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セントレアの風、秘密の滑走路(岡崎美琴)

空港グランドハンドリングスタッフ:美琴の恋愛模様

 潮の香りがほのかに混じる名古屋セントレア空港の風が、美琴の頬をやさしく撫でた。ターミナルの喧騒が遠のく展望デッキで、両手で包み込んだコーヒーの温もりを感じながら、そっと息を吐く。ジェット機が滑走路を飛び立つ轟音は、どこか遠い世界の出来事のようだった。


「また釣りのこと考えてたでしょ?」


 隣に立つケイコの明るい声が、美琴を現実に引き戻した。

 美琴は苦笑した。休日の早朝にお気に入りの竿を携えて静かな海へ向かう――そんなひとときが、心を解き放ってくれる。きらめく水面、心地よい波音、そして魚がかかる瞬間の手応え……それらが忘れられず、仕事中もつい釣りのことを考えてしまうのだった。


「だって、次の休みこそ大物を……」

「はいはい。でもたまには違うことも考えなさいって」


 ケイコは笑いながら美琴の肩を軽く叩く。料理好きで明るく、専門学校からの付き合い。職場も同じで、今ではルームシェアもしている、ケイコは美琴にとって家族のような存在だった。


「お、二人ともお疲れ様」


 背後から聞き慣れた優しい声が届いた。振り返ると、同じ会社の松下が笑顔で近づいてくる。穏やかな眼差しと落ち着いた声。部署は違うが、時折顔を合わせる松下は美琴が密かに想いを寄せる男性だ。松下のさりげない優しさに触れるたび、美琴の心臓は小さく跳ね上がり、冷静を装う頬をほんのり熱くさせた。


「松下さん、お疲れ様です」

「お疲れ様。こんなところで会うなんて珍しいね」

「ところで岡崎さん、釣りが趣味なんですか?」


 ケイコがすかさず合いの手を入れ、美琴の背中を押す。


「そうなんですよ! すごいんです、この子の腕前!」

「へえ、そうなんですね。僕、岐阜出身で海が遠かったから、釣りって全然経験がなくて。もしよかったら、今度教えてもらえませんか?」


 突然の申し出に、美琴は驚き、心臓が早鐘のように鳴るのを感じた。


「ええっ? それは勿論、大歓迎ですが、えっと……でも、いきなり当日に二人きりっていうのも気まずいですよね……。あの、もしよかったら、このあと空港内で食事でも一緒にどうですか? 道具や時間帯のこと、色々お話しできますから」


「いいね! 賛成!」とケイコが笑顔でうなずく。

「ぜひお願いします」松下も嬉しそうに微笑んだ。


 仕事終わり、三人は空港内のレストランへ。窓際の席からは、夕焼けに染まる滑走路を行き交う飛行機のテールランプが、宝石のように瞬いていた。


 美琴は少し緊張しながらも、松下の熱心な眼差しに応えようと、釣りの道具や服装、時間帯などを丁寧に説明した。時折、松下は身を乗り出して質問し、その真剣な表情に、美琴は胸の奥がほんのり温かくなるのを感じた。ケイコは、そんな二人のやり取りを微笑ましく見守りながら、運ばれてきたサラダを美味しそうに頬張っていた。


「へえ、いろんな道具があるんですね。次の休みが楽しみになってきました」


 松下の無邪気な笑顔を見て、美琴の胸にじんわりと温かなものが広がっていく。趣味を共有できる喜び。そんな期待が、心の中にそっと芽生え始めていた。


 そして迎えた約束の日。美琴は少しだけおしゃれをした。ファッションに精通しているケイコが、出発する美琴の最終チェックをする。


「ちゃんと可愛い下着は着てる?」

「ばかっ!」


 ケイコの軽い冗談が、緊張で強張っていた美琴の表情を和らげ、自然な笑顔を取り戻させた。

 待ち合わせ場所の堤防に向かうと、心地よい海風が髪を優しく揺らした。釣り場に着くと、美琴は松下に竿の持ち方から餌のつけ方まで、丁寧に教えていった。最初は戸惑っていた松下も、美琴の優しい指導のおかげで次第にコツを掴み始め、小さな魚を釣り上げると、まるで子供のように無邪気に喜んだ。


