41~50
■2024年5月6日
太陽を囲むように彩雲が出ずるのを、古来より天輪と言う。天輪は瑞兆とされ、出現すると王朝にて盛大な祝祭が行われた。
だがある時、天輪が幾度となく出る年があった。すると王朝では連日の祝祭どんちゃん騒ぎ。無駄な支出に民の生活は苦しくなり、「天のせいで税が重くなった」と噂されたのだった。
お題・天輪税
■2024年5月6日
ある仙人の書いた教えがある。だが、酒に詩にと「遊び方」に関するものだった。あまりの享楽的な内容に、幾度と権力者から焚書の憂き目に遭う。
その失われた第八巻、最終章が発見される。そこには、こう書かれていた。
「遊びなんだから、あんまり本気にするんじゃねえぞ」と。
お題・遊八経
■2024年5月7日
鍬を入れる前の畑に生えた雑草を、鎌の祭器を持った踊り子が刈る、冬明けの祭り。新しく舞子に選ばれた娘は喜んでいる。これで自分も立派な大人だ、稽古に励んだ甲斐があったと。
この舞が実は武術の型であり、この村が王直属の暗殺者養成所だと、まだ娘は知らない。
お題・舞明刈
■2024年5月7日
旅人は長い間、闇の中を歩いていた。目指すは遙か彼方の灯火。しかし、目的地に辿り着いて、旅人は困り果てた。
遠くからでは一つに見えた、火は三つ叉の燭台に灯されていたのだ。果たしてこれから、どの方向を目指すべきか。
悩んだ挙げ句、適当に一つの灯火を取ると、旅人は闇の中へ進んで行った。
お題・フォークの灯り
■2024年5月7日
初恋は年の離れた姉だった。けど恥ずかしくて、心の内を誰にも言えないまま。姉は高校生の頃に交通事故で亡くなってしまう。
今や僕は二十、姉の年齢を越してしまった。姉の面影が残る家の庭には、春の花が咲き誇るのを見て、思わず呟いた。
「綺麗になったね」
お題・綺麗になったね
■2024年5月7日
砂浜で瓶を拾った。中には英語の手紙。私はアメリカ人の美人女社長です。いま無人島にいます。助けて欲しい。
これは大変だと警察へ行こうとしたら、友人が手紙を破り捨てる。何するんだ。問い詰めると答えた。
「この特徴的な瓶、思い出したよ。去年、産地偽装で潰れた日本の食品会社のものだ」
お題・産地偽装ボトルシップ
■2024年5月8日
「あなたの両親は交通事故で亡くなったから、親友である私たちが幼いあなたを育てることにしたの」今の親には感謝もしてる。
けど参ったな。図書館にて、二十年前の地方新聞で、両親は強盗に殺されたとある。
「本当の子供だと思って愛してるわ」果たして、どこまでが本当やら?
お題・嘘に隠された真実
■2024年5月8日
駅の忘れ物センターにて。やたら態度のでかい男が来た。
「おい、落とし物を出せ」
「どこで落とされましたか?」
「そんなことどうでもいい」
「何を落とされましたか?」
「アレだアレ。いちいち言わんと分からんのか」
職員は納得する。
「お客様がなくしたのは、一般常識ですね」
お題・あたりまえ遺失物
■2024年5月8日
誰も信じてくれないけどよ。夕方の空が真っ赤に染まる頃、夕日を吊るす糸が見えることがある。お日様てのは、あの糸に吊るされて動いてるんだよ、きっと。誰が動かしてるかって? そりゃあ天神様だろ。
そう考えると毎日毎日、お日様を吊るす仕事で、天神様も大変だな。
お題・夕垂
■2024年5月8日
何十年かぶりの帰省。過疎の島にあった、海沿いの小学校は既に取り壊されていた。
何となく砂浜に打ち上げられていた巻貝を耳に当てる。すると潮騒の音に混じり、子供たちの遊ぶ声が聞こえた。
潮だまりを見ると、小魚たちが並んで学校ごっこをしている。小学校の思い出はこの海に溶け込んでいる。
お題・貝の小学校




