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赤星のカイル  作者: 三山とんぼ
第一部 地図の要らない世界
28/32

27. 泥街小戦争④

「はあぁぁぁ」


大きく息を吐いたカイルの前には、気を失ったレーンが倒れていた。


「あー、そのさ、アタシはまだ状況がよくわからないんだけどよ、とにかく協力してくれてありがとう。助かったぜ」


そう言って黒猫の獣人のサラが、人懐こい笑顔でカイルに話しかける。

まだ息の整わないカイルは、ただ首を横に振るくらいしかできない。

カイルとしては協力してくれたのはそっちのほうだと言いたかったのだが、さすがに首を振るだけでは伝わらなかった。サラはキョトンとした顔で首を傾げる。

さっきまでとは違い、愛嬌のある表情をしている。多分、こっちのほうが素なのだろう。

どうやら少年ではなく少女だったようだが、こうして近くでも見ても外見からはどちらとも言えない感じだ。


ようやく少し体力が回復すると、カイルは倒れたレーンに近寄る。

これからしなければならないことを考えると、さすがに手が震えそうになるが、それでも必要なことだとカイルは小剣を握り締める。

仰向けに倒れてピクリとも動かないレーンの頭部に、カイルは狙いを定めた。

冒険者として魔物を何体も斬り殺したことはあるが、カイルも人間を殺したことはない。だが、カイルにとってこれはどうしても必要なことだった。

カイルは悩むのは後回しにして、今は手早く済ませようと剣を振りかぶる。迷えば剣を振り降ろすことはできなくなるとわかっていたからだ。


(できれば一発で済ませたい……)


一撃で殺しそこなって、あまり苦しめるのはカイルも本意ではないし、嫌なことは早く終わらせてしまいたい。


「カイル、なにを!?」


小剣ショートソードを振り上げるカイルに、エリスが悲鳴をあげる。


だが、それを無視してカイルは全力で小剣を振り下ろす!


小剣は、レーンの頭部からズレて、地面を叩いた。

サラが、横からカイルの小剣を蹴って剣先を逸らしたのだ。

邪魔がなければ確実にレーンの頭を砕いていたはずだった。

カイルは横やりを入れたサラを睨みつけた。


「邪魔をするなっ」

「するに決まってるだろ! いきなりなにしやがるっ」


怒鳴るカイルに、同じくらいの剣幕けんまくでサラが怒鳴り返す。


「お前、コイツを殺す気だったろ!?」

「当たり前だ!」

「あ、当たり前だと!?」


サラが驚愕で色の違う両目を大きく見開く。


「こいつはな、さっき僕を本気で殺そうとしたんだ。他人を殺そうとしたんだ。殺されても文句は言えないはずだ!」

「……だ、だとしても、もう勝負はついたんだ。気を失ってなにもできないやつを殺す必要はないだろうが!」


コイツはなにを言ってるんだ?


カイルはサラの言い分が理解できない。

勝負がついたから? 気を失ったから? そんなものがなんの理由になるのだろう?

それが自分を殺そうとした相手を見逃す理由になるなんて、この獣人は本気で思っているのだろうか?


「いや、別にどうでもいいか……」


カイルは一つかぶりを振って、思い直す。

別に目の前の獣人と理解し合う必要なんかないのだ。


「いいからどけ」


サラの身体を押し退けて、もう一度レーンに剣を振り下ろそうとする。

だが、


「どけじゃねぇ! 止めろって言ってるんだ」


またサラがカイルに体当たりして振り下ろすのを阻止する。

二人はもつれ合うようにして倒れ込む。


「こ、このっ、いい加減に……!」


倒れ込んだままもみ合いになる。

下になったカイルが暴れるが、上からサラが押さえつける。


なんとか跳ねのけようとするが、力はサラのほうが上だし、体格では互角だ。

獣人の腕力で抑え込まれて、カイルは身動きができなくなる。


「本当のところ、アタシはまだ全部の事情を知ってるわけじゃないんだ。迷宮から戻ったらいきなりこんな状況だったからな。取りあえず仲間を守るためにレーンのバカとケンカしただけだ。事情がわからないうちにレーンを殺させるわけにはいかねぇ!」


