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リズムはふたりの中に(黒木愛菜)

ダンサー:愛菜の恋愛模様

「次、三番。黒木さん、お願いします」


 大舞台『ライジング・サン』の最終オーディション。鏡に映った自分の姿に、黒木愛菜はそっと息を吐いた。緊張で喉が渇く。けれど、もう迷わない。ダンサーとして、ひとつ上のステージに立てるかもしれないチャンス。


 呼吸も鼓動も、重力のように身体にのしかかってくる。でも、それ以上に心をざわつかせていたのは……待合室で見た、あの人の姿だった。


 ――榊原悠人。


 専門学校時代の同期。ストイックでぶっきらぼう。だけど、ひたすら真っ直ぐだった人。卒業後、愛菜はCMや舞台で実績を積み、悠人は長い下積みを経て、ようやくコンスタントに仕事を得るようになったと風のうわさに聞いていた。

 

 二人ともダンサーとしての生活は安定しはじめた。でも、“一流”には、まだ遠い。


「黒木さん、準備よろしいですか?」

「はい。お願いします」


 軽くうなずき、ステージ中央に立つ。音楽が流れ出した瞬間、全身がスイッチを入れられたように動き始める。体は覚えている。だけど、今日はそれだけじゃない。


(悠人くんに、今の私を見てほしい)


 あのとき、置いていかれたように感じた。悔しさ、焦り、孤独。でも今は、自分自身に誇れる何かを持っている。彼と並べる場所に、私は来た。踊り終えた瞬間、全身の筋肉がじんわりと痺れていた。胸が苦しい。でも、それはやり切った証だった。


「次、七番、榊原さん」


 オーディションは進み、名前を呼ばれた彼が静かに立ち上がる。無表情。でも、その背中には静かな闘志がにじんでいた。


 ステージに立った彼を見た途端、空気が変わった。ひとつひとつの動きが、切実だった。なにかをつかもうとする指先。ひたむきに伸ばされる軸足。心の奥底から絞り出すような熱。彼はまだ、ずっと上を見ている。


(……やっぱり、すごいな)


 胸がギュッと締めつけられた。その想いが、かつて自分を突き動かした熱と重なる。


「久しぶりだな、黒木」


 控室の隅。ペットボトルを握る愛菜に、悠人がふっと声をかけてきた。その声が、どこか懐かしいリズムを連れてくる。


「……ほんとに久しぶり。驚いたよ。まさか悠人くんが同じオーディション受けてるなんて」

「黒木こそ、てっきりもっと大きい舞台に行ってると思ってた」


 笑って言われたのに、胸の奥がちくりと痛んだ。ずっと遠くに行ったと思ってたのは、私のほうだったのかもしれない。


「悠人くん、最近調子いいって聞いたよ。知り合いの演出家さんから」

「ようやく食っていけるようになっただけさ。でも、あの頃描いてた夢にはまだ……遠い」

「……私も、似たようなもんだよ」


 ぽつりぽつりとこぼれる言葉。互いの間に、沈黙が流れた。その静けさを破るように、愛菜は少し勇気を出して尋ねる。


「なんで、このオーディション受けたの?」


 悠人は天井を見上げ、ふっと口元をゆるめた。


「ここに立てば、君にまた会える気がした……って言ったら、笑うか?」


 一瞬、心臓が跳ねた。そのとき、愛菜の中で何かが静かに繋がった。彼のダンスに宿っていたもの……焦り、願い、そして祈るような眼差し。それはただ「受かりたい」という気持ちじゃなかった。


(もう一度、自分と向き合ってほしい。もう一度、一緒に踊りたい)


 そう叫んでいるように見えた。彼のまっすぐすぎる想いが、踊りに宿っていたのだ。


「でも正直、ちょっと焦ってたんだ。黒木はもう遠い存在だと思ってたから」

「そんなことない。私もずっと……比べてた。勝てないなって思ってたよ」

「……俺も」


 ――視線が重なる。懐かしくて、でも今の自分たちを認め合えるような、穏やかで優しい眼差しだった。


「結果、どうなるかな」

「主役は……ひとりしか選ばれないもんね」

「だな」


 だけど、不思議と怖くなかった。胸の奥で、安心する何かがあった。愛菜は小さく笑った。


 ――結果発表の数分前。


 スタジオの隅で、ふたりは肩を並べて座っていた。言葉はない。でも、それが心地よかった。その静けさを破るように、悠人がぽつりと呟いた。


「……たとえ俺が選ばれなくても。いや、たとえ黒木が選ばれなくても——」


 一拍、間を置いて。


「舞台が違っても……俺は黒木と、また踊りたいと思ってる」


 それは告白でも、約束でもない。でも、愛菜の心に静かに染み込んでいく、確かな“光”だった。


「うん、私も。そう思ってた」


 ――結果発表。


 主役の名に、ふたりのどちらも呼ばれなかった。だが、悠人は主要な脇役に選抜された。


「悠人くん、おめでとう」

「主役じゃなかったから……“おめでとう”が合ってるかどうか分からんけど」

「そっか……ごめん」

「いや、俺の方こそ、ごめん」


 言葉は少なかった。でも、それで十分だった。伝えたいことは、もうリズムの中にあった。



 オーディションの後、ふたりは駅近くのカフェで向かい合っていた。


「黒木、SNSとかやってる?」

「うん。悠人くんは?」

「俺もやってる。今度、一緒に河原でダンス動画でも撮ってみないか?」


(えっ……?)


 思いがけない誘いに、愛菜の心拍が跳ね上がる。


「も、もちろん、OKだよ!」


 咄嗟に出た返事は、少し上ずっていた。でも、うれしかった。


 ――約束の日。


 愛知県弥富市。ふたりが暮らすこの街に流れる木曽川の河川敷では、ダンスや撮影をする若者たちがよく集まっている。


 愛菜はスマートフォンの録画ボタンを押し、悠人と踊り始めのポーズを決める。軽やかな音楽に包まれながら、交わす視線、呼吸、ステップ。かつての焦りや孤独が、ひとつずつ癒されていくような気がした。


(ああ、私、いま……幸せだ)


 言葉にはならないけれど、身体中がそう感じていた。愛菜の中に、やさしい光が差し込んでいた。そのリズムは、ふたりの中に確かに存在していた。

- キャラクター プロフィール -

名前:黒木愛菜(黒木愛菜)

職業:ダンサー

好きな事:読書

年齢:23

身長:155㎝(5'1")

体重:52㎏(114.6lb)

誕生日:4月1日

星座:牡羊座

血液型:AB型


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