ロマンのない告白に、ちょっとだけときめいた(堀内美樹)
女子高校生:美樹の恋愛模様
漫画喫茶――それは、堀内美樹にとって「理想郷」だった。
愛知県みよし市の住宅街にある、全国チェーンの漫画喫茶。全席に漫画の神棚があるようなこの空間で、しかも時給までもらえる。高校生の自分にとって、こんな夢のような場所があるなんて……と最初に気づいたとき、美樹は思わず天を仰いだ。
土日だけ、という約束で始めたバイト。だけど、気がつけば週3に。親には「急に従業員が倒れた」とちょっとした嘘をついて、なんとか誤魔化している。バイト代はすべて漫画代と漫画喫茶の利用料金に消えていく。けれど、それが全く惜しくない。
(働けば働くほど漫画が読めるなんて……最高じゃん)
時間とお金という二大壁を、漫画愛で突き破った。そう思うたび、美樹の胸は誇らしさでいっぱいになる。
「堀内さん、今日もあの棚、整理お願いね」
「了解です! “ジャンプ黄金期”棚、やってきます!」
即答した瞬間、自然と目が輝いた。隣で聞いていた同じバイトの西村くんが、くすっと笑う。高校は違うけれど、同い年。漫画好きという共通点もあり、最近ようやく話すようになった。
(リアル男子は、正直苦手だけど……西村くんなら、まあ、会話できる)
漫画キャラならいくらでも語れるのに、現実の異性となると、とたんに言葉が出てこなくなる。でも、西村とは自然と話が続いた。きっかけは些細なこと――たしか、『みどりのマキバオー』の名シーンの話だった。
あの日から、美樹と西村は、空き時間にジャンプの名セリフや、名脇役ベスト3について真剣に語り合う仲になった。
「そんなにテンション上がる棚かね」
「ジャンプ黄金期を知らずに育ったこと、後悔した方がいいよ?」
「お、おう……」
やりとりをしながら、心の奥では少しずつ、西村との距離が縮まっているのを感じていた。ある日の夜、棚の片付けを終えたタイミングで、西村がこちらをちらちら見ているのに気がついた。
「なに? 鼻に何かついてる?」
「いや、そうじゃなくて……ちょっと提案があるんだ」
「提案?」
首をかしげると、西村は制服のポケットから折り畳まれた紙を取り出した。広げてみると、それは手書きの漫画リストだった。
(えっ……すご。作者名、巻数、既読チェック……)
「え、ちょっと待って。わたしも似たようなの作ってるんだけど……」
「……貸し借り、しない? 俺のも読んでいいからさ。そしたら出費も減るし」
(……ん? いま、なんて言った?)
「……は?」
耳が一気に熱くなる。言葉の意味は理解できるのに、頭がついていかない。
「ちょ、なにそれ。え? どういうこと?」
「いや、だから。お互いの漫画を貸し合えば、節約になるし……ついでにさ、俺、堀内さんともっとしゃべりたいんだよね」
「それって……今のって……」
「うん。ついでに告白」
「…………」
――数秒の沈黙。
(ついでにって!? こいつ、告白の“枕詞”に「ついでに」とか言いやがった!?)
「ロマンが! ないっ!!」
怒鳴り声が喫茶内に響いた。
「ええーっ!?」
「あのねぇ、もっと他の言い方があるでしょ!? “俺の世界には君だけだ”とか! “君に出会って俺の人生がモノクロからカラーになった”とか! なんで“出費が減る”なの!?」
「ちょ、いや、ごめん! 言い方間違えた! でも本気だから!」
焦って手を振る彼を、美樹は睨みつけ……ながら、でも。
(……くそ。笑いそう)
怒ってるはずなのに、心の奥では、くすっと笑ってしまいそうだった。漫画の話ができる相手として、大事に思ってくれてる。それが、彼の言葉の節々から伝わってきたから。
「……じゃあさ」
「うん?」
「“出費が減る”とか言うんじゃなくて、もっとロマンチックに言い直して?」
「ええっ……無理難題……」
「ダメ。じゃないと、OKしない」
西村は数秒唸ったあと、小さく息を吐いて言った。
「じゃあ……堀内さんの趣味の漫画、俺に貸してくれませんか。……その代わり、俺の時間とか、いろんなものも貸すから」
その瞬間、笑いがこぼれた。
「……っ、ふふっ」
変に真面目で、でもどこか不器用で。まっすぐなその告白は、美樹の心にスッと染み込んでいった。
「はいはい、それなら合格」
「……え、ほんとに?」
「うん。OK。……でも貸した漫画は丁寧に扱ってよね?」
「わかってる。透明カバーもつけて返す」
「……どうやって? 毎回買う気?」
「そっか、無理だね」
苦笑いしながら赤面する西村を見ていると、なんだかくすぐったい気持ちになる。
「じゃあ、時々ラブレターつけて返す」
「それは……欲しい」
再び沈黙。でも今度は怒りでも呆れでもなくて、ただ照れくさい、でも心地よい空気が流れた。美樹がその沈黙に耐えきれず、冗談っぽく突っかかる。
「ねえ? いま、“しまった、面倒なこと言ってしまった”とか思ってるでしょ?」
「えっと……なんで分かるの?」
(こいつ!!)
怒るふりをしながらも、もう顔は笑ってしまっていた。こんなにロマンのない告白なのに――いや、だからこそ。この恋は、ちょっと現実的で、でもかなり嬉しい、美樹の日常に混ざった、一冊の漫画みたいなものだった。
- キャラクター プロフィール -
名前:堀内美樹
職業:高校生
好きな事:漫画を読む
年齢:18歳
身長:158㎝(5'2")
体重:45㎏(99.2lb)
誕生日:12月10日
星座:射手座
血液型:AB型
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