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531~540

■2024年9月1日

九月になった。長月、長い夜のこと。


暑さは残るが、台風は過ぎて今度こそ夏の過ぎた気配がある。


何より日の傾くのが、明らかに早くなった。青空がもう淡くなっている。夕風にも涼しいものが混じる。


これから冬至に向けて、夜の長くなる日々が続くのだ。


お題・長月



■2024年9月2日

「我が名は片翼の暗殺者」

「なんて強そうなんだ。憎い奴がいるんです。暗殺をお願いできますか」

「断る」

「どうして」

「これからは稲刈りの季節だからな。我は暗殺者と農家、二足の草鞋でやっているので、今は無理」

と暗殺者は帰ってしまった。


どうにも身勝手というか、片手落ちな話だなあ。


お題・片翼の暗殺者



■2024年9月2日

ある海域では、どこからともなく歌声が聞こえる。それはセイレーンの歌と呼ばれ、船乗りを誘惑すると伝えられていた。


ある歌手がその声を聞き、感動する。セイレーンを越えたい。そして歌手は世界一と称えられるようになった。


だが当人はまだあの歌に及ばないと、内なる怪物に悩まされ続けた。


お題・怪物の歌声



■2024年9月2日

私は可愛い。鏡に映る自分を見るたび、完璧なる可愛さに惚れ惚れする。先日も、いいね数が凄いことになってた。


なのに、なぜ彼は私を選ばなかったのだろう。彼が選んだのはアイツだった。あんなの、大して可愛くないのに。


浮かんだ涙で視界がぼやける。鏡に映った可愛い自分も、崩れて見えた。


お題・ぼやけた鏡像



■2024年9月2日

自画像しか発表しない画家がいた。その画家が、自宅を公開するという。

「入って下さい」

屋敷の中を見た人たちは驚く。壁や天井まで、びっしりと自画像が飾られているのだ。しかし画家本人がいない。行方不明になってしまった。ならば、あの声は誰なのか。


人々は画家が自ら絵と化したのだと噂した。


お題・絵になる男



■2024年9月3日

「漫画や小説って結局、作り話だろ。嘘ごとと言うか。だから読む意味が見いだせないんだよな」

「お前、実話主義者か」

「なんだそれ」

「一切のフィクションを認めず、社会から排斥するためフィクション作家を襲うという運動だよ」

「いやいや、そこまでは言ってない」

「まあ嘘なんだけど」


お題・実話主義



■2024年9月3日

妖精を捕まえたくて、どこにいるか博士に聞いてみた。すると、翌朝の木の葉に付いた夜露を飲むという。


それで朝早くに起きたが、妖精は出てこない。怒って博士に文句を言うと、こう笑われた。

「翌朝に現れると言ったろう。今日の朝じゃダメだよ」


結局、妖精は追っても追っても捕まらないらしい。


お題・翌朝妖精



■2024年9月3日

経験値とはギルドから与えられる評価点のことだ。今も駆け出しパーティーが分配で揉めている。

「平等はないだろ。敵を倒したのは俺だ」

「私が怪我を治さないと戦えなかったでしょ」

「けど敵を見つけたのは」

その様子を見てベテランはニヤついている。

「経験値を分配するにも経験が必要だからな」


お題・分配の配慮



■2024年9月3日

親と喧嘩したから、まっすぐ家に帰りたくない。

「じゃあ道草しようよ」

と僕は下校中、行ったことのない曲がり角へ行ってみる。


さらに曲がり角、曲がって、曲がって、あれ? 道草しようと誰に言われたんだっけ。


気付けば崖から落ちる直前だった。その後、僕は神隠しになってたと聞かされた。


お題・まっすぐ帰れ



■2024年9月3日

彼の浮気が判明した。前は家のお金を使い込んでいた。どうせ結局、私から許してあげることになるのだ。


「そういう包容力のあるところが好きだぜ」なんて彼は愛を囁く。


けど、そうか。彼が好きなのは包容力なのか。私ももう愛想が尽きたし。だったら許さないでいれば、私を嫌ってくれるかな?


お題・既に尽き果て

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