満員電車で女の子に密着されて…
会社帰りの満員電車で、俺の背中にぴったりとくっつく女の子がいた。
電車は、ギュウギュウ詰めというほど混んではいない。体勢を変えれば、接触は回避できる。当ててんのよ。に、してはあまりにも露骨すぎる。痴女か? まさか。あれは漫画やアニメに存在するフィクションだ。本物だとしたら、痴漢にあったと装って示談金を要求してくる。そんな感じだろう。触らぬ神に祟りなし。なるべく触らないようにしよう。身体をよじると、今度は腕を絡めてきた。ヤバい人じゃ、ないよな。
降りる駅に着いて、彼女を振りほどいて降りようとすると、彼女は腕を組んだまま、一緒に駅へ降りた。
「ハアハア」
その時、初めて、彼女の顔色が悪いことに気がついた。まるで光に照らされた雪。その影にできる青の様だ。
「大丈夫ですか?」
「すいません、ちょっと人混みが苦手で」
「ベンチで休みますか? それとも救急車を呼びますか?」
「人の少ないところまで連れて行ってくれたら、嬉しいです」
「わかりました」
彼女に腕を組まれたまま、柔らかい二の腕と、体重を感じながら、駅から近くの公園に着いて、ベンチに座った。
「気分はどうですか?」
「だいぶ良くなりました」
「それは良かった」
「どうもありがとうございます」
「水でも買ってきましょう」
喜留太郎が立とうとすると、彼女は腕を引いた。
「それよりも、二人でゆっくりできるところへ行きませんか?」
ゆっくり?
ふと、目の前に、ラブホテルが目に入った。はは、まさか。ラノベじゃあるまいし、こんなラッキースケベあってたまるか。
「私は帰ります。具合が悪いようでしたら、救急車を呼びましょう」
喜留太郎はスマホを手にした。その手に手を絡めて、手を止める。
うわめづかいに見上げて言う。。
「あなたの部屋に行きたいです」