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赤星のカイル  作者: 三山とんぼ
第一部 地図の要らない世界
18/32

17. 拐われたエリス②

少し気になる話も聞いたが、取りあえずは奴隷を仲間にする案を諦めて、カイルは次に冒険者ギルドに向かった。

冒険者ギルドは奴隷商館から少し北に向かって歩いた、南大通とエスティア街道が交わる交差点の一角にある。


その交差点は中心が円形の小さな丘になっていて、道路はその丘の円周をぐるりと囲んでいる。

丘の上には二体の石像が設置されている。

弓を構えた男と、その足元に片膝をついた姿勢で佇む少女の像だ。


どちらも冒険者なのはわかるが、カイルにその由来についての知識はない。

多分昔に活躍した冒険者なのだろう。と、なんとなく思っているだけだ。


石像のかたわらを通り過ぎ、ギルドの建物に向かう。

ギルドの建物自体は、周囲のそれと比べて特別なところのない平凡なものだが、強いて特徴を挙げるなら入り口が大きい。

槍や弓など、大きな装備品を持った冒険者もいるので、それに合わせているのだろう。


ひっきりなしに人の出入りがあるためか、入り口の扉はいつも解放されている。

中に入れば、すぐ右側に様々な情報が書かれた紙が貼られた掲示板のスペースがある。

情報のほとんどは迷宮についてのものだ。


――特殊個体が発見された階層についての情報がある。

――賞金が懸けられた魔物についての情報がある。

――迷宮内で冒険者から装備品を盗むコソ泥の情報がある。

――未探索地点の地図作成依頼の情報なども。


数は少ないが、迷宮とはまったく関わりのない依頼もある。

例えば、盗まれた品の捜索であったり、不審人物の調査依頼であったり。

ギルドの近くで目撃されたという吸血鬼の調査・捕獲依頼や、家の壁の落書きを消して欲しいなどという、これが冒険者に対する依頼か、と思わせるようなものすらある。


カイルはその中で、賞金の懸けられた魔物の情報を見ていく。

目立つのは【指揮個体】と呼ばれる特殊な魔物群の討伐依頼だ。

この【指揮個体】は名称の通り、複数の魔物を率いて冒険者に対抗する、特異な習性を持つ魔物である。

しかも、出現する場所が決まっていない。深層だろうが表層だろうがお構いなしだ。それぞれの個体ごとに一応の縄張りらしきものはあるようだが、それも絶対ではない。神出鬼没の厄介な魔物だ。

つまり、運が悪ければどこでだって遭遇する危険はあるのだ。カイルのような駆け出しが万が一遭遇したときには、討伐しようなどと余計なことは考えずに逃走を選べと、ギルドも指導している。


他にも完全変異体の魔物や、異界流れとしか思えない異様な魔物の情報もある。


「あった……」


目的の物はすぐにみつかった。


【笑う魔物】の討伐令は、――フォルドが言っていた通り――第六王女の名において発布されていた。



≪昨年の魔物の氾濫(スタンピード)において、多くの被害を出した通称【笑う魔物】の討伐令≫


報酬:

・騎士の爵位

・爵位相当の領地、あるいは白貨二〇枚の報奨金


特徴:

・人型である

・石化の能力を持つ

・まるで笑っているように見えるという目撃証言がある


討伐難易度:

・推定、【八星クレッセ】相当


出現場所:

・四三〇M付近、【氷柱回廊】にて目撃情報有り



これらが第六王女の署名と共に記されている。

討伐したことは、魔石を持ち帰ることで証明され、報酬が支払われるようだ。


この報酬は他の討伐令と比べても高いほうだ。

特に騎士の爵位が保証されているのが大きい。

大抵の場合、報酬は金銭のみなのだ。

だが、それでも【八星】相当と見積もられた討伐難易度に見合っているかは、なんともいえないところだ。


全ての報酬を一人で独占できるならともかく、仲間と共に討伐すれば、報酬も分割になるからだ。

もっとも活躍した者が爵位を得て、残りの者で報奨金を分け合うことになるのだろうが、それでは割に合わないと思われるかもしれない。

まして爵位や領地に興味のない者ならば、明らかにこの条件では物足りないだろう。

カイルの場合は元々報酬目当てではないから関係はないのだが。


カイルとしては実力のある冒険者が討伐に乗り出してくれるように、もっと報酬を大盤振る舞いして欲しいところだ。金を出すのはカイルではないのだからどうしようもないことではあるが。


知りたかった情報を手に入れて、掲示板のスペースを離れようとしたカイルだったが、ある張り紙が目に入って立ち止まる。


「なんだ? 暗殺、……女蛮族アマゾネス?」


不穏な単語が気にかかる。

その張り紙をよく見ると、冒険者に向けた警告だった。

なんでも最近、この迷宮都市では女蛮族を狙った暗殺事件が頻発していて、既に三人が殺されているらしい。

そしてその内二人は冒険者だった。

死体を調べると、殺された女蛮族の冒険者にはどれも、けものあとのような傷があったらしい。

傷は他にも刃物でつけられたものなどもあって、はっきりした犯人像はまだ浮かんでいないとのこと。

そこでこの冒険者ギルドでも警戒を促すことにしたようだ。


冒険者、特に女蛮族の冒険者は注意して行動せよ、と。


「女蛮族を狙った暗殺、か。一応、ヨナには教えておいたほうがいいな」


正直、ヨナが暗殺者なんかにやられるとは想像しにくいが、それでも用心するに越したことはないだろうから。

一旦はそう思ったカイルだったが。


「……いや、逆効果ってこともあるかな?」


すぐにカイルは思い直す。

ヨナならこんな話を聞けば喜んで、暗殺者を返り討ちにしようとするかもしれない。

用心するどころかむしろ自分を囮にして暗殺者を誘き出そうとする姿がありありと思い浮かんで、カイルは頭痛を覚える。


「……うん。やっぱり、ヨナには黙っておこう」


今度こそ掲示板のスペースを離れて、カイルは周囲を見回す。

目立つのは、奥にある吹き抜けの空間。その中央に設置されているナルム迷宮の模型だ。

これは巨大で、吹き抜けの中を見上げるほどの高さまでそびえ立っている。


黒い円筒状の物体の周囲を、螺旋状に複雑に入り組んだ細長い構造物が取り囲んでいる。

もちろん、中央の円筒が迷宮の大穴アビスを表し、その周囲の螺旋状の構造物が、――主に冒険者が活動の場とする――魔物の巣だ。


迷宮は立体的なものであるから、平面上の地図では上手く表現できない。

それでこのような立体地図ともいうべき構造物をギルドでは作っているのである。

これを作るには、今まで多くの冒険者が命を懸けて調べた情報がもとになっている。まさに過去の冒険者たちの血によってできた地図なのだ。


だがその立体地図も、完全な物とは言い難い。

模型にはない通路や広間などいくらでもあるし、八〇〇Mを超える深層はほぼ未知の領域だ。

未だ迷宮には、誰の足跡も記されていない、未踏の場所が多いのだ。


この未踏部分の調査依頼は、常に冒険者ギルドから出されている。

新たな通路や広間などの情報を持ち帰れば、ギルドは報酬を出してくれる。

中にはそれを専門として行う冒険者もいるらしい。

ただ、普通は専門とするにはあまり割に合わないとも聞いている。

大抵の冒険者は調査のみを目的として迷宮に潜ることはない。なにか別の目的で迷宮に潜り、そのついでに未踏部分の情報を手に入れられれば、ギルドに報告し、報酬の足しにするのだ。