 その笑顔を見るたびに、美琴の胸の奥には温かい感情がじんわりと広がっていった。二人で並んで静かな海を眺め、言葉少なに過ごす時間は、美琴にとってかけがえのない宝物のように感じられた。その静けさの中で、美琴の心は満ちていった。


 釣りを終え、夕焼けの中を歩いていると、松下が少し改まった表情で言った。


「今日は本当にありがとうございました。すごく楽しかったです」

「こちらこそ、楽しかったです。あの、もしよかったら、また一緒に……」


 美琴が勇気を振り絞って口を開きかけたそのとき。


「実は……急なんですが、来月、北海道の千歳に転勤する事になってしまって。岐阜にいる彼女と一緒に引っ越すんです」

「えっ……!?」


 言葉の意味を理解するのに、数秒かかった。胸を締めつけるような痛みが美琴を襲う。


「そう……なんですね。おめでとうございます」


 美琴は必死に笑顔を作り、言葉を絞り出した。松下は少し申し訳なさそうに、それでも優しい眼差しを向けてくる。


「今日はいい思い出になりました。美琴さんに教えてもらえて、釣りの楽しさが分かった気がします」

「いえ、こちらこそありがとうございました。千歳でも楽しい生活を送ってくださいね」


 喉の奥が締めつけられるようだったが、美琴はそう伝えた。

 家に帰り、玄関のドアを閉めてリビングにいるケイコの姿を目にした瞬間、堪えていた涙が堰を切ったように溢れ出した。ソファに崩れ落ちるように座り込み、美琴は今日あったことを、震える声でケイコに全て話した。


 ケイコは何も言わずに、ただ美琴の背中を優しくさすってくれた。その温かい手が、美琴の張りつめた心を少しずつ解きほぐしていくようだった。美琴の言葉が終わると、ケイコは静かに立ち上がり、キッチンへと向かった。


 しばらくして、温かい味噌汁の香りが部屋いっぱいに広がってきた。ケイコは、美琴が今日釣り上げた魚で、いつもより時間をかけて夕食を作ってくれた。食卓には、湯気を立てる味噌汁と、ケイコの優しさがたっぷりと詰まった温かい料理が並んだ。美琴は、涙で滲む目でそれを見つめ、ゆっくりと箸を取った。


 隣に座るケイコの温かさが、美琴の凍えた心にじんわりと染み渡っていくのを感じた。秘めた恋は、まるで夏の終わりの花火のように、儚くも美しい光を放って静かに終わりを告げたけれど、美琴にはいつも、どんな時も変わらない温もりをくれる大切な親友がいる。この友情の光があれば、きっとまた前を向いて歩き出せる。美琴は静かに心の中でそう感じた。


「ケイコ、ありがとう」

「お礼なんていらないわよ」


 ケイコは多くを語らず、そっと美琴を抱きしめた。その温かい腕の中で、美琴はケイコの優しさに包まれ、静かに、そして穏やかに涙を流した。


- キャラクター プロフィール -

名前:岡崎美琴おかざきみこと

職業:空港グランドハンドリング

好きな事:釣り

年齢:21

身長:159㎝(5'3")

体重:54㎏(119lb)

誕生日:11月14日

星座:蠍座

血液型:型B


・彼女のショートアニメ配信動画はコチラ↓

https://www.youtube.com/shorts/e6aPVtNUg2Q


・彼女のイラスト配信動画はコチラ↓

Mikoto Okazaki Illustration Gallery #animegirl #AIart #kawaii


・彼女のイラストデータをこちら↓のサイト(SUZURI)で配信しています。携帯電話の壁紙等にご利用ください☆

https://suzuri.jp/teruru4040/digital_products/76014


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