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■2024年7月7日
ライ麦畑で子供たちが遊んでいる。その子供たちはライ麦畑の向こうに崖があることを知らない。僕はね、その子供たちが崖に落ちないよう捕まえる、そういう者になりたいんだ。
ちょっと待て。ガキども、捕まえてくれるからと全速力で走ってくる。一斉に来るな。おいこら、スライディングするな。
お題・スライディング畑
■2024年7月7日
玄関を開けた途端に、ドライヤーのような熱風が吹き付ける。無理だ、もう外へは出られない。玄関を開けたせいか、家の中も暑くなってきた気がする。
温風至。熱風の吹き始めというが冗談じゃない。既に本格的じゃないか。もう耐えられない。
私はこの夏、初めてクーラーを使った。ああ涼風が至る。
お題・温風至
■2024年7月8日
サラダを落としてしまった。べしゃっと道に広がるレタス。
しかしサラダとは不思議だ。生野菜を和えたものというが。カボチャもパスタもササミも、茹でないと食べられない。なのにパスタになる。
だとしたら、落としたこれも、まだサラダなのではないか。
「いやもうゴミだから、捨てなさい」
お題・道に落ちていたサラダ
■2024年7月8日
彼に結婚しようと言われ、隠していた過去を全て打ち明けた。心は変わらないという彼に、私は幸福より不安に襲われる。
ずっと重荷だった過去を、あっさり受け止められた。もしかして私の人生、大したことはなかったのだろうか?
けどこの疑心暗鬼だけば明かせないと、彼の前では笑顔でいるのだった。
お題・何もかも打ち明ければ
■2024年7月8日
ロマンス小説の影響で世は旅人ブーム。町には旅人志願が溢れた。
しかし実際に旅へ出ると話は違う。野盗に身包み剥がされる。水も食べ物も尽きる。今は狼に追い回されている。
おかげで分かった。旅人はこうして減るから、志願者か常にいるんだ。
まあ僕も今まさにあの世へ旅立ちそうなんだけどね。
お題・旅人ワナビ
■2024年7月8日
「バスに乗り遅れるな」「自分の畑が持てる」の大号令で親友は移民に行ってしまった。以来、音信はない。
後から新聞で、彼の地は極寒の荒野だと知った。十中八九、もう生きてはいないだろう。
飛び乗ったバスに、帰りの路線はなかった。騙されたのだ。俺は極寒の地で凍てついたバス停を想像した。
お題・氷のバス
■2024年7月9日
神殿には、大きな鍵穴のある扉が祭ってある。司祭いわく、いつか鍵を持つ救世主が、この扉を開ける。そして皆を楽園に導いてくれるそうだ。
好奇心に駆られた村の小僧は、人気がない隙に忍び込み、扉を押してみる。すると普通に扉は開き、単に向こう側が見えた。
小僧はそっと扉を直し戻ったという。
お題・旧弊の鍵
■2024年7月9日
キリンはどこまで首を伸ばせるか挑戦することにした。
キリンの首は山を越え、宇宙を越え、隣の星系まで到達した。
そこで出会った宇宙人に問われる。
「君が地球のヘビかい?」
「私はキリンだよ」
「だって手足がないじゃないか」
キリンは自分が大事なものを置き去りにしたと気づいたのだった。
お題・キリンの首どこまで伸ばせる
■2024年7月9日
安全課長からお話です。えー、先月は休業災害ゼロということで皆さんのご協力ありがとうございます。ですが現場での保護具不着用がまだ見られます。また整理整頓を心がけ、休憩場のポイ捨て、特に道具は元あった場所に戻す。先日も聖剣が床に置き忘れて、ちゃんと石の台座に突き刺していませんでした。
お題・元あった場所に戻す
■2024年7月9日
狼は母を食べてしまうと、今度は娘も食べることにした。しかし娘はまだ小さい。大きくしてから食べようと、皮をかぶり母のふりをして娘を育てる。
しかし数年後、大きくなった娘に狼は刺されてしまう。死ぬ間際、まさかと驚く狼に娘は言った。
「私は狼の娘だからね」
お題・マトリョーシカの狼




