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■2024年9月1日
九月になった。長月、長い夜のこと。
暑さは残るが、台風は過ぎて今度こそ夏の過ぎた気配がある。
何より日の傾くのが、明らかに早くなった。青空がもう淡くなっている。夕風にも涼しいものが混じる。
これから冬至に向けて、夜の長くなる日々が続くのだ。
お題・長月
■2024年9月2日
「我が名は片翼の暗殺者」
「なんて強そうなんだ。憎い奴がいるんです。暗殺をお願いできますか」
「断る」
「どうして」
「これからは稲刈りの季節だからな。我は暗殺者と農家、二足の草鞋でやっているので、今は無理」
と暗殺者は帰ってしまった。
どうにも身勝手というか、片手落ちな話だなあ。
お題・片翼の暗殺者
■2024年9月2日
ある海域では、どこからともなく歌声が聞こえる。それはセイレーンの歌と呼ばれ、船乗りを誘惑すると伝えられていた。
ある歌手がその声を聞き、感動する。セイレーンを越えたい。そして歌手は世界一と称えられるようになった。
だが当人はまだあの歌に及ばないと、内なる怪物に悩まされ続けた。
お題・怪物の歌声
■2024年9月2日
私は可愛い。鏡に映る自分を見るたび、完璧なる可愛さに惚れ惚れする。先日も、いいね数が凄いことになってた。
なのに、なぜ彼は私を選ばなかったのだろう。彼が選んだのはアイツだった。あんなの、大して可愛くないのに。
浮かんだ涙で視界がぼやける。鏡に映った可愛い自分も、崩れて見えた。
お題・ぼやけた鏡像
■2024年9月2日
自画像しか発表しない画家がいた。その画家が、自宅を公開するという。
「入って下さい」
屋敷の中を見た人たちは驚く。壁や天井まで、びっしりと自画像が飾られているのだ。しかし画家本人がいない。行方不明になってしまった。ならば、あの声は誰なのか。
人々は画家が自ら絵と化したのだと噂した。
お題・絵になる男
■2024年9月3日
「漫画や小説って結局、作り話だろ。嘘ごとと言うか。だから読む意味が見いだせないんだよな」
「お前、実話主義者か」
「なんだそれ」
「一切のフィクションを認めず、社会から排斥するためフィクション作家を襲うという運動だよ」
「いやいや、そこまでは言ってない」
「まあ嘘なんだけど」
お題・実話主義
■2024年9月3日
妖精を捕まえたくて、どこにいるか博士に聞いてみた。すると、翌朝の木の葉に付いた夜露を飲むという。
それで朝早くに起きたが、妖精は出てこない。怒って博士に文句を言うと、こう笑われた。
「翌朝に現れると言ったろう。今日の朝じゃダメだよ」
結局、妖精は追っても追っても捕まらないらしい。
お題・翌朝妖精
■2024年9月3日
経験値とはギルドから与えられる評価点のことだ。今も駆け出しパーティーが分配で揉めている。
「平等はないだろ。敵を倒したのは俺だ」
「私が怪我を治さないと戦えなかったでしょ」
「けど敵を見つけたのは」
その様子を見てベテランはニヤついている。
「経験値を分配するにも経験が必要だからな」
お題・分配の配慮
■2024年9月3日
親と喧嘩したから、まっすぐ家に帰りたくない。
「じゃあ道草しようよ」
と僕は下校中、行ったことのない曲がり角へ行ってみる。
さらに曲がり角、曲がって、曲がって、あれ? 道草しようと誰に言われたんだっけ。
気付けば崖から落ちる直前だった。その後、僕は神隠しになってたと聞かされた。
お題・まっすぐ帰れ
■2024年9月3日
彼の浮気が判明した。前は家のお金を使い込んでいた。どうせ結局、私から許してあげることになるのだ。
「そういう包容力のあるところが好きだぜ」なんて彼は愛を囁く。
けど、そうか。彼が好きなのは包容力なのか。私ももう愛想が尽きたし。だったら許さないでいれば、私を嫌ってくれるかな?
お題・既に尽き果て