だから今は待てと、サラはそう言うが、カイルにしてみれば、「寝ぼけたことを言うな」だった。


「もうそんな元々の事情なんかどうでもいいんだよ。そんなことより、こいつが僕を殺そうとしたことが問題なんだ。わかるか? 僕を殺そうとしたやつは殺す。それだけだ。簡単だろ? わかったらどけよっ」


カイルにしてみれば、誘拐の件や孤児の派閥間の確執といった事情なんか、既に関係なかった。どんな事情があろうと、自分を殺そうとした人間をそのまま許すことなどできない。

なにかやむにやまれぬ事情でもあれば、殺されたとしても「仕方ないね、そんな事情があるなら」と諦めて、恨みもしないとでもいうのだろうか? そんなわけはない。

殺された人間にしてみれば、どんな事情があろうと関係ない。死ねばそれまでだ。

カイルには死ねないわけがある。どんな理由だろうと、カイルを殺そうとする人間を許せるはずがなかった。


()()()()()()()()()()

カイルがレーンを殺す理由にそれ以上のものなど必要ない。それで十分だった。むしろ十分過ぎた。

しかも――


「それにあいつは、笑っていた! 笑いながら人を殺そうとするやつを、僕は絶対に許さない!」


カイルはなおもサラを退けようと暴れるが、そこにエリスも駆けつけてきて、サラと一緒になってカイルを上から押さえつけた。


「止めてよ、カイルッ。殺すことないじゃない!」


エリスがそう言うのはおかしいことではないが、それに首肯するわけにはいかなかった。


「エリス、お前はわかってないんだ。ああいうやつは、――簡単に人を殺そうとするやつは、同じことを何度でもするさ。今ここで見逃せば、またいつか、僕やエリスを殺そうとするかもしれない。いや、僕たちじゃなくても、きっと誰かを殺すんだ。今見逃すってことはそういうことだぞ。見逃したことで誰かが死ぬんだ。エリスはその覚悟があるのかよ」

「そ、そんなこと言われても。覚悟なんてないし、確かに『悪人への慈悲は善人への攻撃』ともいうけど、でも……!」


カイルの主張に反論することができなくても、エリスはそれでもやはり意見を変える気はないようだった。

そして、冒険者でもない、真っ当な良識のある少女ならそれが当たり前なのだ。

簡単に、人を殺して後顧の憂いをなくそうなんて意見に頷くほうがよっぽどおかしい。


カイルも別にエリスに納得して欲しいなんて思ってはいない。ただ、今だけは邪魔されたくなかった。


「とにかく僕は、僕を殺そうとした者を絶対に許さない。だから、どけっ!」

「お前の気持ちもわかるけど、あいつは一応アタシの仲間なんだ。殺させるわけにはいかねー!」

「カイルッ、あなたの言ってること、さっきのレーンの言い分とそっくりよ! 自分でわかってる!?」


エリスの言葉が指すのは、レーンの「俺たちに死ねと言ってくるようなバカ、どうしようとこっちの自由だろう?」という台詞のことだ。

確かにレーンの主張は一見、カイルの言い分とよく似ている。

だがそのふたつは、カイルからみれば明確に違うのだ。例え他人には理解されなくとも。一緒にされるのは心外だった。


「全然違う! あんなやつと一緒にするなっ!」


二人に上から押さえつけられながらも、カイルは諦めずに抵抗を続ける。


「どけっ、どけよっ! 殺すんだ、絶対に!」

「ダメだ!!」


地面に転がったままもみ合う三人に、リサが近づいて言う。


「わたしはサラとは違って、こんなやつ仲間だなんて思ってないけど」


眉をひそめてレーンを睨む。


「……でも、やっぱり殺すのは反対よ。こいつ、半分くらい【盗賊ギルド】のメンバーみたいなものだって言ったじゃない。もし殺したら、きっと報復があるわよ。そうなればあなただけの問題じゃなくなる。自分の周りの人間に迷惑をかけたくはないでしょう?」