ではどうしてそんな割に合わない仕事を専門とする者がいるのか、というと。

そういう冒険者は特殊な技能、或いはスキルを持っているのだ。

調査に向いた能力があれば、普通なら割に合わない仕事も、十分儲かるものに変わるわけだ。


カイルはそんな立体迷宮をしばらく眺めてから、視線を他に移す。

ギルドの入り口側から見て、この迷宮地図の右側には窓口があり、左の奥には軽食が摂れるスペースがある。


周りを見れば、それなりに冒険者の姿はある。

窓口でギルドの職員と話している者もいるし、軽食スペースでテーブルを囲み、数人で顔を寄せ合っている者たちもいる。


(でも、あまり暇そうにしてる人ってのもいないよな。いきなり話しかけたって相手にしてくれないだろうし……)


どうしたものかと考えていると、そんなカイルの名前を呼ぶ声が聞こえてくる。


「カイル、ちょっとこっち来な!」


そちらに目を向けると、受付の奥から一人のギルド職員が、カウンターに小さな身体を乗り出すようにしてカイルを手招きしていた。


「なにか用、ポーラ?」


冒険者ギルドの職員であるポーラは、小人族フィックの女性だ。

フィックというのは背の低い人間種で、成人でも普通の人族ヒューディマの子供くらいの大きさにしかならない。

だが手先が器用なうえ、すばしっこい種族でもある。小柄だからと侮ると手痛いしっぺ返しを食らうだろう。


ポーラは明るい橙色の髪と、藍色の瞳を持っている。

三〇過ぎの既婚者で、二児の母だ。

気っ風の良い性格で、細かいことは気にしない。

カイルにとっては初めて冒険者になるときに色々教えてくれた相手であり、それ以後も一番関係の深いギルド職員でもある。


受付の仕事が暇なときは大抵、サイズの合わない椅子に座って、足を宙にブラブラと揺らしている。

そんな姿は、外見と相まってまるで子供のように見える。


口を開けばそんな印象は吹き飛んでしまうのだが……


「当たり前だろ。用があるから呼んだのさ。ったく、たまにはこっちにも顔を出しなよ。冒険者のくせに全然ギルドに近寄らないんだからね」

「いや、だってギルドには別に用はないしさ。迷宮のほうがギルドよりも近いしね。あ、でもこの前モグラ退治の依頼を受けたときにこっち来たんだけどな。あのときはポーラがいなかったんだっけ……」

「覚えがないってことはそうなんだろうね。でも、珍しいね。アンタがギルドで依頼を受けるなんてさ」

「まぁね。普段はフォルドのところの雑用で忙しいからね」

「ああ、あんたは例の美味おいしそうな名前のクランで見習いやってるんだっけ?」

「……うん、クランの名前については突っ込まないで欲しいけど」


ポーラはクックッ、と喉の奥を鳴らして、「まぁなんにしろ、クランに所属できて良かったよ。アンタは運が良かった」と続けた。


なかなか所属するクランがみつからない冒険者も多いし、そういう冒険者はクランに所属した者よりもかなり苦労するのだそうだ。

カイルのように冒険者になったのが人より遅くて、しかもまったく戦闘に関して経験がないのに、拾ってくれるクランがあったのは、相当に運が良いことなのだ。


「でも、クランには入れたけど、パーティは一人ソロなんだよね」


カイルは苦笑いする。

フォルドの作ったクラン【牛の赤ワイン煮】は、ふざけた名前に似合わず、少数精鋭の有力クランなのだ。

カイルとは実力が違いすぎて、クランの中ではパーティを組める相手がみつからないくらいに。


「仲間なんかすぐみつかるんじゃないのかい? カイルとパーティを組めば自動的にクランにも入れるわけだろ? それを餌にして探せば、ホイホイついて来そうなやつらがいっぱいいるけどね」


