封印されし悪霊の復活
20xx年。
京都のとある地で開拓工事が行われていた。
木を切り倒し、ショベルカーで地を掘り起こし、残土をダンプカーが運び出す。開拓区画では、土木作業員が汗をかきながら作業を続け、その進捗を現場監督が見守っていた。
ショベルカーが突然、止まった。周りで作業していた人も、一様にため息をついた。異変に気がついた現場監督が言った。
「どうした!?」
「ショベルカーのオペレーターが渋々言う」
「出ました」
「なにがだ?」
「遺跡です」
監督が現場に行くと、ひとつの石棺があった。墓石ほどの石棺は、黒い石に赤と白で塗り固められ、紙を何重にも巻いて封がしてある。封印に文字が書いてあるが、読むことはできない。
「市役所に連絡だ」
「工事はストップだな」
「京都の工事は、掘れば何かしらの遺跡が出るからな」
「しょうがない」
バンパイアは、言う。
「ちょっと待って」
「なんでしょう?」
「彼を魔法使いにして、どうするの?」
「あなたは、なにも気がついていないんですか?」
「?」
「感じない? 巨大な魔力の胎動を」
「…」
「その沈黙、感じていると捉えて良いですね?」
バンパイアも、サキュバスも、周囲の邪気を感じていた。
「これが、悪霊?」
「はい」
「悪霊にしては、まだ邪気が弱いけど」
「千年以上前、安倍晴明によって封じられた悪霊。覚醒したばかりで、まだ、力を取り戻していないのでしょう。悪霊が力を取り戻すまでに、喜留太郎さんには、魔法使いとして、成長していただかなければなりません」
「雪女は、彼を誘惑する気はないのね?」
「今のところは」
「今のところ?」
「悪霊を倒したら、もちろん、結ばれるつもりです」
「だよね」
「おふたりに訊きます。その一。復活した悪霊が日の本に厄災を巻き起こします。童貞を失った喜留太郎さんは悪霊を退治できません。日の本は滅びました。その二。喜留太郎さんを一流の魔法使いに育て上げます。復活した悪霊を退治できるかも知れない。どちらが良いですか?」
「そりゃ、悪霊は退治したいけど…」
「悪霊を退治すれば、好きにして良いんですね?」
「退治した後は、それこそ、喜留太郎さんをお気に召すまま、ですね」
サキュバスとバンパイア、刹那の間、話し合った。
「わかったわ。雪女の案に乗ってあげる」
「賢明な判断ですね」