チラリと意味ありげにエリスに視線を向けて言う。

つまり、エリスに【盗賊ギルド】の報復が向かえばどうするのかと、言いたいらしい。

言いたいことがわかるだけに、カイルは盛大に舌打ちしたい気分になる。


「…………こんなやつのために、【盗賊ギルド】が報復に出るって言うのか」

「どんなやつかは関係ないでしょ。メンツの問題だわ」

「……」


サラの下でもがいていたカイルの身体から力が抜ける。

体中が、汗と傷、それに泥にまみれてグチャグチャだった。

整理しきれない心の中のもやもやしたものを吐き出すように、カイルは深く息を吐きだした。


「……もういいだろ。いつまで僕の上に乗ってるんだ。いい加減に降りろ」

「もうレーンを殺そうとはしないな?」

「殺そうとしないわね?」


サラとエリスの二人から異口同音に念を押されて、カイルは面倒くさげに頷いた。


「わかったよ。少なくとも、今ここではもう殺そうとはしない」


カイルが嫌々ながら、そうギブアップ宣言をすると、それで一応納得したのか、サラがカイルの上から退く。

そのときに、サラの右手の人差し指の、先の一部分が銀色に光っているのが目についた。

一瞬義指かとも思ったが、どうもそうでもない。なにか薄い金属の膜のようなものを指に被せているようだ。

特に理由もなく、さっきレーンの顔面を切り裂いたのはこの金属膜によるものだと、カイルは直感した。


サラが身を引くと、エリスもそれに合わせてカイルから離れる。

しかしなぜ、二人が妙に意気投合しているのだろう。誘拐犯(の仲間)と被害者のはずじゃなかったか。

なんとなく理不尽な気がして、カイルは口を尖らせる。


「……絶対見逃すのは間違いなんだ。今は仕方がないとしても、僕はこいつを許す気はないからな」

「わたしだって別に許したわけじゃないけど」


エリスはずっと不安そうに俯いていたシアの傍に戻ると、安心させるようにその背中をなでた。

ようやくひと段落したと見て、リサが周囲の仲間たちに指示を出し始める。


「誰か縄を持ってきて。物置にあるから。そしてこいつらを縛るの。【盗賊ギルド】の使いが来るまで、これ以上騒ぎを起こせないようにね。ああ、特にレーンのやつは厳重にお願い。星持ちの冒険者だからね、下手をしたら縄を千切られるかも……」


立ち上がったカイルは、服にこびりついた泥や埃を払い落す。

さっきまで自分を押さえつけていた、獣人の姿を胡乱な目で眺めた。


背はそれほど高くない。カイルと同じくらいだろう。猫のような三角の耳が頭の上にピンと立っている。

そして特徴的な色の違う瞳。服装は随分軽装だ。さっきまで迷宮にいたという話だが、本当にこの姿で迷宮に入っていたのだろうか?


ピッタリとした袖のない上着に、短いズボン。それにサンダル。武器も防具も持っていない。

いくら【穴掘り冒険者】だとしても、ここまで軽装な冒険者は普通いない。今ここにいる孤児たちだって、ナイフくらいは持っているのだ。

そしてやはり、中性的で見ただけでは男か女か判別できない。声の質や「アタシ」という一人称の呼び方からして恐らく少女だろうと思うのだが、確信は持てない。


「なんだよ、ジロジロ見やがって」


どうやら、さっきの件でカイルは敵視されてしまったらしい。


「……ふん」


もちろん、カイル自身も正直この獣人が気に入らない。自分を殺そうとしたレーンのことを、仲間だと言ってかばったのだから当然だ。

レーンと違って、殺してやろうとまでは思わないが、機会があれば何か仕返しをしてやりたいと、カイルは思う。


縛られて転がるレーンたち十数人の孤児たちを見ながら、カイルは考える。

こうなってしまったのなら、ここでフォルドが駆けつけて来るのを待ったほうがいいだろうか?

