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■2025年3月6日
義母は人の食べ残しを冷蔵庫で保存するという、おせっかい癖がある。
「食中毒とかあるし、やめて下さい」
「申し訳ないね、毎度忘れちゃって」
ボケが来だしたのかしら? と思ったら義母はICレコーダーを取り出し、再生した。私の声だ。
「忘れないよう、アンタのおせっかいを保存しといたよ」
お題・おせっかい保存
■2025年3月6日
道の途中、男が泣き崩れていた。どうしたのか訊くと、こう答える。
私の人生は虚栄に囚われてきました。そのために人を傷つけてきた。だがそんなのは無駄だと、「あれ」と出会い知ったのです。だが今さら遅い。私はなぜ、早く「あれ」と会えなかったのか。
と白髪の男は「老い」のことをそう呼んだ。
お題・遅い出会い
■2025年3月6日
愛する彼女が自殺した。なぜだと悲しむ僕にバースデーカードが届く。生前の彼女からだ。これが彼女から最後の贈り物かと中身を読む。
「あなたみたいなDV野郎には、もう疲れました。これからは依存する相手もなくなります。ちゃんと自立して生活して下さい。私の最期がお前への誕生日プレゼントだ」
お題・最後の贈り物
■2025年3月6日
神殿には人食いの獣が棲む。だが余りの巨体で、エンタシスの柱が檻となり出られない。そこで村では一年に一度、餌として子供を捧げるのだ。
餌に選ばれた子は長老に問うた。「僕は生贄になるんだね」
すると長老は否定する。「生贄はあの獣の方だ」
ならば神は何を求めて。子の疑念は噛み砕かれた。
お題・生贄の獣
■2025年3月7日
私はメンタル変形人間! 後悔する気持ちに変形機構を有し、どんな嫌なことがあっても、すぐ忘れてしまうのだ。
と彼女に明かしたら「だから貴方は絶対に反省してくれないのね」と別れられた。
ああ、人から叱られている時に、ふざけるんじゃなかった。こんな自分はもう変えないとなあ、と後悔する。
お題・可変後悔
■2025年3月7日
犬も歩けば棒に当たる。ことわざは真実なのか、社会実験を行うことにした。往来に棒と、比較として球体を設置する。
すると確かに棒には犬ばかりが当たり、球体には猫が突撃した。なるほど、だから猫はタマと名づけられるのかもしれない。
……だとしたら、太古において棒にはポチという名があった?
お題・ポチも歩けば棒に当たる
■2025年3月7日
結婚とは家同士のもの。彼女は兄と婚約し、ずっとお似合いと言われていたが。軍人の兄は戦死。代わりに弟の僕と結婚することになった。
気の毒に、という周囲のひそひそ話。だが僕らはやっと結ばれたねと抱き合う。
結婚とは家同士のもの。彼女と結婚するために、僕は「長男」になったのだ。
お題・代わりの結婚
■2025年3月7日
婚約者として公爵令嬢を紹介されたが。彼女は常に仮面をかぶった仮面令嬢。誰も素顔を見たことはない。
まあ私も王子と言っても末席だ。どんな変わり者でも断れない。それに所作については華麗じゃないか。
と思ったら刺客に襲われた際、彼女が拳ひとつで追い払ってしまった。こいつ猫かぶってたな。
お題・仮面令嬢
■2025年3月8日
もうじき卒業式。僕らは上級生を送る練習をする。送辞、歌、そして捕縛。
卒業式を迎えた上級生は、「出荷」されてしまう。逃げられると学校の儲けが少なくなるから、一人も逃さないようにしないと。
僕らもいつか卒業するまで。より良い毎日を過ごせるよう、卒業生には犠牲になってもらわないとね。
お題・日常からの卒業
■2025年3月8日
好き勝手にDNA改変が可能な時代。あるコウモリに改変をリセットできる成分があると分かった。
「我が社に売ってくれ」
「しかし、これがあると社会は余計に混乱し……」
「ええい、のらりくらりとコウモリ野郎が。ならば金を倍にしよう」
「どうぞどうぞ」
「さっきまでの態度をリセットしやがった」
お題・リセットコウモリ




