バスケットボールと秘密の物語(高島奈央)
女子高校生:奈央の恋愛模様
愛知県江南市にある県立高校。その図書室の隅、陽だまりが静かに差し込む窓際の席が、高島奈央の特等席だった。古びた木の香り、ページをめくる音。教室の喧騒や日常のざわめきがすっと遠のいて、心の奥がふっと軽くなる――そんな穏やかな時間が、奈央は大好きだった。
遠くから、バスケ部のボールが床を弾む音が聞こえる。そのリズムは力強くて、どこか心地よかった。けれど、自分とは無関係の世界の出来事のように思えた。ただ、その音は時折、奈央の胸の奥にいる一人の男子の輪郭をぼんやりと描き出す。
――クラスの人気者であるバスケ部員の男子、伊藤明弘。
明弘のことは、入学したときから少しだけ意識していた。明るい笑顔、仲間と楽しそうに話す姿、そして何より、コートを駆ける力強い姿は、地味で目立たない奈央の世界にはない鮮やかな色を放っていた。ただ、それは遠くから眺めるだけの、憧れという名の淡い感情だった。
誰にも言えない想いは、奈央の中でゆっくりと育ち、やがてノートの片隅に言葉として溢れ出し、物語として綴られるようになった。それは、図書室を愛する控えめな少女が、体育館で汗を流す活発な少年に密かに恋心を抱く物語。主人公の「私」は、奈央自身を投影した存在だった。
好きな作家の言葉を借りながら、近づきたいけれど臆病で一歩を踏み出せないもどかしさ、遠くから見つめるだけの切ない想いを、奈央は丁寧に綴っていった。いつか、誰かの目に触れることもないかもしれない、秘密の物語。それは、奈央にとって唯一、自分の感情を解放できる場所だった。
夏休みが終わり、二学期が始まって間もない頃のことだった。いつものように授業の合間に図書室へ向かい、読みかけの文庫本を開いた奈央は、愕然とした。鞄に入れていたはずの、大切なノートがない。顔から血の気が引いていくのを感じた。慌てて教室に戻り、机の中や周りを探したが、どこにも見当たらない。
教室の机の中も、鞄の中身も、何度も確認した。けれど、あの大切なノートは、忽然と姿を消していた。不安と焦りで、心臓が痛くなる。喉がカラカラに乾き、足元がふらついた。
放課後、肩を落として席に座っていたそのとき――
「高島さん、これ、落としてなかった?」
明るい声が、頭上から降ってきた。顔を上げると、そこには伊藤明弘が立っていた。そして、彼の手に握られているのは、まさしく奈央が物語を綴っている、あのノートだった。
「あ……!」
奈央の声は小さく震えた。明弘は不思議そうな顔で奈央を見つめ、
「これ、小説?」
と問いかけた。奈央は顔が熱くなるのを自覚した。まさか、彼に読まれてしまったのだろうか。
「ごめん、ちょっと気になって……」
明弘はそう言いながらも、どこか興味深そうな目をしていた。
「主人公の女の子、図書室が好きなんだな。俺もたまに使うよ、図書室。ちょっと疲れたときとか行くんだ。静かで落ち着くから」
(えっ……)
その言葉に、奈央は息を呑んだ。まさか、彼も図書室に来ることがあるなんて。
明弘の言葉に驚きながらも、ノートを受け取った奈央は、顔を上げることができなかった。
「あの……見ました……?」
蚊の鳴くような声で尋ねるのが精一杯だった。明弘は少し照れたように笑い、
「うん、ちょっとだけ。なんか、面白いなって思った」
と答えた。
「バスケ部のやつが出てくる話だろ? なんか、頑張ってるなって」
その日から、奈央の中で何かが変わり始めた。憧れの存在だった明弘が、自分の書いた物語を少しでも読んでくれた。それだけで、奈央の世界はほんの少し色づいたように感じた。
廊下ですれ違うとき、明弘は以前よりも少しだけ、奈央に視線をくれるようになった。時には「今日の図書室、何か面白い本あった?」なんて、話しかけてくることもあった。奈央は戸惑いながらも、精一杯の笑顔で答える。心臓がドキドキして、頭の中が真っ白になるけれど、それでも、彼とほんの少しでも言葉を交わせることが嬉しかった。
奈央の友人たちは彼女の変化に気づいていた。
「最近、奈央ってちょっと変わったよね」
「もしかして、恋?」
と、からかわれるたびに、奈央は顔を赤らめて否定したけれど、心の中では否定しきれない自分がいた。――奈央の中では、確かに何かが変わっていた。
文化祭の準備が始まった頃、奈央は自分の想いを形に綴った小説を、文芸部が主催する短編小説コンテストへ応募する事を決めた。自分の想いをこのままノートにしまっておくのでも良いが、形になった物語を誰かの目に留めてあげたい。そうする事で、この物語、そして自分の明弘に対する想いが報われるかもしれない……そんな想いが、心の奥から湧き上がってきた。
作品を清書するため、放課後の図書室に一人残っていた。鉛筆の走る音だけが静かに響く。奈央は最後の推敲を重ねていた。主人公の少女が、勇気を出して自分の気持ちを伝えるラストシーン。それは、奈央自身がいつか抱きたいと願う、小さな希望の光だった。
ふと顔を上げると、図書室の入り口に明弘が立っていた。手に何か書類のようなものを持っている。「忘れ物、取りに来た」と彼は少し照れくさそうに言った。彼は少し照れたように笑った。夕焼けが差し込み、本棚や机がやわらかなオレンジに染まる。静かな図書室。二人きり。
――奈央の胸は、早鐘のように脈打っていた。
――今なら、言えるかもしれない。
――ずっと胸に秘めてきた、あの言葉。
「伊藤くん……あの、ノートのこと……」
彼は、少し驚いたようにこちらを見た。
「ああ、あれね。面白かったよ。なんか、女の子も、バスケ部の男子も、一生懸命な感じが、伝わってきた」
奈央は、勇気を振り絞った。
「ありがとう。実はね、あの小説の……バスケ部の男の子は……伊藤くんが、少しだけ、モデルなんです」
図書室の静寂が、奈央の言葉を優しく包む。恥ずかしさで体が震えそうだったけど、奈央は真っ直ぐに彼の瞳を見つめた。
「あの……もし、迷惑じゃなかったら……私、その……好き、です」
夕焼け色の光の中で、明弘は少し戸惑ったような表情を浮かべた後、ゆっくりと口を開いた。
「え? えっと……ありがとう。俺も……高島さんの小説、すごく好きだよ。その……気持ち、嬉しい」
その瞬間、奈央の世界に、そっと新しい光が差し込んだ。それは、物語の中でも描いた、小さな希望の光だった。コンテストの結果はどうなるか分からないけれど、夕焼けに染まる図書室で交わされたこの想い、この瞬間が、奈央にとってかけがえのない大切な記憶なるだろう。
ずっと秘密にしてきた想いが言葉になった今、二人の間には、そっと新しい物語が始まろうとしていた。
- キャラクター プロフィール -
名前:高島菜央
職業:高校生
好きな事:読書
年齢:16
身長:155㎝(5'1")
体重:44㎏(97lb)
誕生日:11月18日
星座:蠍座
血液型:B型
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