そうすればこの場で全て決着がつけられる。全部片づけてしまったほうが、後腐れがない気がした。


だが、エリスやシアはさっさと家に帰りたいだろう。

エリスはまだ身の回りに冒険者が多いから、荒事にも少しは耐性があるだろうが、シアは本来、こんなことに巻き込まれるような娘ではない。

拐われて泥街に連れ込まれ、子供のケンカのようなものだとはいっても、武器を持った者同士が争うシーンを見せられたのだ。もうとっくに精神こころの許容量を超えているだろう。


今も、俯いてエリスに背をなでてもらいながら、ずっとしゃくりあげている。


その様子を見れば、カイルもできれば今すぐ、家まで送ってやりたいと思う。

それに、もう少しすれば【赤の刻】になる。のんびりしていればすぐに都市に黒いとばりが降りてくる。

何をするにしても、明かりがなければどうにもならない。

解決を後日に回すのは気が進まないが、仕方ないだろうか。


カイルが今日はひとまず泥街を出て、二人を家に帰そうと決めて口を開きかけたとき、まるで見計みはからったようなタイミングで男が『教会』の敷地に入ってきた。

別に急いだ様子もなく、ゆっくりとした足取りで近づいてくる。


カイルにとっては知らない顔だったが、明らかにリサたちにとっては旧知の人物だったらしい。


「ウェッジさん……」


リサが小さく呟いた。

カイルはあまりにタイミングが良すぎる登場に、胡散臭いものを感じた。


「……あれって、誰なんだ?」

「【盗賊ギルド】の人間よ。今回の件の後始末をして貰うために、わたしが呼んだの」


カイルの問いに、リサが答える。


男はどうやら、【盗賊ギルド】に所属する冒険者らしい。しかもカイルのように、まだ一度もランクアップしていないような新米ではない。

恐らく、冒険者の中でも中堅くらいの実力はありそうだ。レイク達【緑水の渦】の三人と同格くらいだろうか。

カイルはなんとなくそう当たりをつけた。物腰や雰囲気から判断した、半分勘みたいなものなので当てにはできないが、今回はそう外れてはいない気がする。


つまりカイルが、逆立ちしようと勝てない相手だ。


ウェッジという名のその男を迎えようとリサが前に出るが、男はそのリサのことなど一顧だにしない。

男はリサからの依頼で、今回の件を収めに来たはずなのだが。

戸惑ったように、リサが足を止めた。


その場にいた数十人もの孤児たちが、全員ウェッジに注目していた。

固唾かたずを飲んで、様子を窺っている。

地面に座り込んだまま、泣きそうな表情を浮かべている者もいる。

これは主に、手を縛られた状態のレーンの仲間たちだ。

これからの自分たちの運命を悲観しているような顔だ。そして、それは正しかった。


ウェッジが、指を口で咥えて、「ヒュッ」と短く指笛を吹く。

すると、どこに待機していたのか、真っ黒に塗られた馬車が音もなく滑り込んできた。黒一色の馬車だ。馬車を引く馬も含めて全てが黒い。


「く、黒馬車!」


馬車を見た孤児の誰かが、悲鳴のような声をあげた。

孤児たちの間に息を飲む空気が広がる。


「い、いやっ」


一人の少女が小さく悲鳴をあげた。

数人の孤児たちが手を縛られたまま立ち上がる。

震える脚で逃げ出そうとするが、馬車の中から現れた男女が手際よく『かっぱらい派』の孤児たちを捕らえて馬車に放り込んでいく。

全身を黒い衣服で覆った者たちだ。ご丁寧に、顔まで下半分は黒いマスクで隠している。恐らくは彼らも、ウェッジ同様【盗賊ギルド】の一員なのだろう。


「そ、そんなっ!」

「いくらなんでも、黒馬車送りなんて……!」

「く、来るなぁ!」


どうやら孤児たちも、自分の運命に気づいたようだ。

今さらになって暴れだす。


