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彼女たちの恋模様 (高校生から大人の女性が主人公の恋愛、短編小説集)  作者: 田山照巳


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花火大会、一年後の浴衣予約(小野美穂)

高校教師:美穂の恋愛模様

  ――八月、最初の土曜の夜。


 愛知県岡崎市のある高校。職員室には、照明の白い光だけが残っていた。窓の外からは、遠くで鳴るドーンという音。岡崎市で恒例の花火大会が始まったのだ。


(生徒のみんな、浴衣着て行ったんだろうなぁ。いいなぁ。私は今夜も残業かぁ……)


 小野美穂、二十三歳はまだ新米教師だ。夏休み期間ではあるが、事務仕事に追われ山のようなプリントを前にため息をついた。


 数日前から、生徒たちは「花火デート」「告白」なんて話題で盛り上がっていた。


(花火大会、私も素敵な人とデートしたかったな)


 そんな独り言を飲み込んだ瞬間――。


「小野先生、まだ残ってたんですか?」


 顔を上げると、化学担当の若手教師、岡田が立っていた。白衣姿に、少し寝癖のついた髪。ぶっきらぼうで無口、そしてちょっと変わり者。生徒の間では“理系メガネ男子”なんてあだ名もついている。


「岡田先生こそ、こんな時間まで何してるんですか?」

「花火大会だから、実験室のガスバーナー使うなって言われて。じゃあ書類整理でも、と思って」

「いや、花火会場と実験室のガスバーナーって、関係ないでしょ」


 謎めいたセンスの言い訳に、美穂はくすっと笑った。


「つまり、岡田先生も残業組ですか」

「まあ……僕らの職業、ロマンチックな土曜とは縁遠いですからね」


 そのとき、ドーン、とまた大きな音。窓の外が赤く染まり、花火の光が差し込んだ。


「……音だけじゃ、なんかもったいないですね」


 岡田がぼそりとつぶやいた。


「小野先生、ちょっと屋上、行ってみません?」

「えっ?」

「実地観察です。化学的な燃焼反応の」

「はいはい、言い訳が理系ですね」


 結局、美穂は笑いながら立ち上がった。二人で職員室を抜け、階段を上っていく。夜風がひんやりと心地よく、花火の音が少しずつ大きくなる。屋上の扉を開けた瞬間、夜空いっぱいに光が咲いた。


 赤、黄、青色――。そのたびに二人の顔が淡く照らされる。


「わあ……綺麗ですね」

「データじゃ伝わらないですね、これは」


 岡田の言葉に、美穂は笑ってしまう。


「先生、花火を“データ”で語るんですか?」

「ええ。光の波長とか燃焼温度とか。そうだ、小野先生? 良い事教えてあげます」


「えっ? 何ですか? もしかして寂しい花火の夜に、私にサプライズプレゼントですか?」

「ええ、とっておきの」


(わあ…何だろう? ちょっと不思議な岡田先生のサプライズ……気になるかも)


 岡田は先程よりも流暢な口調で話を続ける。


「いいですか? 花火の色っていうのは炎色反応です。赤色はストロンチウム、黄色はナトリウム、青色は銅の化合物がよく使われます」


「ちょっと! やめてください! 折角の奇麗な花火が台無しです! ていうか、ただの化学の授業じゃないですか!? ロマンがゼロです!」


 美穂の予想をあっさりと裏切る岡田の言動。でも、不思議と居心地は悪くなかった。


 生徒たちはきっと恋人と手をつないで、花火を見ながら青春を謳歌している。そんな夜に、自分は同僚の理系男子と屋上に立ってる……。それがなんだか、悪くないと思えた。


「はあ。私も浴衣着たかったなあ。生徒みたいにデートして。恋人と一緒に花火見て」

「小野先生、浴衣が似合いそうですね」


 岡田がぽつりと言った。


「え?」

「はい? 僕、何か変な事を言いました?」


「いえ、岡田先生にそんな風に褒められると思わなかったから」

「そうですか……まあでも、大丈夫です。僕、小野先生の浴衣姿は想像力で補いますから」


「……岡田先生、それ、変態ですか?」

「いえ、理系的想像力です」

「意味が分かりません!」


 二人で笑う。夜風が頬を撫で、髪が少しだけ揺れた。花火の音が遠くで弾けている。夜空に咲いては溶けてゆく花火を見上げながら、心地良い時間が過ぎていく。


(岡田先生とこうして二人で話すのは初めてかも。でも何だか不思議……落ち着くとか、安心するって、こういう感覚なのかな)


 美穂は自分でも不思議な感覚に襲われる。花火を見上げながら雑談を続ける二人。


「岡田先生って、休日は何してるんですか?」

「アニメ観てます」


 即答。


「やっぱり……」

「“やっぱり”って失礼じゃないですか?」

「ふふ。だって岡田先生、いかにもそういうタイプですもん」


 岡田は少しむくれた顔で笑った。


「アニメの中の花火も奇麗に描かれるけど、誰かと一緒に観る実物もまた奇麗ですね。僕、今ちょっと感動してます。今日はありがとうございました」


 その言葉が、不意に胸に残った。ぶっきらぼうなのに、真っ直ぐで。美穂の心臓が、ひとつ跳ねる。


「……岡田先生」

「はい?」


「さっきの“想像で補う”って話、どんな浴衣想像したんですか?」

「え? そ、それは……」

「気になりますねえ」


 岡田は少し目をそらして言った。


「口に出して言うのは……恥ずかしいです」

「ちょっと! 一体どんな浴衣姿を想像したんですか!?」


 美穂の鋭いツッコミに押されながら、岡田が答える。


「白地に水色の朝顔柄で、髪はまとめて、花飾りのかんざし」

「細かっ! っていうか、ちゃんと普通に可愛いじゃないですか」


「想像力だけは自信あります」

「いや、それほんとに変態ですよ」


 ふたりで笑い合う。夜空に最後の大玉が打ち上がる。真昼のように光が広がり、静寂が戻る。


「……終わっちゃいましたね」

「来年もありますよ」

「そうですね」


 少し間をおいて、岡田が言った。


「そのときは、想像じゃなくて、本物の浴衣姿……見せてもらっても良いですか?」


 その不器用な言葉が、夏の夜風に溶けていく。美穂は少し頬を染めて笑った。


「一年後の浴衣姿の予約ですか? 岡田先生、その前に何度かちゃんと誘ってください」

「……分かりました」


 岡崎の夜空には、まだ煙の名残が漂っていた。屋上の手すりに並んで立つふたり。教師同士の……ほんの少しだけ甘い夏の夜だった。

- キャラクター プロフィール -

名前:小野美穂おのみほ

職業:高校教師

好きな事:エステ

年齢:23

身長:159㎝(5'3")

体重:54㎏(119lb)

誕生日:11月25日

星座:射手座

血液型:B型


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