雪女
彼女は私を連れて、俺の部屋に来た。ドアを開け、靴を脱ぎ、廊下に入った時、突然、その場に倒れた。
「だいじょうぶですか?」
息苦しそうにして、顔が青ざめている。
「立てません。ベッドまでつれていってください」
俺は彼女をお姫様抱っこして、自分のベットにおろした。水かなにか持ってこようと、その場を離れようとしたとき、彼女は俺の腕を掴んだ。
「行かないで」
「水かなにか持ってくるよ」
掴んだ腕を引っ張る。俺は、バランスを崩して彼女に覆い被さる。
「このままでいてください」
うるうる瞳を潤して、懇願する。彼女の手が、俺の背に回る。
「「ちょっと待ったー!」」
サキュバスとバンパイアが割って入る。
「あなたたち、誰ですか?」
「私は彼の彼氏」
「あたしは彼の妻」
「妻!? なに言ってんの」
「事実ですから」
「喜留太郎さん。そうなんですか?」
「いや、全然そんなことない」
「だそうです」
「あんなに熱い夜を過ごしたのに、ひどい…」
「今からでも血を吸って良いんですよ?」
「血を吸われるとどうなるんだ? 吸血鬼にでもなるのか?」
「私の虜になります」
「みなさん、自分ばかりの欲望優先で、喜留太郎さんの気持を考えていませんね」
「そういうあなたは、考えているの?」
「考えていますよ。例えば、彼の、魔力を解放してあげる、とか」
「それ、言っている意味わかるよね?」
「もちろん」
「彼が真の力を得たら、私たちなんて秒殺されるんだよ」
「師匠が弟子の卒業試練で敗れるのは、通らなければならない試練なのです」
「で、あなたはどのような試練を彼にするの?」
「試練はもう、始まっています」
サキュバスも、バンパイアも、その時初めて気がついた。部屋の気温が、息が白くなるくらい寒くなっているのだ。
「あなた、雪女ね」
「みなさんには、氷漬けになってもらいます」