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■2024年3月6日
勇者は試練の果てに秘宝、天翔る靴を手に入れた。空を飛ぶのは子供の頃からの夢。彼はさっそく靴を履いて、空を飛んだ。だが実はその靴とは、天翔るのではなく、地を歩けない靴だった。勇者は霊峰よりなお高く、星の向こうで枯れ死んで帰れなくなった。
お題・天翔る靴
■2024年4月7日
「へえ、この世界にもサンドウィッチがあるんだ」
「サンドウィッチ伯爵が考案した料理でね」
「それは偶然の一致」
「伯爵は騎士として、敵軍を挟み撃ちにしたことから、サンドウィッチの家名を名乗るように」
「待て待て待て」
お題・異世界サンドウィッチ
■2024年4月10日
「デート中なのに、他の女とか見ないでよ」
「ごめんごめん」
彼はずっと上の空だった。
「今度の大会でさ……」
見ているのは、さっきの女性でも、きっと自分も目に入ってない。
「プロチームからお呼びが……」
彼の目にはもう、自分の手が届かない、ずっと遠くの未来しか見えてなかった。
お題・目線の先には
■2024年4月13日
「俺は何があっても、絶対にこのダンジョンを踏破する!」
「言い忘れてた。実はここ、誰一人帰ってないんだ。まあ頑張れよ」
「暗闇に入る前から、お前はまたそんな冷や水かけるようなことを」
お題・一寸先は冷や水
■2024年4月13日
「窮鼠猫を噛むというが、今の貴様がまさにその窮鼠だな」
「いきなり猫が出てきたので噛みついたら、歯が外れなくなった。困ったぞ」
「噛みついてから困るな」
お題・窮鼠猫を噛む
■2024年4月10日
連れが唐突に大声を出した。
「うわーっ、あれ見たか。凄かったな!?」
「え、何?」
「おいおい見過ごしたのかよ、UFOがあんな派手に」
「UFO? おいおい、昼から夢を見過ぎだろ」
お題・見過ごした瞬間
■2024年4月11日
「旅行の準備は大丈夫? 着替えは? 財布は? 一寸先は闇なんだから、変な人にはついて行かないのよ。それから……」
「そんな厳重に釘を刺さなくても」
お題・一寸先は釘
■2024年4月12日
「転ばぬ先のナントやらと言うだろう」
と彼は杖から手を離した。倒れた杖は分かれ道の右を指している。
「よし、こっちに行くぞ!」
「もしかして、このためだけに杖を買ったの!?」
お題・転ばぬ先の杖
■2024年4月12日
街角で昔の級友に会った。
「やあ偶然」
「あなたは気づかなかったみたいだけど、こないだも会ったわよ」
と言われたのがショックだった。
もしかして自分が気づかないだけで、もっと多くの誰かとすれ違っていたのかもしれない。
この都会では皆、忙しそうにして、多くを見落としている。
お題・すれ違う街角
■2024年4月12日
親父から傾いた会社を継いで十数年。ようやく経営が軌道に乗った。
「ともかく良かったじゃない」
と妻は言うが納得しづらい。会社の景気が良くなったのは、私の努力ではない。単なる幸運なのだから。
ぼたもちを食べるのが、男としてこんな恥になるとは思いもしなかった。
お題・棚から男の恥