2001~2010
■2025年8月22日
蘇生魔法には記憶の損壊という欠点がある。だからこの女性が本当に妻なのか、もしかして詐欺師なのか、私には分からない。だとしたら相当に狡猾だが、私は療養中の身。彼女へ素直に感謝を告げる。
夫は記憶に損壊があるらしい。まるで新婚の頃のような素直な態度。ズルいわ、惚れ直しちゃうじゃない。
お題・狡猾な復活
■2025年8月22日
母国が戦争をしているのは聞いていたが、僕も突然徴兵に取られた。さすがに訓練くらいあるだろうと思ったら、何もなしで連れて来られた最前線。僕は若い隊長に訊く。
「練習とかないのですか?」
「自分もやったことないなあ」
ああ、この国は滅びるのだなと悟った。僕もその頃にはいないだろう。
お題・練習したことのない出兵
■2025年8月22日
竹の絶滅した未来。天才科学者は幼い頃に遊んだ竹馬を忘れられない。そこでバイオ技術により、竹を復活させることにした。
結果、竹は復活したものの。中途で人類には早すぎる、危険な技術が幾つも発明された。おかげで社会は大混乱。
竹馬のために、人類は無理な背伸びをし過ぎてしまったらしい。
お題・竹馬
■2025年8月22日
彼はポーカーフェイスでいられない。すぐ表情に出てしまう。だから表情を極めて、変顔にしてみた。するとポーカーの試合は、にらめっこ大会と化す。あまりに面白い変顔で、試合相手は笑わずにいられない。こうして彼はチャンピオンになった。
彼と戦う相手はポーカーフェイスでいられない。
お題・ポーカー
■2025年8月23日
卒業式の空気を缶詰にして売る商売を思いついた。こいつが案外にヒット。私は成功者として、調子に乗っていた。
だがそんな商売、すぐ飽きられる。あっという間に売れ行き低迷。私は営業先で冷ややかにあしらわれた。
「そんな缶はもう卒業したんだよね」
無視される、私はまるで空気のようだ。
お題・卒業の空気
■2025年8月23日
八つぁんが頓知気を言い出した。
「オイラ長唄の先生になりたい」
「名人じゃないのか」
「あのくらい肩で風切る暮らしをしてみてえのよ」
「なら稽古しねえとな」
それから数日後。八つぁんが歌っている様子など見たことない。ただ何か威張ってる。
「何やってるんだい」
「肩で風切る稽古さ」
お題・先生になる稽古
■2025年8月23日
大きな街でたまに見かける、小人族の通称は「草原を渡る風」。
彼らは常に旅の中にいる。旅の中に産まれ、育ち、病み、死んで行く。一箇所に居つくことはない。
だから街に住む人間で、同じ小人族を見ることは二度とないだろう。風は吹き去り、二度と同じ風は吹かないのと同じで。
お題・グラスランナー
■2025年8月23日
初恋はいつだったかという話になった。
「思い出すに小学校の頃、隣のn子ちゃんかな」
「どんな子だったよ」
「とても親切でさ。まるで好きだった幼稚園の先生みたいで」
「おい、それ幼稚園の先生の方が初恋じゃないのか?」
「けどその先生も母にそっくりで優しくて」
この後、五人は遡った。
お題・初恋の発見
■2025年8月24日
はいっ、今回紹介する本はこちら。これねー、気の毒な本なんですよ。著者は何年もの取材をした末で書き上げたというのに、初版は誤字だらけ。クレーム殺到。おかげで宣伝時期を間違って売れなかったという。そして今回のゲストは著者さんです!
「それを当人の目の前で言うのが一番気の毒だよな?」
お題・気の毒な本
■2025年8月24日
環境の悪化した地球を脱出するため、人類は最後の総力でAIに宇宙船を建造させた。だが完成前に人類は絶滅。細胞一個の生命すら載ってない宇宙船は、外宇宙へ旅立つ。
そこで星を見つけると、AIは再び宇宙船を造る。これを繰り返し数万年後、全ての星々は宇宙船に置き換わり、銀河の消滅まであと僅か。
お題・滅亡からの脱出船