不思議そうにポーラは言うが、そんな簡単な話ではないのだ。


「それはさ、ホラ、僕の目的がアレだからさ」

「ん? ……あー、そうだったね。アンタは例の魔物を倒すために冒険者になったんだっけ。それじゃあ、他の新米たちとは少しノリが違うかね」


納得してポーラは頷く。


「だけどさ、それでもやっぱり仲間を探すべきかな、とも思うんだ」

「そりゃあまぁ、仲間はいるに越したことはないよ。……ほら、ちょっと手を貸しな」

「うん? なんで手を?」


訊きながら、カイルは言われるがままに手を差し出した。


「仲間ねぇ。例えば、なにか依頼でも受けてみるのはどうだい?」

「依頼?」

「そうさ。依頼によっては、何人かの冒険者が共同で受けるものもあるからね。自然と知り合いが増えるってもんだ。その中で気の合うやつがみつかるかもしれない」

「なるほどね。……って、いてぇ!」


突然、カイルの中指に針が突き立てられた。


「な、なにすんだよいきなり!」

「うるさいね。このくらいでガタガタ言いなさんな」


怒るカイルに頓着とんちゃくせずに、ポーラはプクリと浮き上がった血液を採取する。


「なんだよ。なんで血を採るんだ?」


カイルが尋ねると、王女殿下の命令なのだとポーラは答える。


「なんでもさ、王家が所蔵している魔剣の中で、使い手を選ぶ物があるんだとさ。前の使い手が亡くなって、新しい使い手を探したんだけど、貴族の中にはみつからなかったらしい。ただ置いておくだけだともったいないから、冒険者の中まで広げて使い手を探してるんだと」

「で、それを調べるのに血が必要だってこと?」

「そういうことさね。使い手の好みがうるさい魔剣らしいから、まず選ばれることはないだろうけど。それでも、まぐれで当たりゃめっけものだろ?」

「……別にいいけどね」


とても期待できそうもないが、特に困ることもないなら気にする必要もない。

それよりも、だ。


「さっきの話だけどさ、他の冒険者と知り合う機会の多い依頼ってどんなの?」

「色々あるけどね。例えば、隊商の護衛なんかだね。隊商の大きさにもよるけど、数人から十数人の冒険者が雇われるんだ。何日か寝食を共にすることになるから、お互いに相手を知る機会もあるだろうさ」

「護衛、ね」


ポーラの言う通り、他の冒険者と知り合うという意味では良さそうだ。

だが、カイルとしてはあまり気が進まない。

他の街まで行って戻るとなると、かなり拘束期間が長くなる。それで本当に仲間がみつかればいいが、そうでなければ無駄にする時間が長すぎる気がするのだ。

その間は訓練ができるわけでもないだろうし、【混沌の雫】も溜まらない。完全に仲間を探すことだけが目的になってしまう。

ただでさえ仲間がみつかる可能性は高くないのだから、それがダメだったときにも完全には時間を無駄にせずに済むような依頼を選びたい。


護衛依頼も、盗賊でも出て来てくれれば多少の戦闘経験にはなるかもしれないし、金は稼げるのだからまったくの無駄とも言えないが。

それでもやはり、旨味が少ないように思えてしまう。


「……他にはないの? 護衛以外。できれば、迷宮内でやれる依頼とかが良いんだけど」

「となると、討伐依頼とか魔物素材の採取依頼かい? もちろんあるけど、カイルじゃ無理だよ。お前さん、まだ【星無し(ノウン)】なんだろ?」

「そうだけど……」

「さすがに魔物の討伐に【星無し】を連れて行こうって冒険者はいないよ。足手まといを連れて行って分け前を減らすなんてバカのすることさ」

「は、はっきり言うね」


言葉はキツいが、言ってることはもっともだ。

確かにカイルを討伐依頼のメンバーに入れてくれる冒険者はいないだろう。


ポーラはカイルの嘆きを「ふんっ」と鼻息で吹き飛ばしから、続ける。


「他にカイルがやれそうな依頼というと、そうさね、モグラ退治か、落書き消しのどっちかだね」

「モグラ退治に、落書き消し。……だけかぁ」


カイルは肩を落とす。がっかりだ。

どちらもまったくやる気が出ない。モグラ退治は一度やってはみたが、まったく冒険者としての経験にならなかったし、落書き消しは言わずもがなだ。


大体、落書き消しの仕事で知り合った冒険者と組むことになにか意味があるだろうか?

