1811~1820
■2025年7月7日
朝五時起床。夏至からは遠ざかったせいか、薄暗くなった。今のうちにと草刈り機のスターターを引く。
猛暑が来るのが早すぎた。太陽の出ないうちに草刈りをやらないと、倒れてしまうだろう。
けど今のうちなら、まだ令涼な夜気すら漂っている。あたらよ。まだ夜よ明けないでくれ。暑くなるから。
お題・あたらよ
■2025年7月7日
彼は歴史に残る名宰相。だがその正体は嘘つきの詐欺師だった。自分は一度も嘘がバレたことがない。ならばいっそ登り詰めてみようと、舌先三寸で宰相にまでなった。
そして渡された財務表は、腐敗で真っ赤な赤字。
「これをどうにかしろって? くそっ騙された」
彼は登り詰め、もうどこにも行けない。
お題・世界的な嘘つき
■2025年7月8日
好感度ナンバーワン、国民的スターに休暇の過ごし方をインタビューしたら、素顔は嫌味な奴だった。
「プライベートジェットでリゾート地へ、そこで美女をはべらすのさ。あっ、貧乏人には分からないか。ははは」
インタビューが終わり、俺は先輩に呟く。
「俺、個人的にはあいつ嫌いです」
お題・嫌味なプライベート
■2025年7月8日
憧れの人の足跡をずっと追ってきた。彼の足跡に、自らの足を重ね歩いていると、自分まで彼になったような気がする。
だが足跡は段々と薄く弱くなり、途切れてしまった。彼の旅はここで終わったのだ。
目の前には誰も歩いたことのない荒野。僕は彼の代わりに足跡を先に進めることにした。
お題・足跡
■2025年7月8日
進学したいと母に告白した。だが反対される。
「私の娘だからね。どうせ挫折するに決まってるさ」
それからの私は家を出て働き自分で学費を貯め、大学を出てやった。
私は卒業証書を見せつけると、母は泣き出す。
「娘が大学に行くのを諦めさせることもできない。挫折ばかりなのは私だけか」
お題・どうせ挫折する
■2025年7月8日
職人ギルドの縄張り意識には苦労させられる。何か作るにも、木工製品には木工ギルド、金物には金工ギルドの許可を取らないといけない。
そこで私は新たな発明をして、新たなギルドを立ち上げた。これで自由にやれると思ったら警告状が来た。
「親方ギルドに入らないとギルドの親方にはなれないぞ」
お題・ギルド組合
■2025年7月9日
入ったサークルには、妙な先輩がいた。最上級生も敬語を使い、誰も素性を知らない。人呼んで秘密先輩。
秘密先輩は僕が最上級生になっても、まだサークルにいた。そこで思い切って訊いてみる。
「先輩は何回生なんです?」
すると恥ずかしそうに明かしてくれた。
「入り直したから、君の後輩なんだ」
お題・秘密先輩
■2025年7月9日
祖父は今どき珍しくパイプを吸っている。それがまた素人目にも分かる見事な細工品。ぷかぷか浮かぶ煙を眺めていたら
「大人になったらやるよ」
「人の咥えたモンとか要らねえ」
「実はコイツ、国王陛下が戦時中に……」
えっ? と話の途中で黙られた。以来この話はぷっかり、宙に浮いたままだ。
お題・ぷかぷか
■2025年7月9日
我ら邪神の信徒。いつか世界を混沌に陥れるため活動している。だがそのためには人手が必要だ。人が増えると、意見も食い違う。
「混沌性の違いだな。我らは抜けさせてもらう」
今や教団は人間関係でぐっちゃぐちゃ。
世界の前に我らこそ混沌の中に突き落とされた。お前ら良心とかないのか。
お題・混沌の邪神教団
■2025年7月9日
ペットのハムスターが近頃デブってきている。そこで運動になるかと回し車を買ってやった。
だが初めて見る物。触ろうともしないハムスターを、こちらで乗せてやり、回してやった。これで遊び方も分かっただろう。
以来、私はハムスターを回し車に乗せて、回してやっている。
「そう理解したかあ」
お題・車輪の発明




