同じ街で暮らす未来。それを思うと、不安よりも期待のほうが大きかった。
そんな三年生の冬、バドミントン部の恒例行事が近づき、案内が配られた。
―― 一泊二日の卒業旅行。行き先は三重県のナガシマリゾート。
親には「一緒に部活動で汗を流した仲間たちとの健全な卒業旅行」と伝えてある。ただ、高校三年生。恋人同士で参加する場合はそれだけで収まるはずはない。視線が一斉に優奈と羽鳥に向けられる。
「ねえねえ、二人は一緒の部屋でしょ?」
「当日はスマッシュ決めちゃいなよ!」
「角度は大事だからねー?」
「ちょっと! やめてよ!」
優奈の顔が一気に熱くなる。羽鳥も耳まで赤くして、苦笑いしていた。実際、部屋割りは暗黙の了解だった。
――カップルは二人部屋。
キスは、したことがある。でも、それ以上は、まだ踏み出せていない。
(……どうなるんだろ、この旅行)
胸の奥が、落ち着かないまま当日を迎えた。
遊園地ではしゃぎ、絶叫マシンに乗り、みんなで写真を撮る。バイキングでは、引退後なのに食べ過ぎて笑われた。大浴場の温泉では、女子同士で恋と進路の話。
「優奈、緊張してるでしょ?」
「してないってば!」
「顔に書いてあるよ」
からかわれて、また顔が熱くなる。
――すべての旅程を終えた夜。
部屋に戻ると、さっきまでの賑やかさが嘘みたいに静かだった。
ベッドが二つ。同じ空間に、羽鳥と二人きり……。
「……今日、楽しかったな」
羽鳥が言う。
「うん。卒業旅行って感じする」
……沈黙。
何を話せばいいのか分からず、視線を彷徨わせる。普段なら会話は尽きないのに。
(意識しすぎだよ、私)
それでも、心臓の音はうるさい。
「……あ」
「どうした?」
「私! もう一回、温泉いってくる!」
「えっ、じゃ、じゃあ俺も!」
二人同時に立ち上がり、顔を見合わせて固まる。その瞬間、どちらからともなく笑ってしまった。
「私たち、逃げてばっかだね」
「だな。でも……嫌じゃない」
「20分位、行って来るね」
「分かった。俺も、さっともう一回いってくる」
軽く温泉に浸かって高揚した気持ちを整える。
(ほんとうに……この時間がきちゃった)
気持ちは落ち着かなかったけど、そのまま部屋に戻った。
「あ、おかえり、優奈」
「うん」
羽鳥は先に部屋に戻っていた。ベッドに腰掛けて灯りを落とすと、暗闇が二人を包んだ。
羽鳥が、少し間を置いて口を開く。
「高校生活さ……楽しかった」
「うん。部活も、恋も」
「優奈と一緒だったからだと思う」
胸が、きゅっと締めつけられる。
目を閉じて、羽鳥と一緒に過ごした三年間の思い出を噛みしめていると……そっと、羽鳥の腕が伸びてきて、優奈を抱き寄せた。
(羽鳥……)
体温が、安心するほど近い。
(……この人と、ここまで来たんだ)
「ありがとう、羽鳥」
「こちらこそ」
静かに、唇が重なる。それは勢いじゃなく、これまでの時間を確かめ合うようなキスだった。触れ合った瞬間、胸の奥に溜め込んでいた不安や迷いが、少しずつ溶けていくのを優奈は感じていた。
卒業したら、環境は変わる。今までみたいに、毎日顔を合わせることはできなくなる。
(それでも……)
羽鳥の腕に包まれながら、優奈は思う。離れることよりも、一緒に過ごしてきた時間の重みのほうが、ずっと大きい。
「……離れてもさ」
羽鳥が、小さく呟いた。
「ちゃんと、続けたい」
その声は震えていて、強がりじゃないとすぐに分かった。
「うん……私も」
返事をしながら、優奈は羽鳥の背中にそっと腕を回した。抱きしめ返す力に、これまで言葉にしなかった想いが滲んでいる気がした。
シャトルを追いかけた日々。悔し涙を流した夜。笑い合った帰り道。すべてが、今この瞬間に繋がっている。
卒業は、もうすぐ。未来は、まだ分からない。それでも、今はただ、この温もりを信じていたい。
優奈はそう思いながら、もう一度、ゆっくりと唇を重ねた。
――青春は、静かに、確かに、続いていく。
- キャラクター プロフィール -
名前:斎藤優奈
職業:高校生
好きな事:バドミントン
年齢:18
身長:162㎝(5'4")
体重:50㎏(110lb)
誕生日:2月18日
星座:水瓶座
血液型:O型
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