そもそも、戦闘に自信があればそんな仕事を受けたりはしないだろう。

そして戦闘に自信のない冒険者が、カイルの目的を聞いてなおパーティを組んでくれる可能性はゼロだ。


「どうする? 落書き消しでもやってみるかい?」

「……いや、止めとく。やっぱ【星無し】じゃ、ダメだってわかった。仲間なんかみつかるわけないな」

「うーん、それはお前さんが高望みしてるんじゃないか?」

「そんなことはないと思うけど……」

「じゃあ聞くが、お前さんが仲間にしたい冒険者ってのはどんなやつだい?」

「そりゃあ……」


訊かれて、カイルは考えてみる。

まず大事なのは、カイルと釣り合いがとれる相手だってことだ。あとは金だけ稼げればいいってわけじゃなく、迷宮の奥まで潜る意志のある冒険者でなければならない。


「えっと、星はまだ持っていないか、あってもひとつでいいんだ。それで、僕が例の【笑う魔物】を倒したいと言っても、バカにしたりせずに協力してくれるやつだね」


カイルとしては特に高望みしてるわけではないと思う。最低限の条件のつもりだ。


「ふむ。確かにそれは、高望みとは少し違いそうだね」


ポーラも納得したように頷く。


「でも、やっぱり難しいだろうね」

「どうしてさ?」

「一つ目の条件は問題ない。二つ目もまぁいないことはないだろうよ」

「でしょ?」

「だが、その両方はいないよ。【星無し】や【一星】の内からそんな高難易度の魔物を倒そうと真剣に考えているやつはまずいないね。五年くらい後にならって話ならまだわかるけど、お前さんはそれじゃダメなんだろ?」

「うん。今すぐ、本気でやる気になってくれなきゃダメだ」

「……あのさ、それは自殺しに行くようなもんだってわかってるのかい?」

「……そう思われるだろうってことはわかってるよ」

「……」


ついにポーラも黙ってしまった。

カイルも、自分が無茶を言ってるのは自覚しているのだ。それでもやはり、どうしても外せない条件なのだから仕方がない。


「変な相談して悪かった、ポーラ。無理だとは思ってたんだ。ランクアップできたらまた来るよ。そしたら少しは、みつかる可能性も出てくるだろ?」


そう言って席を立とうとするカイルを、ポーラが「待ちな」と引き留める。

まだ何か用があるのかとカイルが振り返ると、ポーラは、「あまりすすめられないけどね……」と言い難そうに口を開く。


「ひとつ可能性があるとしたら、孤児冒険者だろうね」

「え? 孤児冒険者?」


思わずカイルは聞き返す。なぜここで孤児冒険者が出てくるのだろう?


