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恋はハッシュタグから(石井友里)

広報部会社員:友里の恋愛模様

「#逆転ゴール最高!」「#あの一体感こそ、サッカーの醍醐味!」


 愛知県安城市の中小企業に勤める石井友理、27歳。広報部所属。彼女は会社の公式SNSアカウントの運用を任されている。


 中でも特に力を入れているのが、地元サッカークラブ・名古屋グランパスを応援する投稿。もっとも、企業の広報として許されるのは、あくまでフォーマルで当たり障りのない内容だけだ。


 応援といっても、熱量を全面に出すことはできない。それが少し、もどかしかった。


 けれど――。


「#グラ推しの民」「#あのボール奪取、惚れるしかない」


 これは、友理が個人で匿名運用しているアカウント「@サッカーOL」の投稿。こちらは完全に趣味。感情のまま、試合の感想や戦術分析、選手へのエールを自由に綴っている。始めはただの自己満足。けれど気づけばフォロワーは5000人を超えていた。


 誰かに届いている実感がある。それが嬉しくて、更新する手が止まらなかった。


――ある日、1通のDMが届いた。


「いつもコメント、楽しみにしています。あなたの言葉に、何度も勇気づけられました」


 たった一文なのに、胸の奥がふっと温かくなる。まるで、見えない誰かが、画面の向こうでそっと頷いてくれているような――そんな気がして、自然と微笑んでしまった。


「ありがとうございます。サッカー好き同士、これからも盛り上がりましょう!」


 軽やかに返信すると、すぐに返事がきて、やり取りが始まった。送り主は“H”というアカウント名。最初は推し選手や試合の話が中心だったけど、次第に日常の話題も交じるようになってきた。


「この前の逆転ゴール、会社の同僚とめっちゃ語っちゃいました。ただ、上司は野球ファンなので“うるさい、野球の話もしろ”って笑われました(笑)」


 その文面を見た瞬間、友理の手がぴたりと止まった。


(……あれ?)


 営業部の課長、確か熱狂的なドラゴンズファンだったはず。よく「野球派こそ正義」なんて冗談を言っていたっけ。しかも営業部にはサッカー好きも何人かいて、過去の飲み会で試合の話をしていた記憶がうっすらとある。


(まさか、とは思うけど……もしかして“H”って、原田さん?)


 名前は出ていない。けれど、丁寧で落ち着いた文体、テンポのいい会話の流れ――どこか既視感があった。気のせいだと自分に言い聞かせたけれど、心の片隅に残った違和感は、なかなか消えてくれなかった。


 そして数日後。社内の合同会議で、広報と営業が顔を合わせる機会が訪れた。会議が終わり、資料を片づけていると、ひとりの男性がすっと歩み寄ってきた。


「営業の原田です。SNS、いつも拝見してます」

「……え?」


 一瞬、心臓が止まりそうになった。


「“サッカーOL”さん、ですよね? DMの文体で、もしかしてって思ってたんです。でも今日、会議中に“サッカーの試合では展開力があるボランチがいると、試合全体のリズムが安定しますよね。仕事のチームも同じです”って……あれ、あなたの投稿そのものでした。それで、確信しました」


「……バレちゃいましたか」


 苦笑いしながら肩をすくめたけど、内心はもうパニック寸前。


(うそ……ほんとに、原田さんだったの? まさか、画面の向こうの“H”が、同じ会社の、しかも、あの原田さんだったなんて……!)


 心臓がバクバクして、呼吸が浅くなる。原田に対する印象は良い。いや、むしろ、機会があれば距離を近づけてみたいと友里が思っている男性だった。


「会社公式の広報投稿と違って、あなたのSNSは感情がこもってて。画面越しでも、“この人、本当にサッカーが好きなんだな”って伝わってきました」


「ありがとうございます。社内では誰にも言ってなかったんですよ」

「じゃあ、一人目ってことですね。光栄です」


 そう言って差し出された手。友理は一瞬迷ってから、そっと握り返した。


(不思議……こんなにもあたたかくて、しっくりくるなんて)


 ほんの少しの会話なのに、心がふわっと軽くなる。胸の奥がじんわり熱くて、何だか泣きそうだった。


 その週末。豊田スタジアムの前で、友理はひとり、そわそわと落ち着かない気持ちで立っていた。


(緊張する……けど、楽しみすぎる……!)


 初めての“サッカー観戦デート”。何度も鏡で髪型を確認し、いつもより少し明るめのリップを塗った。服は応援に力を入れる為のユニホーム。これだけは譲れない。


 そこへ、原田が現れた。いつものスーツ姿ではなく、赤いシャツにグランパスのキャップ姿。


「原田さん、似合ってますね」

「ありがとうございます。今日は気合い入れてきました。」

「私もです。いつもより、早起きして準備しました」


 お互いに笑い合う。その笑顔が、妙にまぶしく見えた。駅からスタジアムまでの道。テンポのいい会話が心地よくて、時間があっという間に過ぎていく。試合が始まると、ゴールのたびに自然とハイタッチ。歓声と熱気の中で何度も目が合い、そのたびに心が跳ねた。


(こんな風に、誰かと試合を共有するの、初めてかもしれない……)


 そして――後半ロスタイム。劇的な逆転ゴールが決まった瞬間、声にならないまま、ふたりは見つめ合った。


「……最高ですね」

「ほんと、最高」


 たったそれだけの言葉なのに、心が通じ合った気がした。帰り道、人混みに紛れながら、原田がふと口を開いた。


「今度は……サッカー抜きでも、どこか行きませんか?」


 その言葉に、胸がきゅっと締めつけられるように高鳴った。


「うん、私も思ってた」


 少し照れながらうなずくと、原田は驚いたように目を丸くして、それから優しく笑った。


(この人となら、もっといろんなことを分かち合えるかもしれない)

――ハッシュタグが繋いでくれた恋。


 これからは、名前と声とまなざしで、少しずつ育てていけたらいい――そう思えた夜だった。


- キャラクター プロフィール -

名前:石井友理いしいゆり

職業:会社員(広報部)

年齢:27歳

好きな事:サッカー観戦

身長:160㎝(5'3")

体重:53㎏(116.8lb)

生年月日:5月22日

星座:双子座

血液型:A型



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