孤児たちが、この世の終わりとばかりに逃げまどう。

だが既にリサたちの手によって、『かっぱらい派』の孤児たちは手を縛られてしまっている。逃げることも抵抗することもままならない。

『黒馬車』というものが、彼らにとってどういう意味を持つのか、カイルはなにも知らないが、どうもこの孤児たちの様子からして碌なものではなさそうだ。

彼らの縄張りの中で誘拐という余計なことをしでかした孤児たちに、【盗賊ギルド】の無慈悲な制裁が下る。……そいうことなのだろう。


「そ、そんな、いやだあ!」

「助けてっ!」


抵抗する孤児たちを、一言も口を利くことなく荷物のように積み込む様は、非人間的でまるで機械のようだ。

そんな阿鼻叫喚の地獄のような光景を、青い顔でリサやサラ、それにエリスが見つめている。


「カ、カイル……」


エリスがカイルの服を掴んで、縋りつくような目で見上げる。

だが、カイルも呆然とその光景を見ていることしかできない。

少年も、少女も、カイルよりも年長の者も、ずっと年少の者まで、みんな馬車の中に詰め込まれていく。

それを実行している【盗賊ギルド】の者たちは、無言のまま作業を進める。


やがてレーンたち『かっぱらい派』の孤児たちを全員馬車に積み込むと、すぐに戸を閉めて、馬車はこの場を去って行く。

ここまでは、【盗賊ギルド】を利用してレーンたち『かっぱらい派』を排除しようとしたリサの計算通りの展開だった。……だが、これで終わりではなかった。


一台の黒馬車が去った後、すぐに二台目が現れたのだ。

既に『かっぱらい派』の孤児たちは、この場にはいないのにも関わらず。

リサが硬い表情を浮かべて、他の『おねだり派』の仲間たちを庇うようにして前に出た。


「……どういうつもりですか? わたしたちは今回の件に関わっていません。むしろ、レーンたちを止めて、拐われた二人を助けようとしました……そうよね?」


最後の一言は、カイルとエリスに向かって言った台詞だ。

エリスは戸惑いながらも、「そ、そうよ! サラやリサたちはわたしたちを助けてくれたわ!」と懸命に叫んだ。


だが、【盗賊ギルド】の者たちはそんなエリスの言葉には頓着しなかった。

さっきとまったく同じ光景が、再び目の前に繰り返される。


黒づくめの男たちは、今度はリサたち『おねだり派』の孤児たちに襲い掛かった。

必死に止めようとしたサラだったが、簡単に抵抗は排除される。

サラが強いとはいえ、所詮は【星無し】だ。まったく相手にはならなかった。

次々と孤児たちは捕獲され、黒い馬車の中に詰め込まれていく。

リサも、サラも、サンディも、全員が容易く捕まってしまう。


躊躇いながらも前に出ようとしたエリスの腕を、カイルが掴んで止めた。


「なんで? リサたちが【盗賊ギルド】に連れて行かれちゃうわ!」

「ダメだ。僕たちじゃどうしようもない」


カイルは厳しい表情でエリスを制止した。

やがて孤児たちが全員馬車の中に詰め込まれ、残っているのはエリスとカイル、それにシアの三人だけになる。


さっさとどこかに行ってくれと心の中に念じていたカイルだったが、その願いは通じなかった。

黒ずくめの男たちは最後に、カイルたち三人の元に近づいて来たのだ。無言のまま。


ウェッジという名前のその【盗賊ギルド】の男が、エリスに向かって手を伸ばす。

カイルは「なにをする気だ!? この子たちは誘拐の被害者だぞ!」とエリスを庇って男の腕を払いのけようとする。

だが次の瞬間、意識を一瞬で刈り取られて、カイルはその場に倒れ伏した。

なにが起きたかもわからなかった。最後に、エリスのカイルの名を呼ぶ声が、聞こえたような気がした。



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