「孤児冒険者ってのはつまり、多少魔力は持っていても、金も装備も、訓練もなにもかもが足りないやつらだ」

「うん」


路地裏をねぐらとし、その日に食べるものさえ不自由する孤児たちのうち、たまたま多少の魔力を持っていた者。それが孤児冒険者だ。

彼らが迷宮に入るのは、魔物を倒すためではない。迷宮の壁などから小さな屑魔石くずませきを掘り出して小銭を稼ぐのが彼らの目的だ。

食べるものすら買えないのに、剣やら鎧やらを持っているわけもなく、酷い場合はそのへんに落ちている石を拾って壁を掘る道具に使う。


「そいつらの中で見込みがありそうなのを選んで武器を貸し与えれば、話に乗ってくるやつもいるかもしれない……」


ポーラが言うには、孤児冒険者は元々、毎日が生きるか死ぬかというような生活をしている。

上手くいけば一発逆転のチャンスだと思えば、分の悪い賭けにも乗って来る可能性はあるという。


「けど、相手は選ばないとダメだね。下手をすれば騙されてお前さんのほうがいいように使われることもあるからね。いや、そっちの可能性のほうが高いだろうよ」


孤児たちはしたたかだ。そうでなければ生きていけないのだから当然そうなる。

上手く利用するつもりが、逆に利用されているなんて、いかにもありそうな話だ。

金や装備だけ騙し取られたり、下手をすれば迷宮内で密かに殺されることだって十分あり得る。


ポーラもそう思ったから、あまり奨められないと言ったのだ。

だが、そう思いながらも口にしたのは、他には彼女にも望みがありそうな当てがなかったからだろう。


「……なるほど。うん、一応覚えておく。ありがとう、ポーラ」

「試すなら、本当に注意しなよ」

「わかってる」


カイルは手を振って、ギルドを後にした。

思った通り、そう簡単に仲間はみつかりそうにはなかったが、それでもまったく無駄足にはならなかった。

一応は可能性のありそうな相手がいたのだ。それだけでもまだ望みはあるというものだった。


(しかし、孤児冒険者か……)


一般に考えられている孤児冒険者のイメージといえば、『戦わずに、冒険者を名乗る』というものだ。

ろくな印象ものじゃない。


――よく知られた言葉に、こんなものがある。


『祈る者、働く者、戦う者』


社会の秩序を、共に構成する三つの職分という概念だ。


これらはそれぞれ、聖職者、農民、騎士のことを指している。

聖職者の役目は人々の霊的な安寧のために祈ること。

農民の役目は全ての人々に食糧を供給すること。

騎士の役目は他の二つの身分を防衛し、保護すること。そして全ての者を代表して迷宮を破壊するために戦うことだ。


それらは人が生活するために絶対的に必要な三つの職分である、そういう考え方だ。

そして冒険者も、騎士と共に三つ目の『戦う者』として認められている。

だからこそ、冒険者は尊敬されるのだ。


それなのに、冒険者という立場でありながら戦わない孤児冒険者は、――冒険者()()()と並んで――同じ冒険者からも唾棄だきされる対象だ。

彼らには彼らの、そうせざるを得ない理由はあるのだが。


そしてその最大の理由が、装備がないということだ。

日々を生き抜くだけで精一杯の孤児に、武器防具を買う金などあるわけがない。

短剣のひとつもなしに、魔物と戦えというのは無茶な話だ。

だから装備を渡すと言えば確かにカイルの仲間になって戦ってくれる者もいないとは限らない。

もちろん、いるとも限らないが……


問題は、その孤児冒険者たちと、どうやって接触するかだ。

孤児たちはいくらでも街で見かけるが、いきなり話しかけたところで、彼らの中にいる冒険者を紹介してくれるわけでもないだろう。


それに、接触できても、彼らを味方につけることができるかどうかは交渉次第だ。

ポーラも、まだ可能性があるのがそれだというだけで、あまり上手くいくとは思っていないようだった。

相手はよく選べと言われたが、その為には相手のことを知らなければならない。


そんなことを考えながら道を歩いていた、カイルの服の裾が引っ張られる。


「?」


なにかと思えば、小さな指が裾を摘まんでいるのだ。


「カイル、今日もご飯。ちょうだいな」


食いしん坊エルフの孤児、サンディだった。

あおの瞳をキラキラと輝かせて、カイルを見上げている。完全にロックオンされていた。


「……そういえば、一応僕にも孤児に伝手つてがあったな」


カイルはまじまじとサンディのことを見つめる。

小っちゃくて細くて、あまり頼りにならなそうではあるが、彼女も孤児に違いない。


「……よし、奢ってやろうじゃないか。ついて来い」


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