放課後の秘密(中村由紀子)
女子高校生、中村由紀子の恋愛模様
夕焼けが校舎の窓ガラスをじんわりと染めはじめたころ、ユキコは静かな放課後の裏手にひとり佇んでいた。人気のない渡り廊下の影。壁には古びたペンキがまだらに剥がれ、風に揺れる草の匂いがどこか切なさを運んでくる。
この場所は、普段なら誰も寄りつかない。けれど今のユキコには、世界でここしか呼吸できる場所がないような気がしていた。握りしめた便箋は、手の中でしっとりと汗を吸い、角がわずかに丸くなっている。その感触を何度も指先でなぞるたび、心臓がどくん、と強く跳ねた。
(本当に……来てくれるのかな、ハルキ先輩)
胸が騒がしく、息が浅い。こんなふうに呼び出したのは、生まれて初めてだった。これまで、先輩に話しかけたことさえ数えるほどしかない。けれどずっと、目で追い続けてきた。廊下ですれ違ったときの横顔、練習後に飲み物を友達に分けていた姿……全部、記憶の中に大切にしまってある。
昨日、下駄箱に手紙を入れるときも、指が震えてうまく差し込めなかった。けれど今、返信のメッセージをもらってここに立っているという現実が、夢のようだった。
夕焼けの色がだんだん濃くなってきた頃、足音がひとつ、控えめに近づいてきた。
心臓が跳ねる。
振り返ると、そこにハルキがいた。
少しだけ息を切らせながら、制服のシャツの襟を緩めている。淡いオレンジの光が、彼の汗ばんだ横顔をふんわりと照らしていた。どこか映画のワンシーンのように見えて、ユキコは一瞬、言葉を失ってしまう。
「ごめん、ユキコ。遅くなった」
優しい声が耳に届いたとき、ようやく現実に引き戻された。ユキコは慌てて首を振る。
「ううん、大丈夫です! あの……来てくださってありがとうございます」
自分でも驚くほど、声が震えていた。でも、それでもちゃんと伝えたかった。こんなに胸がぎゅっとなるほどの思いを、もう黙っていられなかった。
「手紙、ありがとうね」
ハルキは、昨日の便箋をそっと持ち上げて見せた。その表情は、どこか戸惑いながらも、真剣だった。優しく、でも油断すると泣きそうになるくらい、まっすぐな目。
(今しかない……)
心の中で何度も繰り返してきた言葉を、ユキコは自分の声で吐き出した。
「あの……実は、今日、ハルキ先輩に……伝えたいことがあって……」
唇がかすかに震える。手のひらには、もう汗がにじみきっていた。けれど、逃げたくなかった。ハルキは何も言わず、ただ静かにユキコを見つめている。その視線が、怖いくらいに真剣で――でも、優しく包み込んでくれるようでもあった。
「私……ずっと、ハルキ先輩のことが好きでした!」
叫ぶような声だった。恥ずかしいくらい、声が大きくなってしまった。でも、伝えたかった。どうしても。
「先輩の優しいところとか、誰かが困ってると、さりげなく助けるところとか……部活帰りに友達と笑いあってるときの、あの顔も……全部、すごく憧れてました。卒業しちゃう前に、どうしても……どうしても、気持ちだけでも伝えたくて……」
言葉が止まらなかった。堰を切ったように溢れ出す想い。頭では整理できないのに、心だけが勝手に走っていく。
ユキコは、胸の前でぎゅっと抱えていた手紙を、そっとハルキの方へ差し出す。
「これは……私の気持ちを書いた手紙です。もし、よかったら……読んでください」
ハルキは、静かに手を伸ばし、ユキコの差し出した手紙を受け取った。ふと、指先が触れる。その一瞬が、時を止めたかのように長く感じられた。
ユキコは、ごくりと小さく唾を飲み込んだ。
「ありがとう、ユキコ。こんなふうに思ってくれてたなんて、知らなかったよ」
ハルキの声は、まるで春の風のようにやわらかく、けれど芯のある響きを持っていた。
「今、すぐに答えは出せないけど……ちゃんと読む。真剣に、受け止めるから」
その言葉に、ユキコの胸の奥に、ひとすじの光が差し込んだような気がした。泣きそうだった。でも、それは悲しみじゃない。安堵と、喜びと、緊張の涙だった。
「はい……ありがとうございます」
静かな沈黙が、二人を包んだ。どちらからともなく視線を逸らし、またふと目が合って、照れくさく笑う。
空の色は、いつの間にか茜色から紫に変わっていた。遠くで鳥の声がひとつ、風に乗って聞こえてくる。
「あのさ……今日は、話してくれてありがとう。俺もね、ユキコのこと、ちゃんと見てたつもりだったんだ」
ハルキの笑顔が、ほんのりと浮かぶ。その目には、どこか温かな光が宿っていた。
胸の奥がじんわりと熱くなる。
「じゃあ、俺はこれで。また連絡するね」
「……はい。待ってます」
ハルキはもう一度、優しく頷いて背を向けた。夕闇が校舎のあいだをゆっくりと満たしていく中、ユキコはその背中を、じっと見つめていた。
一歩、また一歩と遠ざかる先輩の姿が、どうしようもなく眩しかった。あの背中に、いつか隣で並べる日が来るだろうか。まだわからない。でも――
ゆっくりと深呼吸をして、空を見上げる。紺色の空に、小さな星がひとつ、またひとつと瞬きはじめていた。胸の奥には、言葉にならないあたたかさが残っている。今日、勇気を出してよかったと、心から思えた。
(伝えられて、よかった……)
そう思った瞬間、頬にそっと風がふれる。まるで誰かが、よくやったね、と優しく背中をなでてくれたような気がした。
- キャラクター プロフィール -
名前:中村由紀子
職業:高校生
好きな事:ハンドボール
年齢:17
身長:162㎝(5'4")
体重:47㎏(104lb)
誕生日:6月30日
星座:蟹座
血液型:A型
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