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あなたと踊る、静かな夜(関根麻衣子)

映画館スタッフ:麻衣子の恋愛模様

 豊川駅から少し離れた公園。夜の街灯がまばらに地面を照らし、秋の風が落ち葉を転がしていく。

麻衣子は仕事帰り、制服から着替えたTシャツの上にパーカーを羽織っていた。


 平日の夜、映画館の仕事が終わると、ここに来て仲間と踊るのが習慣になっていた。


「麻衣子ちゃん、今日も、残業なしで来られたね」


 友人が笑う。


「うん。館内の掃除と、フードコーナーの片付けまできっちり終わらせてきたからね」


 冗談めかして返しながら、麻衣子はイヤフォンを耳に差し、音楽に合わせてステップを踏んだ。ダンスは、映画とは違う。光もストーリーもなく、自分で作る瞬間の表現。仕事に追われる毎日でも、踊っているときだけは心が軽くなった。


 ――そのときだった。


「麻衣子先輩、ですよね? お久しぶりです」


 振り向くと、街灯の向こうに懐かしい顔があった。背が伸びて、輪郭も少し大人びたけれど、あの時の面影はそのままだった。


「手越くん?」

「麻衣子先輩……覚えててくれたんですね」


 高校のダンス部。麻衣子が3年生で部長をしていた頃、彼は1年生として入ってきた。明るくて、真面目で、どこか不器用な少年。いつも練習後まで残って振りを確認していた姿を、麻衣子はよく覚えていた。


「久しぶりだね。今は3年生だよね?」

「はい、3年生になりました。今はダンス部の部長やってます」


「そっか。あの頃から努力してたもんね。手越君が部長なら部も安泰かな」

「どうでしょうか? でも、麻衣子先輩にそう言って貰えると嬉しいです」


 手越は少し照れたように笑った。公園の明かりに照らされる横顔は、もう高校生というより青年に近い。


「麻衣子先輩、映画館で働いてるんですよね」

「うん、豊川のシネマワールド。よくわかったね」

「実は……何度か行ってました」


「えっ?」

「先輩に会えるかなって思って。でも、忙しそうで声かけられなくて」


 麻衣子の胸の奥で、小さな音が鳴った。仕事中の自分を、誰かが見ていた。その事実が、少しだけ嬉しかった。


「私なんて、まだまだミスも多いけどね」

「そうなんですか? でも、接客してる先輩の笑顔は、映画館の明るい雰囲気を作ってる感じがしましたよ」

「もう、そんな事言っちゃって。手越君、モテるでしょ?」


 冗談のような言葉だったけれど、手越の瞳は真っすぐだった。懐かしいやりとりに、胸の奥がじんわりと温まった。


 ふと、スピーカーからダンス仲間が再生する軽快なビートが流れた。


「いえ、全然モテてないです。彼女もいませんし」

「そっか。まあ、頑張りたまえ、青年」


「何ですかそれ。ところで、麻衣子先輩、久しぶりに、一緒に踊りませんか?」

「え?」

「俺、先輩ともう一度踊ってみたくて。昔みたいに、自由に」


 麻衣子は少し迷ったが、うなずいた。パーカーの袖をまくり、腕を伸ばす。二人は自然と向かい合い、同じリズムを刻み始めた。風の中、足音が重なり、目が合う。言葉なんていらなかった。あの頃よりも少しだけ穏やかで、温かい時間が流れた。


 曲が終わると、静寂が降りた。互いに息を整えながら、手越がゆっくり口を開いた。


「やっぱり上手ですね、麻衣子先輩」

「手越君こそ、体のキレも音の取り方も、凄く良かったよ」


 手越は笑顔を見せた後、真面目な顔で麻衣子を見つめて言った。


「……麻衣子先輩」


 少し間をおいて、手越はまっすぐに言葉を続けた。


「高校のとき、本当はずっと憧れてました。ダンスだけじゃなくて、先輩そのものに。だから、今日こうしてまた一緒に踊れたのが、すごく嬉しかったです」


 そのまっすぐな瞳に、胸がぎゅっと締めつけられる。 彼があの頃とは違う、少し大人の顔をしていることに気づく。


「……そう、だったんだ。ありがとう。そんなふうに言ってもらえるなんて、嬉しいよ」

「それで……もしよかったら、今度俺とデートして貰えませんか? 映画でも、なんでもいいです」


 夜風が止まり、時間が静止したように感じた。少しの間をおいて、麻衣子はふっと笑った。


「じゃあ……私の映画館においでよ。今度は、私の隣の席で、一緒に」


 手越の表情がやわらかくなる。


「分かりました。約束です」

「うん。待ってるね」


 小さな約束が、夜の空気の中に浮かんで消えた。遠くの街の灯りがまたたき、ふたりの影が並んで伸びていく。


 —―麻衣子は思う。


 映画のような恋なんて、きっと簡単には始まらない。でも、こうして誰かと踊り、笑い合える夜があるだけで、今は十分幸せだと。


 公園のスピーカーが、もう一度静かなビートを刻む。


「また始まっちゃいましたね」

「うん、手越君、もう一曲、一緒に踊らない?」

「……はい、ぜひ」


 静かでエモーショナルなビートの音に包まれながら、二人の夜が、静かに続いていった。

- キャラクター プロフィール -

名前:関根麻衣子せきねまいこ

職業:映画館スタッフ

好きな事:ダンス

年齢:19

身長:160㎝(5'3")

体重:51㎏(112lb)

誕生日:9月9日

星座:乙女座

血液型:A型


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