雪解けの頃、あなたはいない(沖田優花)
女性警察官:優花の恋愛模様
警察官になって3年目。沖田優花は初任地として豊根村に配属された。当初は山に囲まれた静かな生活に戸惑い、地域の人との距離感もつかめなかったが、地元の人たちの温かさに助けられ、少しずつ仕事にも生活にも慣れていった。今では村の巡回や相談対応もスムーズにできるようになり、充実した日々を送っている。
朝の巡回で顔を合わせれば「おはよう、優花ちゃん」と声をかけてくれるおばあちゃん。落とし物の相談を受けて「助かったよ」と笑ってくれた農家の夫婦。人の温かさに触れるたび、この村に馴染めた自分を嬉しく思った。
冬が近づくと、山は白く染まり、空気は澄んでいく。優花にとっては待ちに待った季節だ。もともとスキーが好きで、休日には近くのスキー場へ出かけている。
そんな優花の生活を陰で支えてきたのが、30歳の地元男性・山根だった。農業をしつつ、道の駅のスタッフとしても働いていて、村の世話役のような存在だ。巡回中に出会ったり、イベントの警備で顔を合わせたりするうちに自然と距離が縮まっていった。
「優花さんも、もうすっかり地元の顔みたいな存在だね」
「そうですか? でも皆さんのおかげですよ。……特に山根さん」
「俺もその仲間に入れてもらえるんだ? 嬉しいな」
「もちろんです。いろいろ助けてもらってばかりで」
そんな冗談を言いながら、軽く山根の肩を叩いて笑い合う。山根との会話は楽しい。優花の心を温めてくれる。何気ない会話が、優花にとっては心の拠りどころだった。
――会話も弾み、お互いが惹かれ合う感覚。
そして、その感覚は山根も同じであった。山根は過剰に踏み込んでくることはない。けれど、いつも気にかけてくれているのが伝わってくる。
冬になり、一緒にスキーに行くようになったのは、自然の流れだった。スキー場で、山根は優花の滑りに合わせながら、楽しそうに笑っていた。
「優花さん、ほんとに上手いよ。警察官じゃなかったら、インストラクターでもやれたんじゃない?」
「そんなことは無いですって。ただ好きで滑ってるだけです」
言いながらも、山根に褒められると胸が温かくなる。山根と過ごす時間は、優花にとっていつの間にか“息をしやすい場所”になっていた。
そんな穏やかな関係が続いていたある日、優花のもとに辞令が届いた。
――春から名古屋近郊の署へ異動。
初任地の任期を考えれば当然の話だったが、署長に言われた瞬間、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。豊根村を離れること、そして山根との距離が開くことが、思った以上に堪えた。
(山根さん……)
最初に思い浮かんだのは山根の顔だった。
この場所を離れる。山根とも遠くなる。その現実を前にして、優花はやっと、自分にとって山根がどれほど大きな存在になっていたのかを知った。
(……私、どうしよう。でも、山根さんには伝えなきゃ)
携帯を手に取り、山根に何度も書き直してメッセージを送った。その夜は深夜まで眠りにつくことができなかった。
辞令のことを聞いた山根は、しばらく悩んでいた。「機会を作って優花に告白しよう」と決意をした矢先の出来事だった。優花がいなくなる寂しさと、告白するべきかどうかで心が揺れていた。異動を控えている彼女に想いを伝えるのは迷惑かもしれない。それでも、このまま何も言わずに別れる方が後悔する。そう感じた山根は、悩んだ末に決意を固めた。
翌日、いつものように山根と顔を合わせると二人の表情は曇った。普段なら目が合った時から顔が晴れやかになるのに。
「……優花さん、メッセージ、見たよ」
「はい。まだ実感がないんですけど……」
「えっと、まずは教えてくれてありがとう」
「はい……」
短い言葉のやり取り。けれど、その奥にある寂しさは二人とも気づいていた。
冬の終わり、最後になるかもしれないスキーに二人で出かけた帰り道。夕暮れの雪景色の中、山根が立ち止まった。
「優花さん、ちょっといい?」
「はい?」
山根は深呼吸をし、手袋越しにわずかに震える指を握りしめていた。
(えっ? 山根さん?)
山根は優花の目を見つめて言う。
「俺さ……優花さんと一緒に過ごす時間が好きなんだ。優花さんと一緒だと、心の奥が温かくなって、嬉しくなって……」
「山根さん……」
「俺、優花さんの事が好きだよ。異動があっても、気持ちは変わらない。遠くに行っても、ちゃんと……優花さんの事、大事にしたい」
優花は一瞬、息を止めた。嬉しいはずなのに、言葉が出ない。山根の真剣なまなざしが、胸にまっすぐ刺さる。
本当に嬉しい。でも、不安。名古屋での新生活、仕事の責任、距離。いろんなものが押し寄せてきて、涙が出そうになった。
「……こんなときに言うなんて、ズルいですよ。嬉しいのに……困ります」
声が震える。
「ごめん。でも、言わずに後悔するのはもっとイヤだった」
優花は俯き、胸の奥の混乱と向き合った。答えを出すには、少しだけ時間がほしかった。
「すぐには返事できません。でも……ちゃんと考えます」
山根は静かにうなずいた。
数日後、山根の畑を訪ねた。まだ雪が少し残り、風は冷たい。緊張で手が震えていたが、覚悟は決まっていた。
「山根さん。あの……返事、しに来ました」
山根は優しく振り向く。
「うん。でも俺は急がないよ。ゆっくりで――」
「ゆっくりじゃダメです。ちゃんと伝えたいから」
優花は胸に手を当て、まっすぐ彼を見た。
「離れるのは、すごく不安です。でも……気持ちをなかったことにはしたくない。だから一年くらい……距離を置きながらでも、恋人としてお付き合いしたい。続けていけるかどうかは、その先で一緒に考えたいです」
山根は安堵の息を吐き、優しく微笑んだ。
「うん。それで十分だよ。ありがとう」
少し見つめ合った後、二人は静かに抱き合った。抱き合うなんて初めてなのに、不思議なくらい自然に、二人の距離は溶けていった。
「優花さん、ありがとう」
「うん。でも、山根さん? こんな所、誰かに見られたらどうします?」
「大丈夫、ここは田舎だから」
くすっと笑って二人は目を閉じ、もう少しその時間の中に身を置こうとした時……
「おーい! 山根さーん! ちょっといいかーい!?」
地元のおばあちゃんのよく通る声が遠くから聞こえてくる。
(わっ!?)
(ええっ!?)
二人は慌てて離れて背中合わせになり、熱い顔で空を見上げた。
こうして二人の恋は、春に訪れる分かれと、新しい関係を抱えながら、そっと歩き出した。
- キャラクター プロフィール -
名前:沖田優花
職業:警察官
好きな事:スキー
年齢:25
身長:158㎝(5'2")
体重:56㎏(124lb)
誕生日:9月20日
星座:乙女座
血液型:B型
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