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ダンスと日本酒と、譲らないパートナー(原麻美)

郵便局員:麻美の恋愛模様

 愛知県半田市にあるダンス教室。ホールの片隅で、初心者体験に訪れていた女性は先生の話に耳を傾けていた。初心者らしく、顔には緊張の色が浮かんでいた。


「まず、こうして背筋を伸ばして、リードを感じて――」

「はい」


先生の柔らかな声が響く中、フロアの反対側から突然、怒鳴り声が飛んできた。


「違う! 今のはステップじゃなくてスライド!」

「はあ? あんたこそ腰の位置がズレてるの!」


 怒鳴り合っていたのは、一組の男女。女性は原麻美、25歳の郵便局員。そして向かい合う男性は、ダンスパートナーの岡本。ふたりとも真剣そのもので、だが、互いに一歩も引かない。


「先生……あの、あの二人、揉めてますけど、大丈夫ですか?」


ダンス体験中の女性が心配そうに聞くと、先生は笑って頷いた。


「ああ、大丈夫、大丈夫。いつものことだから」


 ――、確かに、それはこのダンスホールではいつもの光景だった。


 その夜、練習を終えた麻美と岡本は、黙って駅前の行きつけの居酒屋に向かった。ダンスで上がった熱が収まらない。練習の文句を言い合いながら日本酒を飲むのは、二人にとってすっかり恒例行事だった。


「まずは『国盛』、二合ずつで」


 メニューを開くまでもなく、いつもの注文。中埜酒造の代表銘柄が、重みのある陶器の徳利で運ばれてくる。


「さっきのターン、私のステップに合わせてくれてれば、もっと流れるようにいけたのに」


麻美が不満げに言う。


「お前こそ足元見ろって。おかげで靴擦れできたわ」

「はあっ? 何よそれ!」


と言いながら空になった徳利を持ち上げ、麻美が注文を続ける。


「大将、次は『半田郷』で」

「俺も、同じ物を」


 笑いながら、また二合ずつ注文する。ダンスについて揉めているのだが、しかし二人は、どこか楽しそうだった。猪口を傾けながら、ふたりの会話は自然と三年前の話になった。


「そういえば、最初に組まされた時も、揉めたよな」

「当たり前でしょ。『あんたのリード、地蔵みたい』って言われたもん。あれには流石にキレたわ」


「ははは、あの時はさ、ダンスだけじゃなくて、酒飲みでも負けたくなくて、競う様に二人で飲んだんだよな」

「ええ、そうね……ああ、私の人生最大の黒歴史が」


岡本と初めてダンスをし、初めて飲んだ日の過去を回想し、麻美は頭を抱えた。


――そう、三年前。初めてパートナーとして紹介された夜。


 「お互い勝ち気だから相性いいと思うよ」と笑って先生が言ったその日のことだった。練習後にぶつかり合った二人は、勢いのまま居酒屋へ流れ、あれこれと文句を言いながら日本酒をあおった。


 そして――居酒屋で、途中からの記憶が、ない。


 翌朝。枕元に置かれた携帯アラームが鳴り、麻美が目を覚ましたのは、見慣れないベッドの上だった。


「……え?」


天井のシャンデリア。赤いカーテン。わずかに揺れる照明の影。


(ちょっと待って……これ、ラブホ? ええっ!?)


心拍数が跳ね上がる。視線を落とし、自分の服装を確認する。


(お願い! 何でも良いから服を着ていて!)


麻美が恐る恐る確認した自分の服装は……Tシャツ一枚。他は、何も着ていない。


「うそ、ちょっと、やだ……!」


 声が震える。手足の感覚がふっと遠のくような不安が、麻美を襲った。麻美は思わずシーツをぎゅっと握り、胸元まで引き寄せた。頭の中がぐるぐる回る。どうして? 昨夜、居酒屋で何杯飲んだっけ? 何を話した? 何かした? ――覚えていない。まるで霧の中。その時、浴室の扉が開いた。湯気をまとって現れたのは岡本だった。


「……えっと、起きたか?」


 その光景に、麻美はまた息をのんだ。まさか、岡本と一緒に一晩を過ごしてしまうとは……。


「……先に目が覚めたから、とりあえずシャワー浴びてた」

「な、なんで……なんでこんなことに……!」


麻美は顔を真っ赤にして、声を震わせながら、思い切って聞いてみた。


「あのさ……あんた、起きた時……その、服は?」


麻美の問に、岡本は戸惑いながら答える。


「その……Tシャツ一枚だった」


長い沈黙が二人を包む。二人が顔に手を当て、うなだれる時間が暫く続いた後、岡本が口を開いた。


「俺、何も覚えてない。お前は?」

「……うん、私も、何も」


「あのさ、どうせ二人とも記憶ないんだ。これ以上確認しても無駄だな」

「そ、そっか……そう、だね」


 会話が途切れ、二人で無言のまま部屋を見渡す。すると、二人は不思議な光景を目の当たりにした。テーブルは端に寄せられ、中央には踊れそうなスペース。ソファには、二人の服が奇麗に畳まれ、下にはダンスシューズが整然と並べられていた。酔った男女がやることにしては、あまりにも秩序だっていて、逆に不気味だった。


「……なにこれ、もしかして、私達、踊ってた?」

「たぶんな。酔って帰れなくなって、ラブホに入って、ダンス練習……とか」


麻美は思わず吹き出した。岡本も苦笑した。


「最低すぎるけど、まあ……変な意味じゃないなら、いいか」

「体の関係はなかったってことで、手打ちにしようぜ」

「そうね……これ、誰にも言わないから」


 ――そうしてふたりは、妙な連帯感を得た。


 そして現在、今夜もダンスの練習後に駅前の居酒屋で再び日本酒を交わしている。


「じゃあ次は『金鯱夢吟香』で乾杯ね。はあ、悔しいけど、あの夜に、ちょっとだけ感謝かな」

「だな。あの一夜で、お前との距離が変わったのかもな」


「あの朝は絶望しか感じなかったけど」

「そうだよな。お前なんて、『ああ、お母さん、こんな娘でごめんなさい!』って言ってたもんな」

「それを言うな!」


……バンッ! と麻美が岡本の肩を強めに叩く。


「痛て!」

「ふふ。でもまさか、今こんな風に一緒に笑って過ごす事になるなんて、想像もしてなかったけど」


猪口が触れ合い、澄んだ音が響いた。


――翌週。


 体験に来ていた女性は入会を決めた様だ。女性が先生のレッスンを受けていると、先日と同様、フロアの反対側から怒鳴り声が飛んできた。


「先生、あの二人また揉めてますね」


新人が目を向けると、やはり麻美と岡本が大声で言い合っていた。先生はおかしそうに笑って答えた。


「大丈夫、あれでウチのエースだから」

「エース、ですか?」


「うん。それにね、あの二人――来月、結婚するんですよ」

「……ええっ!」


新人は目を見開き、思わず笑ってしまう。


「私も、ダンスだけじゃなくて、人生のパートナーも見つけたいです」

「そうですね。良い出会いがあると良いですね。でも、練習は真剣に。出会い目的は不純ですよ」


 先生は穏やかに微笑んだ。そんな新人をよそ眼に、ダンスフロアには、揉めながらも息ぴったりなふたりのステップが刻まれていた。



- プロフィール -

名前:原麻美はらあさみ

職業:郵便局員

年齢:25歳

好きな事:社交ダンス

身長:160㎝(5'3")

体重:55㎏(121.3lb)

誕生日:10月14日

星座: 天秤座

血液型:O型


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