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朝のあんぱん、キャッシュレスな優しさ(横田結花)

女性コンビニ店員:結花の恋愛模様

 横田結花はコンビニで働くフリーター。愛知県武豊町、潮風が心地よいこの土地が好きで、高校卒業後はコンビニで働きながら趣味の絵と向き合う生活をしている。


 そんな結花には記憶に残る男性客がいる。休日の朝に、ワイシャツ姿であんぱんとピザパンを買う人。結花が彼――後に武田と知るその男性を、そう認識するようになったのは、駅前のコンビニで働き始めて一年ほど経った頃だった。


 朝は静かで、駅前といっても人通りは多くない。結花はその日も、レジに立ちながら、眠気と戦っていた。休日の朝番のけだるさはいつになっても慣れない。ただ……


(あっ、今日も来た)


 その姿が視界に入ると自然と背筋が伸びた。ワイシャツにスラックス。仕事に行くのだろうか、休日なのに。結花はレジを打ちながら、いつものように思う。


「あんぱんと、ピザパンですね」

「はい」


 支払いは現金。男性は受け取ったおつりの小銭を、そのままレジ横の募金箱に入れる。ちゃりん、という音が、やけに心地よく響いた。


 最初は、ただそれだけの人だった。でも、何度も繰り返されるその光景に、結花の中で少しずつ印象が積み重なっていった。


 ――休日に働いてる人。

 ――昼食があんぱんの人。

 ――募金する、優しい人。


 ある日、結花は思い切って声をかけた。


「募金、いつもありがとうございます」


 男性は一瞬きょとんとしたあと、少し照れたように笑った。


「僕なりのキャッシュレスです。財布、軽くなるから」


 その言い方がおかしくて、結花は思わず笑ってしまった。


「それ、便利ですね」

「おすすめです」


 それから、二人は「おはようございます」と挨拶を交わすようになった。それ以上でも、それ以下でもない関係が、気づけば一年ほど続いていた。


 その日も、いつもと同じ休日の朝だった。


 結花は商品陳列をしていた。パンの棚に、あんぱんを並べながら、ふと気配を感じる。


「あの……」


 声に振り向くと、男性が立っていた。レジではない場所で話しかけられるのは、初めてだった。


「僕、武田と言います。いつも仕事の昼食をここで買ってるんですけど」


 結花は、思わず背筋を伸ばした。


「朝、店員さんが頑張って働いている姿を見て……勝手に元気をもらってました。今日も仕事頑張ろうって」


 武田は少し言葉を選ぶように間を置き、続けた。


「それで、これ……僕のSNSのアカウントです。よかったら、メッセージくれませんか? 店員さんとお話したいです」


 差し出された小さな紙。結花の心臓が、急に仕事を忘れたみたいに騒ぎ出す。


「あ……」


 声がうまく出なかった。武田は慌てたように付け加える。


「もちろん、無理なら捨ててください」


 その言葉に、結花は小さく頷いた。


 ――その日の休憩中。


 結花は同僚のケイコに、ぽつりと聞いた。


「ねえ、ケイコ? ……コンビニ店員が、お客さんから連絡先もらって、恋に発展するなんてこと……現実にあると思う?」


 ケイコは飲んでいたコーヒーを吹き出しながら、即答した。


「ぶはっ! ないない! そんなの夢物語よ! 結花、現実を見なさい! 現実から逃避しちゃだめ! 帰って来て!」


 その勢いに、結花は黙って俯いた。黙り込む結花にケイコは戸惑う。


「……結花? どうしたの?」

「ケイコ、実はね……」


 結花は、今朝の出来事を打ち明けた。ケイコは一瞬固まり、次の瞬間、身を乗り出した。


「ええっ!? 誰!? いつ!? どんな人!?」

「えっと……休日の朝に来て、あんぱんとピザパン買って、小銭を募金する人」

「なにそれ堅実! 絶対いい人じゃん! しかも土日働く会社員でしょ!? きっとお金持ちだよ!」

「ちょっと! その発想はどうかと……」


「あっ、でももしかして既婚者で結花を第二の恋人にしたいとか!?」

「いや、それは困る! って言うか、その人、指輪してないから!」

「もう! しっかりチェックしてるじゃん!」

「その、何となく気付いたっていうか、別にチェックしてる訳じゃ……」

「他には!? どんな特徴あんのよ!?」


 二人は休憩室で、勝手な恋の妄想を繰り広げ、勝手に盛り上がった。


 その夜、結花は何度もSNSの画面を開いては閉じた。悩んだ末に、短いメッセージを送る。


『今日はありがとうございました。横田です』


 返事はすぐに来た。やりとりを重ねるうちに、武田が二十四歳で、コンビニ近くの企業に勤め、土日も仕事のある職種だということを知った。


 ――そして、ある日。


『よかったら、今度、名古屋の美術館に行きませんか?』


 結花はその画面をずっと見つめた。


(どうしよう……本当に来ちゃった)


 でも、心の中は嬉しい。断るなんて考えられなかった。すぐに返事を送りたかったけど、少し時間をおいてから「はい」と返した。


 ――当日。


 駅前で待ち合わせた二人は、少し距離をあけて立っていた。


「……お店の外で会うの、照れますね」


 武田が笑う。結花も、小さく笑った。いつもはレジのカウンター越しだった人が、今日は隣にいる。あんぱんも、ピザパンもない朝。それでも、結花の胸は、不思議と温かかった。


「美術館、楽しみです」

「ええ、横田さん、絵が好きって言ってたから」

「ありがとうございます。美術館の後はランチですか?」

「はい、美術館の近くはお店が多いから、パスタでも和食でもなんでもありますよ」

「今日はあんぱんじゃないんですね」

「はは、流石にそれは……」


 穏やかに会話を楽しむ二人を、海の方から吹く潮風が心地よく包み込む。


 電車が到着し、二人は隣同士で座席に腰を下ろす。肩が触れそうな距離。少しドキドキする。でも嫌じゃない。むしろ心地良い。


「こうしてお互いを隣から見るのって何だか不自然ですね」

「そうですね、でも、僕はこの景色にも慣れていけたら嬉しいです」

「武田さん……」


 結花は上手く返事ができずうつむいた。


 電車がゆっくり動き出す。車窓の景色が流れていく。


 武田との未来は、どうなるかまだ分からない。でも結花は今日のこれからに期待した。


 ――この恋は、きっと、ここから始まる。

- キャラクター プロフィール -

名前:横田結花よこたゆか

職業:コンビニエンスストア店員

好きな事:絵を描く

年齢:20

身長:152㎝(4'12")

体重:43㎏(95lb)

誕生日:7月20日

星座:蟹座

血液型:O型


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